置いておくという書き方

自分の気持ちや考え、さっき起きた出来事について。

書くという行為を通して、私たちは誰かに、何かを伝えようとする。

そして、私が書くとき。たいていは、「置いておく」という感覚に近い伝え方をしようとしている。

今すぐ世界を変えたいとか、特定の誰かに伝えようという気持ちではなく、いつか誰かが、時が来たとき、これが読みたかったと思えるような記事を。言葉を。

このだだっ広いインターネットの海で、見つからないかもしれないけれど。なるべく見つかるように、時がきたその瞬間に備えて頭の隅に残してもらえるように、置いておく。


対局にあるのは、バズるライティングだと思う。

世の中の潮流を読んで、その瞬間に花火をあげて、より多くの人に見てもらえるよう工夫を凝らす書き方。勢いと、綿密さで、頭に描いた誰かに刺しに行く書き方。

マス広告における「書く」も、その一つかもしれない。テレビCMは放映期間が終われば忘れ去られるし、ポスターも外されてしまう。だから人の目に触れられるそのうちに、少しでも見てもらえるように、頭に残って思い出してもらえるように、思い出せなくても何かしら影響を与えられるようにと頭をフル回転させる。


だからといってコピーライターの仕事が全て「刺す書き方」というわけでもなく、会社のビジョン・ミッションや、サービス名を考えることは、置いておくの書き方に近い。

会社がビジョンやミッションを制定するとき、その瞬間にビジョンやミッションが必要なことは少ない。なぜなら、最初からいるメンバーは直接創立者の思いを知っているし、やる気にみなぎっている。

方向性を確認したり、自分たちの存在意義に迷ったりすることは、もう少し先だ。新しいメンバーが入ってきたときや、今までのままだと雲行きが怪しいぞとなったときに、初心に立ち戻りたくなる。

そう、そのときのために、言葉をおいておく。ふわっとした最初の頃の空気を、言葉で定義して、形にしておく。


自分の中で大切だなと思ったこと。うまく説明できないけれど、言葉にしたい、書きたいと思ったこと。

それはきっと、いつか似た状況で悩む人、あなたの視点を必要とする人のために、置いておくべき言葉なんだと思う。

誰に向かってとわからずとも、自分の話をして、そしてそれが、いつか誰かの役に立ったらいいなって。そんなスタンスで、指を走らせていい。

私がここまで歩いてきた道に、言葉をおいていく、そんな生き方。

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