【レビュー】夜のことば9
関西を拠点に活動するユニット・セレノグラフィカ(阿比留修一、隅地茉歩)と、ダンサー・美術家の升田学による毎年恒例のプロジェクト。今年も、旧岡田家住宅の座敷と酒蔵で上演された。筆者は座敷公演を鑑賞した。
毎年、3作品ずつ上演する。作品の展開はすべて非論理的で連想的だ。前回の公演のラストシーンが、今回の冒頭になる。電車のパンダグラフが付いたキャップを被った阿比留が、線路を模した色とりどりの毛糸を敷く。やがて、阿比留は雲の形にまとめた白い綿をいくつか並べ、座敷に天空を創造する。そこに、升田が雲の間を縫うようにスローモーションの移動や、喪服に身を包んだ阿比留と隅地によるデュオを展開していく。
次に、綿に緑の布を掛け、雲は山へと変わる。動物の鳴き声が響く中で、升田と隅地は猫や猿の仕草で、空間を徘徊する。雲は、山へと変容する。やがて、2人は抱えていた巾着袋からクマのぬいぐるみ(シナモンとジンジャーと名付けられている)を取り出し、可愛らしいダンスを披露する。
最後の作品は、演劇的だ。休憩時間で座敷に座って他愛もない話しているらしい阿比留と升田。すると、客席側から一言も発しない謎の女(隅地)が訪ねてくる。女は男たちに暗示を掛け、ユニゾンを展開する。四つん這いになって四方を回転する。展開をもって、びっくり返された団子虫のような、手足の蠢き。シュールな振付を真剣な眼差しで空間に刻んでいく。これほどの熱量を持って座敷で踊る情景が面白い。やがて、女は姿を消し、夢から覚めた男たちは仕事に戻ろうとしたが、その時、女が再び現れ……。
3人は身体性を変化させ、さらに小道具によって空間にさまざまな風景を立ち上げる。正直にいえば、冒頭から中盤にかけて「なぜここでやるのか」という違和感があった。しかし徐々に薄れ、すべてが場に馴染んでいく。座敷はすべてを受容し、調和をもたらす。この感覚が面白い。
それは、場所が大いに関係しているだろう。本来、座敷は多目的な場所である。机を置けば居間となり、布団を敷けば寝室になる。冠婚葬祭など儀式の場にもなるし、一部の神楽も座敷で行われる。座敷には多様性が内包されているのだろうか?
もうひとつ重要な要素は、小道具による「見立て」である。毛糸は線路になり、綿は雲になったかと思うと、山へ変容する。見立て調和に大きな役割を果たしている。『夜のことば』とは、実に日本文化とかなり密接した作品である。
ユーモア溢れるダンスと、小道具によって立ち上げる様々な情景を、いかに座敷や酒蔵という場に馴染ませるかの試みが『夜のことば』なのだ。果たして来年はどんな景色が浮かび上がるのか今から楽しみだ。
DETA
日時
2024年5月31日(金)19:00~
6月1日(土)14:00~、19:00~
会場
市立伊丹ミュージアム 旧岡田家住宅・座敷/坂蔵
構成・演出
升田学と、セレノグラフィカ
振付
セレノグラフィカ
出演
セレノグラフィカ、升田学、シナモン、ジンジャー
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