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【0013】えむしたのこと「あそこまで弱いと思っていなかった」

 えむちは、そんなカンナさんに心酔していた。
 発声練習のためにここへ通い詰め、あまりに居座りすぎるので、バイト代がわりに本格的なコーチングをせざるを得なくなったと嘆いていた。でも、みるみるうちに上達していくえむちのことを、少なからずカンナさんは目に見えて可愛がっていた。えむちのおこぼれでわたしまで歌を見てもらえるようになって、二人の声質の相性を褒められた。それでますます、えむちのなかのユニット欲に火がついたような気がする。それでもやっぱり才能はえむちの方が断然あって、わたしは金魚のしっぽのおまけにすぎなかった。

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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。

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