29.20 微分の初歩(多項式と重根)
(無料公開)n次関数に関する発展的な話はこれが最後で、次回からは積分の話をします。
多項式に形式的微分を導入すると、重根について議論することができます。受験数学のテクニックとして教えられたりしますが、この話自体は大学以降の数学の代数(環またはガロア理論)で登場します。
本来、多項式には連続性などがないので微分を考えることはできないのですが、形式的に微分を導入します。
形式的微分
n次多項式
$${f(x)=ax^n+bx^{n-1}+cx^{n-2}+\cdots+dx+e}$$ ($${a, b, c, d, e}$$は定数)
に対して
$${f'(x)=nax^{n-1}+(n-1)bx^{n-2}+(n-2)cx^{n-3}+\cdots+d}$$
を多項式$${f(x)}$$の導多項式といい、$${f'(x)}$$を求めることを形式的に微分するといいます。単に、微分するともいいます。このように定義するとn次関数の微分で紹介した次の公式が成り立ちます:
$${(f+g)'=f'+g', \quad (cf)'=cf'}$$
$${(fg)'=f'g+fg', \quad (f^n)'=nf^{n-1}\cdot f'}$$
$${((ax+b)^n)'=na(ax+b)^{n-1}}$$
ここで、$${f, \: g}$$は関数、$${n}$$は正の整数、$${a, b, c}$$は定数です。
数学用語の確認
このノートを読んでくれている人には耳にタコができるかもしれませんが、根と解について確認します。
方程式$${P(x)=0}$$に対して$${P(\alpha)=0}$$を満たすとき、$${\alpha}$$を方程式の根または解といいます。多項式$${P}$$に対して$${P(\alpha)=0}$$となる$${\alpha}$$を多項式の根といいます。
※ 解は方程式にしか使えませんが、根は多項式にも使えます。
根と解の違い
例1 方程式$${(x-2)^3(x+1)^2=0}$$に対して
解は$${2, \: -1}$$の2個ですが、根は$${2, \: 2, \: 2, \; -1, \:-1}$$の5個です。ふつう根は$${2 \: (3重根), \:\: -1 \: (2重根)}$$と書きます。
例2
2次方程式の判別式Dが正 $${\iff}$$ 2つの実数解をもつ
2次方程式の判別式Dが正 $${\iff}$$ 相異なる2つの実数根をもつ
2次方程式の判別式Dが0 $${\iff}$$ 実数解を1つもつ
2次方程式の判別式Dが0 $${\iff}$$ 重根をもつ
相異なる2つの実数解とか重解という表現はおかしいのです。用語を減らしたいためだと思うのですが、学習指導要領を変更して解に統一してしまいました。だから、馬から落馬したり、頭痛が痛くなったり、募集しても募ってなかったりするのです。もとの用語に戻るかはまだ未定です。
「根」を用いれば、代数学の基本定理がすっきりした形で言えます。
定理 n次方程式はちょうどn個の根をもつ.
多項式と重根
多項式$${f(x)}$$に対して次が成り立つ:
$${\alpha}$$が$${f(x)}$$の重根である $${\iff}$$ $${\alpha}$$が$${f(x), \: f'(x)}$$の共通根である
$${\iff}$$ $${f(\alpha)=0, \: f'(\alpha)=0.}$$ ▮
注:もちろん、多項式をn次方程式としても成り立ちます。
2つ目の同値記号は、単に、言い換えです。
証明を後回しにして、どのように使えるかを2例紹介します。
例3 多項式$${P(x)=x^3+x^2+ax+b}$$が$${(x-1)^2}$$で割り切れるとき、定数$${a, b}$$の値を求めよ。
解答例 多項式$${P(x)}$$が$${(x-1)^2}$$で割り切れるということは,$${x=1}$$を重根にもつということなので,$${P(1)=0, \: P'(1)=0}$$であることが必要かつ十分である.
したがって
$${P'(x)=3x^2+2x+a}$$より,$${5+a=0}$$.
$${P(x)=x^3+x^2+ax+b}$$より,$${2+a+b=0}$$.
これを解くと
$${a=-5, \: b=3.}$$ ▮
例4 多項式$${P(x)}$$を$${(x-2)^2}$$で割ると$${3x-5}$$余り、$${x-3}$$で割ると6余るとき、$${P(x)}$$を$${(x-2)^2(x-3)}$$で割った余りを求めよ。
解答例 $${P(x)}$$を$${(x-2)^2}$$で割ると$${3x-5}$$余るので,商を$${Q(x)}$$とすると
$${P(x)=(x-2)^2Q(x)+(3x-5)}$$・・・①
と書け,この式から次の条件を得る.
$${P(2)=1}$$.
①を微分すると$${P'(x)=2(x-2)Q(x)+(x-2)^2Q'(x)+3}$$より,条件
$${P'(2)=3}$$
を得る.さらに$${P(x)}$$を$${x-3}$$で割ると6余ることから、条件
$${P(3)=6}$$
を得る.
$${P(x)}$$を3次式$${(x-2)^2(x-3)}$$で割った商を$${D(x)}$$, 余りを$${ax^2+bx+c}$$ $${(a, b, cは定数)}$$とおくと
$${P(x)=(x-2)^2(x-3)D(x)+(ax^2+bx+c)}$$
と書ける.このとき
$${P'(x)=2(x-2)(x-3)D(x)+(x-2)^2D(x)}$$
$${+(x-2)^2(x-3)D'(x)+(2ax+b).}$$
したがって,3条件$${P(2)=1, \: P'(2)=3, \: P(3)=6}$$より
$${4a+2b+c=1, \: 4a+b=3, \: 9a+3b+c=6}$$
を解くと
$${a=2, \: b=-5, \: c=3.}$$
よって求める余りは
$${2x^2-5x+3.}$$ ▮
注意
高校生および受験生が記述式テストでこれを使うのはお薦めできません。記述ミスで減点される可能性が高いからです。
重根に関する性質の証明
多項式$${f(x)}$$に対して次が成り立つ:
$${\alpha}$$が$${f(x)}$$の重根である $${\iff}$$ $${\alpha}$$が$${f(x), \: f'(x)}$$の共通根である ▮
証明(⇒) $${\alpha}$$が$${f(x)}$$の重根であることから
$${f(x)=(x-\alpha)^2g(x)}$$・・・① ($${g(x)}$$は多項式)
と書けるので
$${f(\alpha)=0}$$・・・②
を得る.①を形式的に微分すると
$${f'(x)=2(x-\alpha)g(x)+(x-\alpha)^2g'(x)}$$
となるので
$${f'(\alpha)=0}$$・・・③
を得る.②, ③は$${f(x), \: f'(x)}$$が共通根$${\alpha}$$をもつことを意味する.
(⇐)$${f(x), \: f'(x)}$$の共通根を$${\alpha}$$とすると
$${f(\alpha)=0, \: f'(\alpha)=0}$$
である.$${f(\alpha)=0}$$に因数定理を適用すると
$${f(x)=(x-\alpha)g(x)}$$・・・④($${g(x)}$$は多項式)
と書ける.形式的に微分すると
$${f'(x)=g(x)+(x-\alpha)g'(x).}$$
$${f'(\alpha)=0}$$より
$${0=f'(\alpha)=g(\alpha)+(\alpha-\alpha)g'(\alpha)=g(\alpha).}$$
つまり $${g(x)}$$は$${\alpha}$$を根のもつので
$${g(x)=(x-\alpha)h(x).}$$・・・⑤($${h(x)}$$は多項式)
④, ⑤より
$${f(x)=(x-\alpha)^2h(x)}$$
となるので,$${x=\alpha}$$を重根にもつ.▮
より一般的な話
重根というのは2重根,3重根, … n重根の総称です。なので上で示した重根というのは2重根とは限りません。
はっきりさせたいのなら次のような命題があります。
命題 $${\alpha}$$が多項式$${f(x)}$$の$${r}$$重根である
$${\iff}$$ $${f(\alpha)=f'(\alpha)=f''(\alpha)=\cdots =f^{(r-1)}, \:\: f^{(r)}\neq 0.}$$ ▮
この命題を示すには、次の補助命題を使うとよいです。
補題 $${\alpha}$$が多項式$${f(x)}$$の$${r}$$重根であるならば,$${\alpha}$$は$${f'(x)}$$の$${r-1}$$重根である.▮
一般の場合を示さずとも、命題において2重根の場合を示せれば、一般の場合も分かると思います。興味があれば考えてみてください。▢
ここから先は
中学数学と高校数学の違いが明確になるのはここからです。これまで学んだ多くの知識を踏まえて話が展開するので理解するのは容易くありません。でも…
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