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29.19 微分の初歩(積の微分公式)

n次関数に関する発展的な話の4/5回目です。(無料公開)
今回は覚えておくと便利な微分公式です。具体的には$${y=(2x+1)^3}$$の形の微分です。この結果を積分計算でも使いたいのです。


先に、今回扱う公式を紹介します。
    ①  $${(fg)'=f'g+fg', \: (fgh)'=f'gh+fg'h+fgh'}$$
    ②  $${(f^n)'=nf^{n-1}\cdot f'}$$
    ③  $${((ax+b)^n)'=na(ax+b)^{n-1}}$$
ここで、$${f, \: g, \: h}$$はn次関数、$${n}$$は正の整数、$${a, \:b}$$は定数です。


理屈を後に回し、公式③の使い方を紹介します。

公式③の使い方

 関数$${y=(x+3)^2, \: y=(2x+1)^3 \quad (x\in \mathbb{R})}$$を微分してみます。

 $${y'=2\cdot 1(x+3)=2(x+3)}$$,  $${y'=3\cdot 2(2x+1)^2=6(2x+1)^2}$$


公式を知らなければ展開してから微分しますが、ここでは忠実に③の公式に当てはめて計算しました。$${x^n}$$の微分のように計算してから$${x}$$の係数を掛けています。これで分かるのならいいのですが、私自身はこのように計算していません。

公式③は教科書でも問題の形で紹介されます:

    関数$${y=(ax+b)^2}$$を微分すると、$${y'=2a(ax+b)}$$
    関数$${y=(ax+b)^3}$$を微分すると、$${y'=3a(ax+b)^2}$$
   となることを証明せよ

という具合です。

この公式が覚えられなかったのですが、数学Ⅲを学んだときに修得できました。公式②の使い方が分かりやすいからです。

公式②の使い方

$${(f^n)'=nf^{n-1}\cdot f'}$$は、関数$${f}$$の$${n}$$乗を微分するには$${x^n}$$の微分のように計算してから$${f}$$の微分を掛けなさい、といっています。これにしたがって上と同じ問題を微分してみます。

まず、$${y=(x+3)^2}$$を微分してみます。
    $${y'=2(x+3)\cdot (x+3)'=2(x+3)\cdot 1=2(x+3).}$$

次に、$${y=(2x+1)^3}$$を微分してみます。
    $${y'=3(2x+1)^2\cdot (2x+1)'=3(2x+1)^2\cdot 2=6(2x+1)^2.}$$

上と比べ、こちらの方が分かりやすくありませんか。実際に計算する場合はここまでていねいには書きません。全体を微分して中身を微分したのを書いて、最後の式を書きます。
公式②の良いところは、$${y=(x^2+x+3)^2}$$にも使えることです。実際に微分してみると

    $${y'=2(x^2+x+3)\cdot (x^2+x+3)'=2(x^2+x+3)(2x+1)}$$

となります。いまはn次関数ですが、一般の関数で使うことができます。これについては高校数学Ⅲ以降で合成関数の微分として学びます。


公式③は公式②から得られ、公式②は公式①から得られます。公式①の第2式は第1式から得られます。公式①の第1式は定義に基づいて導きます。
公式②から③を導くのは、上と同じように計算するだけなので各自で確認してください。


公式①から②の導き方

まずは公式①の解説です。
     ①  $${(fg)'=f'g+fg', \quad (fgh)'=f'gh+fg'h+fgh'}$$

みなさんはどのように捉えますか。一見複雑そうな公式ですが、関数の積の形の微分はいずれか1個だけ微分したものを足したものになっています。

 4つの関数の積$${fhgk}$$の微分公式を書いてみてください。


答え $${(fhgk)'=f'hgk+fh'gk+fhg'k+fhgk'}$$
  関数が4つあるので、$${fhgk+fhgk+fhgk+fhgk}$$と書いてから、左から順に微分記号 $${'}$$ を1つずつ書き入れれば完成です。

これで公式の形が理解できたと思いますので、公式①から②を導きます。

  $${(f^2)'=(ff)'=f'f+f'f=2ff'}$$
  $${(f^3)'=(fff)'=f'ff+ff'f+fff'=3fff'=3f^2\cdot f'}$$
帰納的に
  $${(f^n)'=(fff\cdots f)'}$$
     $${=f'ff\cdots f+ff'f\cdots f+fff'\cdots f+\cdots +fff\cdots f'}$$
     $${=nf^{n-1}\cdot f'}$$
となります。
※ 「帰納的に」というのは、2, 3 の場合から類推できるようにという意味で使っています。数学的帰納法のようにと捉えると分かると思います。


公式①の第1式から第2式の導き方

  $${(fgh)'=\big((fg)h\big)'}$$    ◀第1式を使うための工夫
     $${=(fg)'h+(fg)h'}$$    ◀第1式を使った
     $${=(f'g+fg')h+(fg)h'}$$    ◀第1項に第1式を使った
     $${=f'gh+fg'h+fgh'.}$$ ▮    ◀括弧を外した

第2式を使えば $${(fhgk)'=f'hgk+fh'gk+fhg'k+fhgk'}$$ も示せます。
こうして数学的帰納法によって、$${n}$$個の関数の積に関しても示せます。これは各自で確認してください。


公式①の第1式を導く

$${(fg)'=f'g+fg'}$$ を導関数の定義に従って計算します。ここで想定している関数$${f, \: g}$$はn次関数です。これにより、微分可能かつ連続を仮定しています。

$${p(x):=f(x)g(x)}$$と置いて、平均変化率$${\dfrac{\:p(x+h)-p(x)\:}{h}}$$を計算する。

  $${\dfrac{\:p(x+h)-p(x)\:}{h}}$$

 $${=\dfrac{\:f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)\:}{h}}$$

 $${=\dfrac{\:f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x+h)+f(x)g(x+h)-f(x)g(x)\:}{h}}$$

 $${=\dfrac{\:\big(f(x+h)-f(x)\big)g(x+h)+f(x)\big(g(x+h)-g(x)\big)\:}{h}}$$

 $${=\dfrac{\:f(x+h)-f(x)\:}{h}\cdot g(x+h)+f(x)\cdot \dfrac{\:g(x+h)-g(x)\:}{h}}$$

ここで$${f, \: g}$$の微分可能性と連続性を利用すると

 $${\to f'(x)g(x)+f(x)g'(x).}$$ ($${h\to0}$$のとき)

よって
      $${\big(f(x)g(x)\big)'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)}$$
が成り立ちます。
※ 計算の途中で巧みな計算をしていますが、これは結論(示したい式)が分かっているからです。こういう変形に気づくようなら、非凡だと思います。


おまけ
積の微分公式を使うと $${y=(x+2)^3(x-1)^2}$$ も展開することなしに微分できます。

 $${y'=\big((x+2)^3\big)'(x-1)^2+(x+2)^3\big((x-1)^2\big)'}$$
  $${=3(x+2)^2\cdot (x-1)^2+(x+2)^3\cdot 2(x-1)}$$
  $${=(x+2)^2(x-1)\big(3(x-1)+(x+2)\cdot 2\big)}$$
  $${=(x+2)^2(x-1)(5x+1).}$$


※ 積の公式が活躍するのは三角関数や対数関数などを微分するようになってからです。n次関数を扱っているうちは、展開して微分した方がらくに計算できます。


「公式①から②の導き方」、「公式①の第1式から第2式の導き方」で紹介した考え方は高校数学ではほとんど使いませんが、大学以降の数学ではよく使います。帰納的というのもよく使います。これらは数学書を読むようになり、実際に使うようになってから身に着くものだと思います。▢

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これまでもそうですが、大学以降の数学を意識して書いています。特に有料部分はそれを意識して書いています。このマガジンから数学の内容が少し高度になり、このマガジンに入る三角関数、指数・対数関数、微分積分の入口は中学数学から大学以降への移行期に相応しいものです。

中学数学と高校数学の違いが明確になるのはここからです。これまで学んだ多くの知識を踏まえて話が展開するので理解するのは容易くありません。でも…

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