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【Day1.夕涼み】駅員だって人間だもの【文披31題】

 とあるどこかのベッドタウン。その一地区を形成するのがこの峰屋駅。ガラス張りの駅舎に、お盆を過ぎてもなお強烈な西日が、さんさんと降り注いでいた。

 新入社員として、この峰屋駅に5月に配属され、机上教育などの日勤をこなしつつ、先生役の先輩と共に、営業Aという担当での見習いをこなすこと10回。泊まりだから10日というカウントではない。会社の中では10徹というカウントをするらしいが。

 見習いから解放されたと言って、駅の仕事が完璧だという訳ではない。見習い中に遭遇しなかった事象なんて山の様にある。同期とのラインは「こういうことあったんだけど!」「先輩がこれ教え忘れてたって!」そういう話で持ち切りだ。同期が先に共有してくれていたおかげで、今日は精算の間違いをせずにすんだ。「助かったわ」とリプライをとばし、通用門から駅の外へ出る。涼しいとはいいづらいが、直射日光でサウナと化したコンコース、真逆で冷房キンキンの事務室から出た直後は過ごしやすい。
駅を出たのは夕食と、明日の朝食の買い物だ。買いに行く先は、昔のキオスクから提携先に変わった駅ナカのコンビニか、ロータリー前のコンビニか、さらに少し離れた場所にある地元スーパーのいずれかだ。ただ、俺は雨でない限り、必ずスーパーまで歩くようにしている。コンビニのごはんが高いのもその理由の一つだが、スーパーまでの道のりと、そこでの買い物の時間が仕事を忘れるのにちょうどいいのだ。見習い中と違って休憩も1人。大きな駅では、人が多く休憩が被ることもあるそうなので、そういう意味で、この駅の規模感は気楽で助かっている。

スーパーの軒先に着くや否や、かご盛りのトマトが安くなっているのを見つけてしまった。家のために買って帰りたいけど、休憩室に置きづらい。青果コーナーは足早に通り過ぎ、総菜売り場とパンコーナーで用を済ませる。ラッシュタイムを空腹で乗り切れるなら、次の休憩でおつとめ品を狙うんだけど。

駅の休憩室に戻り、買ったばかりのお弁当(本日お買い得のあなご飯弁当)を温め、食べる。食べ終わっでもしばらくスマホを眺め、休憩残り10分の所で歯を磨き、トイレを済ませる。あ、容器も捨てなきゃ。そこで、ゴミ箱を開けると、H社の高級アイスクリームのゴミがちらっと見えた。
誰だよ、いいアイス食べてるのは!!!当直か!?あと二人泊まり勤務のどっちの先輩かな!?1人でこっそり食べて……!
いや、待て。おつとめ品ばかり捨てようものなら、逆にあいつ大丈夫か? ってなる可能性があるのか。そんなことを考えながら、休憩室から事務室へと戻る。

「お先でしたー」

【今日の登場人物】
牧田 俊(マキタ シュン)
一応このシリーズの三人いる主人公の一人。新入社員。大卒。メガネ。弟が二人、妹が一人いる。実家暮らし。

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