見出し画像

【Day.11錬金術】鉄道員だって人間だもの【文披31題】

 とあるどこかのベッドタウン。その一地区を作る峰屋駅。
 毎月実施される勉強会が、ここ数日にわたって、管理駅である峰屋駅の会議室で開催されていた。今月のテーマはコンプライアンスだという。基本的には泊まり明けの超勤で参加するが、日勤がタイミングよく入って、他に急ぎの仕事がなければそこで参加することもある。今日は七緒が泊まり明けで、マッキーが日勤で参加していた。私は昨日の泊まり明けで参加していた。だから、始まる前に七緒とマッキーにテストとかないから、気楽に受けれる回だよ、と伝えていた。始まって一時間くらい経つし、そろそろ戻ってくるかな?

 「お疲れさん。」
 マッキーが戻ってきた。
 続いて他の駅在勤の人達がスーツで帰っていこうとするのだが、様子がおかしい。
 「次の電車もう来る!早く行くぞ!」
 「今日は先輩たちがなんでもおごってやるから!」
 「高卒だからまだパチンコとか行ったことないよな?」
 うちの泊まり明けのメンバーが着替えるのを待っていたのだろう、そもそも人数が多い。そしてやかましい。何が起こったのだろうか。
 行列の最後で七緒をもみくちゃにしながら、皆さん駅事務室を出ていった。
 「マッキー、これは……?」
 「聞く?」
 「そりゃもちろん。あの勉強会の内容でそんな盛り上がることがあったとは思えないのよ。」

 
 そこから俺は今日の勉強会について、伊藤に話した。様々な不祥事の事例についてのビデオ教材を見て、ワークシートに書きこんでいき、その内容をみんなで共有するという、よくある構成の回だ。具体的な内容としては、遺失物の着服・転売、乗車券の不正払戻し、あとえーっと何があったかな。もう一つくらい内容があったはずなんだけど。伊藤は既に受けているから、話が早い。そうそう、盗撮盗撮。他のと毛色が違うから忘れてた。
 で、ビデオを見て「なぜそんなこと、盗撮・着服・不正払戻しをしてしまうのだろうか」みたいな内容を書いて、指された順に回答してったの。「社会人の自覚がない」とか「目先の欲に目がくらんだ」とかね。「ばれないと思った」やっぱり出た? で、七緒の番がやってきて、何を言ったと思う?
 
 「普段もらってる給料が少ないから」

 それを聞いて伊藤は口をぽかーんと開けていた。
 そう、一同しーーーん、よ。でも確かにそう、満足できる給料をもらってたら、色んなリスクとってまで不祥事起こさないよなって話で。新入社員でそれを言うってのがまたシュールで。それを先輩方が「よく言った!」と、その後どっかーんと盛り上がって、ああなったと。

 七緒、おいしいポジションゲットしたよなー、俺はめんどくさそうだからいいけど。てか無理だし。ああはなれないって。あ、そろそろ伊藤ちゃん休憩じゃない? うん、行ってらっしゃい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?