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【Day.8雷雨】鉄道員だって人間だもの【文披31題】

 とあるどこかのベッドタウン。その一地区を形成する峰屋駅。夕方の休憩でいつものように、スーパーへ向かった帰り、どす黒い雲が上り方面の空に見えた。うーわと思った。駅員になってまだ数か月の人間が言うのも何なのだが、鉄道の仕事は何もなければ何もないのがほとんどだと言える。ああいう不安要素はない方がいいに決まっている。そわそわしながら夕食を食べ、歯磨きを済ませ、SNSを眺めて休憩終わり。事務室へ向かう。これからラッシュ時間ということで、改札ときっぷ売り場がつながった窓口は営業Aの俺とBの三宅先輩の二人体制だ。
 「三宅先輩、お先でしたー。スーパーの帰りすんごい怪しい雲あったっす。」
 「もうすぐこっちにも来るよ。雨も、雷も。」
  三宅先輩は、業務用タブレットに入っている天気アプリの雨雲レーダーを見ながらそう言った。
 「雷も、わかるんですか?」
 「そうそう、ここの列のボタンを押すとらくらいがあった場所とかわかる・・・・・・」
 ドッカーン。
 「先輩、この雷が反映されるのはどれくらいですかね?」
 「五分後くらいかな!?」
 振り出した雨のザァァァァという音にも負けないくらい、三宅先輩の声はテンションが上がっていた。普段は落ち着いている人なのに。
 「コンコースの窓閉め行って……」
 「行っといたよ」
 「ありがとうございます。」
 「雨漏り用のバケツとコーンの場所は分かる?」
 「倉庫の入り口ですよね?」
 「分かってたらよし。はい、いらっしゃいませー」
 きっぷ売り場に天気にお構いなく訪れたお客様の対応に先輩は移った。それにしても石橋をバズーカで撃って渡る三宅先輩らしいやり取り。まぁ、鬱陶しさがないと言えば嘘になるが、頼もしいこと、この上ない。入社が一年しか変わらないのに。来年の今頃、俺はこうも頼もしい先輩になれるんだろうか? あ、まぶし……
 ドッカーン
 至近距離で雷が落ちたらしい。まぶしいと思った矢先、コンコースが薄暗くなった。停電だ。まだ日没前だったのが幸いで、何とか見える程度の明るさだ。事務室内は別系統の電気らしく、明るいし機械の動作も問題ない。
 「大楠係長! コンコース停電しました!」
 事務室の奥に向かって三宅先輩が叫ぶ。
 「え、そうなん? 信号とかは…… カメラ映るかな……」
 ホームのカメラをアップにして、様子を確認している。
 「運転には支障がなさそう! 今電車来てるし、お詫び放送しといて!」
 「はい! 牧田、いける? 停電のため駅が暗くなっておりますー、みたいな感じで」
 「了解です。」
 ワイヤレスマイクを手に取り、放送箇所を選択するスイッチを駅全体に切換。ボタンを押しながらしゃべる。大勢の帰宅客が階段やエスカレーターを上り、改札に押し寄せる。
 「あの、すいませーん、通れないんですけど」
 
 よく見ると改札機も停電にやられたらしく、切符は通せず、いくらICカードをかざしてもうんともすんとも言わなかった。まじかよ。電源が落ちた状態だからか、改札機の状態を知らせるモニターに異常が出ていなかった。出ていれば音で気づくはずだった。
 「切符は金額確認して対応! ICカードはそのまま通して後日対応! お詫び放送も追加! 係員窓口お越しくださいって!」
 精算機は? 画面が真っ暗だ。頼む、残高不足は面倒だからこないでくれぇ。
 三宅先輩と二人で必死に、多くのお客様をさばく。放送なんかする余裕ないが、有人改札にできた列を見て、お客様が察してくれた。
 必死なので時間感覚はなかったが、列の半分程度で明るさが戻った。改札機も精算機も少し遅れて復旧した。落ち着いて考えたら改札が反応しないから残高不足も何もなかった。
 「すみませーん、」
 今度は何だ、しかも改札外の方向からやってきたようだ。
 「そっちの出口のエスカレーター止まってました。」
 「わ、確認しておきますね、連絡ありがとうございます……大楠係長!? 東口のエスカレーターがまだ止まってるらしいです!」
 「じゃあ牧田君一緒に行こうか!」
 「了解です! 三宅先輩、すみません、ちょっと行ってきます!

 「はいはい、ICそのまま通してる件、引き継ぎ簿に載せとくねー」

 実際にエスカレーター見に行ったら確かに止まってたし、何なら雨漏りがあったので、バケツ取りに走り回った。エスカレーターはスイッチを入り切りしてもダメだったので、係長がエスカレーター会社へ連絡。エスカレーターを通らないようにコーンも取りに走った。段が大きいから階段より早いかと思ってエスカレーターを上り下りしたが、動いてないエスカレーターは、思いのほかしんどかった。夕食食べた後なのに。
 げっそりして窓口に戻って、それを見た三宅先輩は笑いながら休憩へ行った。

 
 それからまず、どんぴしゃの場所に雷が落ちていたことを確認した。


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