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【Day.7ラブレター】鉄道員だって人間だもの【文披31題】

 とあるどこかのベッドタウン。その一地区を作る峰屋駅。1学期の期末テスト期間らしい。お昼にドバッと学生が降りていく。島でも内地でも、試験ものに対する学生の様子は変わらないようだった。そうして混雑も落ち着いて、昼休憩まで、腹時計のカウントダウンが始まる。そんなタイミングだった。
 改札窓口に一人の女子高生が現れた。
 「いらっしゃいませ?」
 「すみません!これ!」
 可愛らしい封筒を渡されて、女子高生は改札外へ走り去ってしまった。
 「あっ、ちょっと! 3ヶ月経っても落とし主が現れない場合はああああ」

 落とし物、つまり遺失物は、取り扱いが大変難しい。持ち主が見つからずに3ヶ月経ったら、拾った人が貰える権利があるんだけど、拾った時に主張しないといけない。にもしこれで3ヶ月経ってから、あの子が『実は私欲しかったんですけど、そんなこと説明されてないです』と言ったなら大変なことになる。だからこの承り書に遺失物の特徴と、拾った女子高生の特徴を書いて、『確認の間なく立ち去り』と記入していく。

 封筒に住所とか書いてあったらなぁ、個人情報があるから3ヶ月経ってももらえないはずなんだけど、何も書いていないからなぁ。
 まぁいいや、遺失物システムに登録していこう。駅には、電車で拾われたものも含めて、毎日たくさんの遺失物が届く。配属されて2ヶ月強、もうさすがに慣れたぞ。分類を選ぶ。するとそれぞれの品物に応じた選択肢や、特徴を記入する欄があらわれる。宛名、なし。中身は、シールで封されてるから……不明だな。封筒の柄……、無地でもない、花柄……違う、その他で打つか。ファンシー柄。これで行こう。拾得者の情報は、10代女性っと。
 ちなみに、今週の警察に送る担当、つまり数日経っても落とし主が現れなかった品物を警察預かりにするために送る担当は、石津さんじゃん。この峰屋駅管区で一番遺失物関係に詳しい大先輩。間違ったことが書いてあると、警察に引き取ってもらえないから、きちんとチェックされるんだけど、そのチェックが一番鋭い。だからというわけじゃないけど、登録前にもう一度入力内容を確かめる。よし。帳票を出力して、ビニール袋に入れて、鍵のついた保管棚に収納する。この鍵は、当直の横の鍵付きボックスに収納されていて、誰がいつ、どのくらいの時間出していたか記録されるようになっている。世の中にはすごい機械があるもんだ。先に昼休憩に行っていた三宅先輩が帰ってきた。遺失物一件増えたんですよー、「これ!」って渡されて逃げられちゃいましたははは、なんてことを話してから休憩に向かった。



 「三宅くん?」
 「どうしました? 石津さん」
 「この日七緒と一緒の泊まりだったよね、何か遺失物に関して言ってた?」
 「……あー女子高生がこれ!って渡して走り去ったとか」
 「これが多分その封筒なんだけど。備考に封しているので中身不明って書いてあるのはいいの。ただ封してあるシール、軽くはってあって、綺麗にいけそうだから、そおっと剥がして中身を確認したの。まぁ見てみて。」
 「これは……明らかに七緒君宛のラブレターですね……」
 「一回登録したものを、しかも数日置いて誤登録でしたっていうのもスッキリしないのよね。」
 「かといって、渡した本人から読んでもらえましたか? って尋ねてくる可能性もあるので、七緒くんに渡しておきたいところですね。」
 「次に七緒が出勤するのは?」
 「明日ですね、僕、非番なので渡します。」
 「頼むわ。それまでにシステムから不審じゃない方法で削除するかだなぁー。落とし主七緒にするかーーー?」
 「登録者と同じはまずいでしょう、不自然すぎる。」
 「そうだよね、こんなの初めてだよ……」
 「賞味期限切れにつき廃棄でいいんじゃないか?」
 「係長は適当なこと言わないで!」

 峰屋駅は今日もきっと平和。

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