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【Day.10 散った】鉄道員だって人間だもの【文披31題】

※おしらせ※
 文披31題では1話完結でお届けしております。読まなくてもいいんですけど、今回の話はこの話を読んでからの方がよいかもしれません。


 とあるどこかのベッドタウン。その一地区をつくる峰屋駅。10月末日を迎えて、新入社員二人は月末締めの作業にばたばたしていた。本来、営業Aの泊りが担当するこの作業、月に一人ずつでは新入社員の経験値がたまりづらいということで、泊まりの俺と遅出の日勤の七緒と二人がかりで行っていたのであった。
 めったに揃うことのない二人での休憩。机と椅子と冷蔵庫や電子レンジが置かれただけの簡素な休憩室で向かい合わせに座り、少し遅い昼食をとる。
 先に口を開いたのは七緒だった。
 「研修センターでもそうだったしさ、今も一緒に仕事する人によってはそうなんだけどさ、当たり前のように女の子の可愛さをずっと測ってる感じがどうも好きじゃなくてさ。」
 「ここだとしげしげ先輩?」
 「伏せてたのに。」
 「あるあるだね。七緒は、そもそもまだ高校卒業して1年もたってないもんな。そもそも年齢がずれてるから、好みが合わないのもあるんじゃない?」
 「あー、それもあるかも。百歩譲って、たまに今の子かわいかったなーってなるのは、人間なんだから多少は仕方ないと思うよ!? さすがに。」
「たまに「今きっぷ買いに来た子かわいかったから、隣の指定席買おうかな」っていうどこまで本気かわからない冗談とか、先輩だし横で聞いてて反応に困るよな。学生の時のバイトでもいたいた、女の子のテーブルばっか積極的にお皿回収しに行くとか接点増やす奴。なーにを狙ってるんだか……。逆の立場考えてないか、自分ならいけるって思ってるんだろうな。そもそも働きに来てるんだろうがって思うけどね。」
 「辛辣。でもまぁ相談する人間違ってなくてよかった。僕が恋愛感情乏しいとか、田舎育ちだからこういう風に思っちゃうのかなって、ちょっと悩んでたからさ。」
 俺も七緒が同じ駅配属で良かったとほっとしている。
 「でもとりあえずその場では適当に話合わせるしかないからなぁ、自分の気持ちに正直になれないことを求められるのはしんどいとは思うけど。」
 「わかった。そもそも、そもそもさ、人をあまり見た目で判断すべきじゃないと思うから引っかかるのかもしれない!」
 「まぁそうだなぁ、ただ接客やる以上、見た目と態度はある程度相関があるからなぁ……。無視できない話ではある。」
 「そうなのね……。」
 「人によって態度変えるのもどうかって話もあるだろうけど、万人が使う公共交通機関だからこそ、求めるものも違うんだし、変えざるを得ないよな。」
 「それもそうだね。」 

 「しげしげ先輩で思い出したけど、最近特定の時間に改札やたら熱心に立つんだよね。夕方だったかな」
 「僕が一緒の泊りのときのそれくらいの時間は、大体ややこしい切符巻き込まれてるからあんまり気になってなかったけど。あんまり立つ人じゃなかったよね。」
 「聞いたらさ、とある女子高生がめちゃくちゃ好みらしくて。髪の色がほんの少し明るくなったことで印象が変わってめちゃくちゃ好みになったらしい。怖い話だよな。どの子ですかって聞いたけど、アニメのぬいぐるみをかばんにつけてたことくらいしか覚えてないや。俺はそもそも皆同じ顔に見えるし。」
 「そのアニメのぬいぐるみって、犬の?」
 「あ、犬だった。普段見ないのつけてたし、ご当地限定かも。」
 「まじかぁ。」
 「どうしたよ。」
 「その子あれだぁ、僕にラブレターくれた子だぁ。」
 ブフォオオオオオオオオッッッ。盛大にお茶を吹きだした。慌ててティッシュをとる。
 「マッキー? 大丈夫?」
 「お前それどういうことよ。」
 「仕事中にいきなり渡されてさ。9月か、夏休み終わって返事聞きに来られて、「いくら高卒で年が近いとはいえこっちは仕事なのでごめんなさい」って返した。」
 「お、おう、断ったんだな。」
 「そりゃね、でもその子すごく落ち込んでてさ。」
 「まぁ、なかなか意を決しての突撃が失敗に終わった訳だからな。」 
 「その翌日、その子の友達を名乗る子がやってきて、」
 「え、友達泣かしたのどうしてくれる的な?」
 「その子、いけおじが大好きらしく、校内でもおじさん先生にめっちゃアピールしてるちょっと変わった子だと。ショックを受けているのは、振られたことじゃなくて、自分とほぼ同年代だと知ったことらしい。」
 確かに七緒は恰幅がよく、ベストを着ているとちょっと上司っぽいところはある。それにしてもだ。
 「そんなことあるか?」
 「あるんだってば。だからさ、しげしげ先輩が猛烈にアピールしてもその子は、しげしげ先輩みたいなチャラくて若い人絶対興味ないんだって。」
 「それは恐ろしい事実だな。」
 「でもしげしげ先輩にこのエピソード言うの恥ずかしいから黙っといてね!」
 「わかった、同期としてそこは絶対に言わないって約束する。あと多分黙ってた方が面白い。」
 「そうだね、そうしよっか。」
 「じゃ、いい時間だし、仕事戻るか。」


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