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鈴虫と去る。 #2

 俺はただ、結さんに言われた通り、マツムシソウを積んできた人をホテルの一室に案内した。俺は一瞬スマホに目を落とした。その刹那警察が2人、目の前に立っていた。
「君だれ待ってんの?何歳?」
「15歳です。」
「学生証は?15歳がなんで1人でホテルの前に?」
「結さん?」
「君しかいないが?」
「とりあえず何してたの?」
俺はこのバイトの事について説明した上で、警察を部屋まで連れて行った。警察がマスターキーを使用して部屋の解錠をした。しかしながら、なぜか扉は開かない。ノックしても、部屋にコールしても出てくる様子は無い。警察の指示でホテルが許可を出し、強行突破することとなった。部屋に入ると沢山の煙が立ち込めていた。すぐに警察の調査が入った。窓が泣かった。俺は署に同行された。
 署では今回の説明と、事情聴取が行われた。今回起きた事件は、おそらく自殺幇助をしている団体による犯行であり、バイトとして参加させられてしまった。ということであった。いわゆる“闇バイト”の形態であった。
 部屋には窓がなく、練炭自殺にちょうどいい場所であり、よく犯罪団体が自殺幇助によって金を稼ぐ。ということがあるらしい。俺はその案内をバイトという形でやっていた。はめたれたという事を聞いた。聴取においては、柊や結、雇い主の八帯、マツムシソウのことも話した。警察の推測によると、八帯と柊は主犯及び犯罪団体のメンバー、結は俺と同じくバイト、アブラムシが警察を表しており、結は初犯でないだろうということ。俺はこれを聞いて八帯や柊への怨みの念や、結への同情、これからの不安など色々な感情が渦巻いていた。
「他に何かない?」
と聞かれてふと思ったのが、あのとき、あのQRコードの音声を聞いた時の勇気の反応って…
その事を話すと、すぐにQRコードを調べた。音声は変わらず、
「この音声が聞こえた特別な君は、絶対合格待ったなし!」
「参考になりましたか?」
「何を言っているんだい?」
怪訝な顔をされ、ふと思った特別な君。幽霊の声か!その話をした。急に相手にされなくなってしまった。なんなら即家に帰された。
 道中に夜7時にも関わらず、無地のトラックを追いかける優希の姿が見られた。
「何やってんだろ。」
街の情景はいつもと変わらず、ポツポツと街灯がある道をただひたすらに進んでいく。人っ子1人いない深々とした闇の中で、憂鬱な気持ちを募らせながら、ただ車に揺られて家路についた。
 俺は、いや俺らはどうやらもうここには住めないらしい。警察の保護プログラムによって奴らに知られていない、気づかれない、全く別の場所で過ごさなければいけない。友達も学校も、これは自分に飽き足らず、家族も同様だった。そして、これからこの家、この街での最後の一夜が始まろうとしていた。

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