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映画「めくらやなぎと眠る女」を観た。(ネタバレあり)

先日、映画館のそばを何度も通りがかり、どうしても気になってしまった映画があったのでみてきた。

村上春樹さんの短編小説のいくつかを一つの物語にして作られているアニメーション映画「めくらやなぎと眠る女」を観た。

監督はピエール・フォルデスさん。

物語の舞台は東京。
登場人物は皆、日本人だと思うけども、どこか日本人ぽくなくて(何人かとかどうでもいいけど)字幕で見たので、日本に住んでるのに皆、英語で会話しているのが不思議でおもしろかった。

東京の街の描写も出てくる。ここは新宿のあのビルだろうなとか思うけど、何となく東京っぽくない。想像上の東京、夢の中に出てくる東京みたいな感じ。

村上春樹さんの小説の世界を忠実に再現しているそうで、ありそうだけどちょっと別次元の世界みたいな、パラレルワールドみたいな感じがした。

複数の物語が同時進行していくような展開だった。

そのもとになっている短編小説のひとつに「かえるくん、東京を救う」という話があるのだが、カエル、しかも自分と等身大サイズの喋るカエルが出てくるのだからインパクト大でおもしろい。

仕事疲れて家に帰ってきて、人の言葉を話す人間と同じくらいの大きさのみどり色のカエル人間がいたら怖い。私ならおそらく逃げ出すかもしれない。かえるくんも、かえるくんからの提案も受け入れられる自信がない。

銀行にお勤めの片桐さんという、独身、背が低く、お腹が出ていて、頭のてっぺんが丸く禿げてしまっていて、気弱で、同僚から仕事を押し付けられても断れず、不倫相手からお金をたかられては払ってしまったり、銀行でいつも遅くまで1人で残業している可哀想で孤独な男が出てくる。

その片桐さんが「かえる」と一緒に東京を救うのだが、かえるは何で現れたのか、幻想なのか、なんなのかは全くわからない。最期の方で、せっかく芽生えた片桐さんとかえるくんとの友情の行方に切なさを感じる展開があった。
かえるくんの好きな小説のアンナカレーニナを握りしめてる手の描写が切ない。

一方で、同じ銀行に勤めている小村さんという、奥さんにも猫にも逃げられてしまい、最終的には職も失う男が出てくる。死んだみたいな顔をして生きている。
(小村は個人的に、顔が村上さん御本人に少し似てる気がする。村上さんが死んだような顔をしてるとかではないです。)

お決まりのパスタ茹でてるシーンとか出てきたり、猫を探している時に大きな邸宅で女の子と出会うシーンは自分が昔読んだ時のイメージそのものだった。

キョウコという女(小村の妻)も出てくるのだが、なぜ出ていってしまったのか分からない。二十歳の頃に働いていたレストランのオーナーに願い事を叶えてもらうシーンで、一体どんな事をお願いしたかも詳しくは語られない。こちらの想像に委ねられる。

ワタナベノボルという猫が出てくる。
色んな短編や長編に出てくるワタナベノボル。(ワタナベトオルだったり、ワタヤトオルだったり色々あるらしい)
ねじまき鳥クロニクルに出てきた「ワタヤノボル」は悪の象徴だったように思うけど、この映画でも猫の存在は不思議で怪しい雰囲気で描かれていた。

あの、ねじまき鳥も出てきた。鳴き声を聞く事ができてちょっとだけ感動した。

とても展開が面白くて先が気になるという感じの映画では無いけど、やはり村上春樹さんの小説をもとに作られているため、登場人物達のセリフがところどころ心に残る。なので、不思議ともう一度観たいなと思ったりしてる。

今、映画を観てから数日経っているけど、あの時のあのセリフもう一度観たいかもとか、あのシーンてなんの短編から来てるんだろうとか、ついつい気になってしまい、小説を読み返したくて原作を購入してしまった。この映画は意外と中毒性ある気がする。

村上さんの小説を読むと、どんな登場人物にも不思議と共感できるところがあって、読み終わった後に何だかとても愛せる存在になってたりする。
それはなんでなんだろう。

長年連れ添った妻に「空気の塊みたい」と言われて捨てられてしまった小村の喪失感も痛みも不安や怒りも、片桐さんの孤独も、小村の知り合いの子の痛みに対する恐怖とかも、誰の心の中にも恐らく存在するし、もちろん自分の心の中にも存在してる。
だけども、心の奥底にしまいながら、気づかないフリをしながら、なるべく傷つかないように生きてるから、そんな弱いところは人に見せないように生きてるから、だから共感できるし、人としての不器用さが愛らしく感じるのだろうか。

それでもパスタを茹でたりしながら、何気ないことに幸せを感じながら、日常は続いて行く。
知らない場所でかえるくんとおじさんが、みみずくんと戦って大地震を防いでくれていることも知らずに。

***

久々に村上春樹さんの短編を読んだのですがやっぱり面白いですね。村上好きな人は一度は観ても損はない気がしました。

〈原作リスト〉

「かえるくん、東京を救う」
「バースデイ・ガール」
「かいつぶり」
「ねじまき鳥と火曜日の女たち」
「UFOが釧路に降りる」
「めくらやなぎと、眠る女」

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