SONY MDR-CD900ST 私見
DTM制作の広がりに伴い何かと議論に的になるようになった、「業界標準」のモニターヘッドホン、MDR-CD900ST(以下900ST)。
DTMer諸氏からはどちらかと言えば不評気味なのですが、想定使用環境を踏まえれば何故このモデルが業界標準なのか、個人的には納得できる(かつ意外と指摘されていないように見える)ので、メモしておきたいと思います。
まず結論から言うと第一に、
・DTM環境では不要
第二に
・多分そもそもあまりミックス用途ではない?
です。
もちろんミックス作業にも使えるし使われていますが、数ある選択肢の中からあえて選ぶ必要はないと思います。解像度が高く音場が(激)近いので、ノイズチェックなどこの特性を活かした作業には向くでしょうが、逆に言えば音場が極めて近く(狭く)、ロウ(低域)はあっさりなので、リバーブやスーパーロウなど音場(広がりや定位)に関する作業には全く向かないように思います。
しかし、この特性がモーレツに役立つ環境があります。それは
・生楽器の録音、特にバンドなど複数人が同時に演奏する時→スタジオ録音が前提
です。
「バンド(=複数人)で」「録音ブースに分かれて」「同時に」録音をする場合、「音が近くて」「タイミングの取り違いが起きにくい」事は至高の価値を産みます。ここに「クリックなしで演奏」も入れば尚更です(今でも意外にある)。
この環境で例えばピアノのアンビエンスやスネアの残響をきめ細かく表現してくれる音場の広いヘッドホンを装着した場合、楽器間のグルーブはかなり合い辛くなると予想できます。広い音場やステレオ感、低域の膨らみといった、空間(位相)の響きはギター、ベースなどの竿もの(モノラル)にすぐに乱されやすいのも相まって、発音(アタック)が見えにくくなる原因になりがちです。
そう、900STの絶対的な強みは「発音(アタック)の速さ」なのです。もっと言えば「発音を阻害する成分を削ぎ落として聞かせてくれるモデル」でしょうか。
そしてミックスは「エンジニアさん」が「音響処理されたレコーディングスタジオのスピーカーで行う」という前提も加われば、900STの立ち位置はより明確になります。
というわけで改めて結論として、900STは
・「プロ向けのレコーディングスタジオで生歌・生楽器を録音する前提である場合において"標準とするのが極めて妥当な"ヘッドフォンである」と言えると同時に、
・生楽器を使わないか、アンビエンスやエフェクトはプラグインで調整するような「DTM〜宅録」の場合、900STのメリットは少ないし、理解されにくいと予想できます。
なので「900ST全然よくない」と言っているDTMerさんは正しいとも言えるし、間違っている(用途も想定環境も違う)とも言えます。
誰に聞いたというわけでもないのであくまで「私見」ではありますが(そもそもミックス用途じゃない?とかはちょっと言い過ぎかもです)。
一意見として参考になれば幸いです。
あ、あと音が近いのでトランスクライブ(聴音・音取り)にも向いてると思います。
かしこ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?