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「はじめまして、キャッチャー」

寂しい部屋に段ボールと私。引っ越してきた。

疲れちゃって座ってみるけど、おしり痛い。

ソファ買わなきゃな私。

エメラルドグリーンのあの子のランドセル、
みたいなソファを台車に乗せて坂道をのぼってく。
これ、台車返しに行く時に台車に乗ったら超たのしいんじゃね?
とか思ってると、目が合う2人。

坂の上から台車だけを押しているその人。
なに買ったんだろ。私のよりひとまわりデカいぞ。
「手伝います?」とその人。
「あ、はい」と私。ん?

正直かなりソファが重かったので助かりました。
その人の腕が、まあ細い方ではあるんだけど、血管が少し浮き出てて、筋トレしてるのかな、なんて思ってると、
その人の押してた台車が坂道を駆け降りて行って。

キョトンとふたり。
「……」
「……」

「どうします?」
とその人。
「どうします?」じゃないでしょ!
自分で何かを決断することが得意じゃないみたい。
「と、とりあえず、これ見ててください!私行ってきます!」
ソファをその人に任せて、台車を追いかける私。
キョトンとその人。


なぜか坂道を駆け下りる私。




「いやー、マジびっくりしましたよ」
と、ハンチングの青年。ガタイが良い。
公園のベンチでほんとすいません、と私。

坂の下のハンチングの青年は、なにも乗ってない台車を受け止めてくれたらしい。

「こう見えてキャッチャーやってたんですよ」
キャッチャーをやっていたらしい坂の下ハンチング。
こう見えて、というか、割とキャッチャーぽい見た目の坂の下ハンチング。
自慢げにバットを振るそぶり。エア素振り。

あ、
坂の上のその人のことを思い出す。
あ、
これ、この距離感だとあの人、になるのか?
まあ、どっちでもいいか。

「すいません、ちょっと待っててくださいね」
と、坂の下ハンチングに告げ、また坂を登る私。

冷静に考えるとこの坂けっこうキツいよな。
これからこの坂を登ったり下ったりするのかぁ。足腰はだいぶ丈夫になりそう。


「ごめんなさい!ありがとうございます!」
とその人に言うと、
その人は、まさか、下からソファを押さえたままだった。坂の途中で。

もうちょい楽な方法ありそう…と思ったけどすぐには思いつかなかったのでその人が正しいことにした。

どうしよう、坂の途中の私、
坂の下に坂の下ハンチングを待たせていて、
坂の途中でソファを抑えるその人と2人。






「僕もキャッチャーだったんですよ」
「え、まじすか、えー、サッカー部かと思いました」
和気あいあいのその人と坂の下ハンチング、の横には二つの台車とソファ。なんだこれ。

というのも、
一旦家まで運んでもらうのは気が引けるし、というか坂の下ハンチングを台車と2人きりでそんなに待たせるのも申し訳ないよなぁ、
坂の下ハンチングからしたら意味わからなすぎるよなぁと思い、結局ソファをその人と2人で押して坂を下ることにしたのでした。


公園には、
引っ越してきた私とエメラルドグリーンのソファ、元キャッチャーの坂の下ハンチングとその人、サイズの違う二つの台車。

なんだこれ。

みーんなはじめまして。
はじめましての街に、はじめましての公園。
はじめましての元キャッチャー2人。



坂はちょっときついけど、

なんか生きていける気がする。

しばらくは受け身でいよう、私。

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