シンガポールの官僚たちが考えた日本の高齢化対策
久しぶりに大学のキャンパスへ。賑わいが戻っていてうれしい。私のプログラムも次回からリアルでこのキャンパスで再開する予定である。やっぱりキャンパスに学生がいる姿はいいですね。
今日は学位プログラムにいる学生さんたちからのインタビュー。シンガポールの3人の官僚を中心とする修士課程の学生さんが「日本のあるべき高齢化対策」についてプロジェクトで研究していてそのための質疑と提言の打ち合わせ。
介護保険や年金などの制度から孤独死や徘徊などの深刻な課題をよく研究していて、私より詳しい。私は元政治家として、日本の選挙制度や国会の勢力や有権者のプロファイルなど、現実的な政治的動機を彼らの政策的提言にぶつける役割。
いかに理論的に素晴らしい政策でもそれが選挙という洗礼を受ける政治家の動機に適わないと実現は難しい。日本の官僚も、日本の高齢化対策についてはいくつものあるべき施策を用意はしているが、政治家が選挙を前にそれを飲むかどうかを忖度しているであろうことは想像に難くない。
そういう忖度なしで政策立案能力に長けるシンガポール官僚たちの提言を聞いていて、とても気持ち良かった。まずシンガポールの官僚たちにとって日本の状況は他人事ではないとのこと。「いずれシンガポールも同様の課題にぶち当たります。もうその兆候があります。その時に先行する日本の対応はとても参考になります」とのこと。
与党が強く安定した政権でほとんどの主要閣僚が官僚出身というシンガポールの政治的土壌はある意味理想的でうらやましい。だからこそこういう純粋に政策的に正しいことが提言できる。
彼らは私の政治家の動機についての話をとても興味深く聞いていた。
日本の与党の国会議員の特徴として
極度に落選を恐れ、連続当選を至上命題としている
その背景にあるのは
・社会的流動性の少なく、落選すると民間で職探しが困難
・政治家として影響力を持つのにかなり時間がかかる
・与党の同僚政治家の支持無くして偉くなれない
・選挙にお金がかかる割に公的な資金的選挙支援が不十分
一方で選挙について
・高齢者の人口的比重は高まるばかり
・高齢者の投票率は若者のそれに比して高い
・社会保障が投票先決定のアジェンダとして優先される
特にシンガポールとの違いでは
・国政選挙サイクルはたいていは2年くらい長くても3年
・今は分裂していてもシンガポールよりは強力な野党勢力がある
こういう前提で政策はかなり影響を受けることを説明。
非情にいい議論ができた。最後は上記のような前提でも政治的に受け入れられそうな政策を提言された。これは非常に興味深かった。是非今は閣僚となっている友人たち、総理経験ある親しい先輩たちに提言したいと思った。
今日再認識したのだが私のこの恵まれた環境を、もっと日本政府のために活かしたい。「現実的な高い政策立案能力持つシンガポールの官僚たちというリソースを日本のために活かせる」稀有な環境をだ。特に日本が今直面している諸課題はシンガポールの官僚たちにも他人事ではないし、ほぼ全員が日本の大ファンである。
今日会った官僚たちも何度も日本に来ている。観光客としても仕事としても。そして彼らも「一見与党一強のように見える我が国ですが、今後の選挙では波乱もあるかもしれません。そうなると日本のように政治による政策への選挙のための介入があるかもしれません」と思っているようだ。
いやあ刺激的でした。学校いいですね。若い人との触れ合いはいろんな意味で刺激になります。優秀で公的な奉仕の精神にあふれる若者に、資本主義にまみれていた私の心は少し洗われました。