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講義録:エクアドル先住民キチュアの仲間たちとともに歩んだ10年。森と生きるチョコレート

2023/12/12に早稲田大学の大学1年生向けにソーシャルビジネス講座で話した内容を共有します。ソーシャルビジネスに興味ある方、良かったらご覧ください。


はじめに

こんにちは!ママノチョコレートの江澤孝太朗です。11年前にカカオのビジネスを始めて、今はチョコレート店とアマゾン原産食材の輸入販売をやっています。今日はエクアドルアマゾンの先住民たちとどのように仕事をしているのか、そしてそれが社会のどんな問題と関わっているのかについてお話しします。

僕は2009年に早稲田大学の社会科学部を卒業後、人材やITのベンチャー企業で働き、2013年にママノを立ち上げました。今日は久しぶりに大学に来られて嬉しいです。

今日のプレゼンのゴール

今日のプレゼンで伝えたいのは、大きく2つのことがあります。
まず1つ目に、ママノのビジネスモデルについて理解していただくこと、そして2つ目にエクアドルのアマゾンチャクラについて知ってもらうことです。
そして、より良い社会をつくるためのアプローチの1つとして、こういう方法もあるという一つの事例として、今後の行動の参考にしていただけたら嬉しいです。

目次

それでは、今日の話の流れを紹介します。

  1. ママノについて

  2. 解決したい課題

  3. ママノの歴史

  4. エクアドル基礎データ

  5. 先住民の抱える課題

  6. ウィニャック組合

  7. チャクラシステム

  8. ママノの活動が何につながるのか

ママノチョコレートについて

まずは、ママノチョコレートについてお話しします。
ママノのビジョンは、創業時からずっと「笑顔あふれる地球をつくる」ということ。これを目指して事業を展開しています。
ママノチョコレートのブランドコンセプトは、森と生きる、です。エクアドルアマゾンの熱帯雨林の恵みを活用した商品を作って、販売しています。
現在社員は2名で、日本に1名、エクアドルに1名と小さな会社です。

商品群と販売チャネル

私たちは主に、エクアドルのアマゾン地域で、自然と人に優しい農法で栽培された製品を扱っています。
エクアドルは中南米でペルーの上、コロンビアの下に位置しています。日本から直線距離で26000km、飛行機で30時間以上かかります。直通便はないので、アメリカとコロンビアで乗り換えて向かいます。


そんなエクアドルのアマゾンの恵みを商品化しているママノですが、では具体的にはどういう商品を展開し、誰に、どのように販売しているのかについて説明します。

商品については、カカオ、蜂蜜、バニラビーンズ、グアユサ茶などがあります。カカオはさらに色々な商品を製造しており、カカオ100%のチョコレート、ミルクチョコレート、カカオニブ、ココアパウダー、ココアバターなどの商品があります。創業時はチョコレートからスタートしていますので、現在も売上の大部分はカカオによるものです。

実店舗としてチョコレート店ママノが都内に1店舗ありまして、ここでは一般のお客さんに商品を販売しています。

また最近では特に法人顧客への向けの販売を重視しています。例えば、ビーントゥバーチョコレート店にはカカオ豆を提供、ケーキ屋さんやジェラート屋さんにはチョコレートを提供、珈琲チェーンはカカオニブを提供するという感じです。

こちらが赤坂のお店です。
こちらが創業時の写真で、自分一人とアルバイト一人でスタートしました。
チョコレート作りは素人でしたが、本やyoutubeをみて勉強し、半年間の準備を経てお店をスタートしました。


事業の特徴

次に、事業の特徴について紹介します。ソーシャルビジネスに興味があるということで、ママノがどのように運営されているかをご説明します。ポイントは4つです。

  • 1つ目に、南米エクアドルの2つの先住民組合とのみ直接取引をしています。これはダイレクトトレードと言われますが、僕にとっては顔の見える取引の方が言葉としてはしっくりきます。

  • 2つ目に、高品質な食材を高価格で買取しています。これはフェアトレードと言われるもので、例えばカカオについては、市場価格の2倍から9倍で取引しています。国際的なフェアトレード認証とは関係がなく、文字通り言葉の意味として公平な取引をしているという意味で、フェアトレードといえると思います。

  • 3つ目に、アマゾン熱帯雨林食材の活用をすることで、熱帯雨林保全、気候変動、生物多様性に貢献していることが挙げられます。ママノが扱う全ての食材はアマゾンチャクラシステムという伝統的なアグロフォレストリー農法で育てられています。これはモノカルチャーとは違い、森をつくる農法とも言えます。この森をつくる農法で育った作物のみを扱うことで、森林保全や生物多様性の保全への貢献を目指しています。

  • 4つ目に、行政、大学、国連、開発機関、自然保護基金との連携を重視して事業を行っています。貧困の解決、気候変動への対策、遺伝資源の保全など、それぞれの関係者がそれぞれの視点から、このエクアドルアマゾン、アマゾンのチャクラシステムに注目しています。ママノは、国際企業として、チャクラ農法で育った作物をお客さんに販売するという、いわば作物の出口を担っています。アマゾンに住む先住民への支援は様々あれど、最終的には支援なしに生活を営むことができることが重要です。そのために、お客さんをつくることがママノの役割です。それ以外の機関は先住民が貧困を脱して、自然と調和した形で持続的に発展できるようにサポートするのが役割ですので、同じビジョンを持つ仲間として、様々に協力しながら事業を進めています。

これは去年の写真で、先住民の農業組合WINAKの仲間たちと食事とに撮影した写真です。

これはカカオの写真です。アマゾンチャクラ農法で育ったカカオはアロマ豊かで美味しくなります。


ダイレクトトレード

ダイレクトトレードについて少し詳しく説明します。
ダイレクトトレードは直訳すれば直接取引で、その言葉にはポジティブな意味もネガティブな意味も含まれていないように見えます。

ただ、これまでカカオ産業が抱えてき大きな課題である児童労働、森林伐採、搾取的な取引というのは、長いサプライチェーンによって、最終購入者であるチョコレートメーカーやお客さんが、その不正義を認識できない点にも要因がありました。

例えば、エクアドルアマゾンのカカオ農家は市場から遠い位置にありアクセスがよくありません。カカオを買いに来てくれる仲買人が少ないこともあり価格交渉力はなく、非常に安い値段でカカオを販売せざるをえませんでした。

そこで搾取的な取引が行われていたとしても、カカオはその後一次卸、二次卸、三次卸と売られ、遠い距離を移動し、最終的にカカオを購入する企業は、このカカオがどこの誰が作ったものかはわからなくなっていることがありました。これを直接取引で顔が見える取引に変えることで、生産者が利益を得て生活をできる金額を話し合いで決定することができるようになりま
す。


世界のカカオ産業の課題

先ほど少し触れたんですが、世界のカカオ産業が直面している課題についてもう一度お話しします。

  • 児童労働、強制労働

  • 森林伐採

  • モノカルチャーによる多様性喪失

  • 農薬による土壌や河川の汚染

  • 農家の貧困

これらが課題として現在でも存在しています。
エクアドルのアマゾン地域については、児童労働や強制労働はありませんが、アフリカのいくつかの国では依然として200万人以上が児童労働に従事させられていると言われています。

取り組みたい課題

次に、ママノとして取り組みたい大きな課題についてお話します。
相互に連関しあっていますが、主に以下のような重要な課題として捉えています。
それは、

  • 気候変動

  • 生物多様性の喪失

  • 農業、畜産業による森林破壊

  • 農薬ありきの農業、土壌河川汚染

  • 先住民の人権、土地権の軽視

などです。

気候変動

まず気候変動についてお話しします。
多くの方がすでにご存知かと思いますが、世界が直面している最大の問題である気候変動について、簡単におさらいしましょう。

  • 産業革命前から地球の気温は1.2度上昇しています。

  • 世界のコンセンサスとして1.5度目標が定められてはいますが、このままでは2100年には地球の気温は4〜5度上昇の可能性があり、NDCという各国が定める自主目標を全て達成しても3.3度上がる予想がされています。

  • さらに、気候変動や生態系にはティッピングポイントがあり、ティッピングポイントを超えてしまうと、その後GHG(温室効果ガス)を削減しても、気候変動は止まらなくなります。

  • 氷床が溶けて海の水位が上がることでいくつかの国がなくなり難民が増え政治的な安定が難しくなります。

  • 熱波、豪雨、台風は増え、災害の規模は大きくなり、海の酸性度があがってサンゴは99%死に、魚が採れなくなり、食糧が不足するようになる可能性があります。

気候変動(アマゾンの場合)

  • アマゾン熱帯雨林は気候変動によってどのような影響を受けるかをご紹介します。

  • アマゾンの気候は、ますます乾燥して暑く、そして不安定になっていきます。現在のアマゾンの30%から60%の範囲のジャングルが今世紀中に消失し、サバンナや砂漠に変わると推定されています。

  • 森林伐採を考慮すると、その影響はさらに大きくなるかもしれません。その結果、アマゾンでは動植物など100万種が消失する可能性があり、これは地球上の種の4分の1に相当します(Pounds & Puschendorf, “Clouded Forests”, Nature, V. 427, 2004年1月8日)。

生物多様性損失、森林喪失

生物多様性の喪失も、私たちが解決に取り組みたい重要な問題の一つです。WWFが発表している生きている地球指数は1970 年から69%低下しています。



気候変動、生物多様性の減少、森林の減少は全て密接に関連していて、一つだけを解決するのではなく、全てを考慮しながら、解決策を進める必要があります。これはWWFが出している図ですが、地球の気温が上がるにつれてどれだけの生物種がいなくなるかを示しています。今のところ、左上の4度かそれよりも悪い状況に向かって世界は進んでいると言って良いと思います。


先住民問題

次に先住民問題についてお話しします。
北アメリカ、南アメリカ、アフリカなどの地域で、主に先進国による過去の虐殺や搾取、略奪は、多くの方がご存知かと思います。エクアドルも16世紀にスペインによって侵攻され、植民地時代に突入しました。

  • 先住民が抱える問題については、世界全体で同じような問題があります。現在、世界には約4億7600万人の先住民が90カ国に住んでおり世界人口の5%未満ですが、最貧層の15%を占めています。

  • 先住民は、独自の文化や、環境との関わり方の継承者であり地球上の生物多様性の80%が先住民居住地域に集中していますが、しばしば政府からはその重要性を軽視されています。

  • 先住民が安定した生活を行えるようになることで、先住民が持つ自然とともに歩む価値観で森は守られ、その利益を地球に住む私たちも享受できると、そのように考えています。

ママノのあゆみ

今までは世界全体についてお話しましたが、ここでママノチョコレート、私たちの小さな会社の過去11年間の歩みを簡単に紹介します。ソーシャルビジネスを自身でスタートする方もいると思いますので、参考にしていただければと思います。

考えていたこと

まず、ぼくがママノを始める前に考えていたことがこちらです。
Q. 日本は物質的に飽和状態。これ以上規模的な成長を追求して人は幸せになるのか
Q. 永遠の拡張と競争を目指す資本主義×新自由主義×グローバル化が重なって格差の拡大と固定化
Q. 自然、人権、社会といった価値の外部経済化を前提とした経済への違和感
Q. 環境破壊、人権軽視、途上国搾取を前提とした成長に加担して良いのか
こんな疑問を持っている人、違和感を感じたことがある人いますか?
価値観は人それぞれですが、昔の僕なそのようなことを感じていました。

きっかけ

ママノを始めたきっかけは、2011年の東日本大震災でのボランティア活動でした。

それは、2011年の東日本大震災でのボランティア活動です。現地でのボランティア以外もしていましたが、それ以外に、被災したことによって魚や椎茸などの販路がなくなったお店の商品を売るために物産展を企画しました。東京で16日間に渡ってボランティア仲間と被災地の商品を販売し、160万円程度でしたが全額を寄付しました。被災地の商店の方々はもちろん喜んでくれましたが、商品を買ってくれた人も被災地の商品を買うことで応援したいという思いがあったので、買う機会を作ってくれたことに感謝のメッセージを伝えてくれました。

その経験によって自分で事業を始めるにあたって以下3つの条件を満たしたことをやろうということを決めました。

  • 1つ目に、何かを売れば売るほど世界が良くなる仕組み

  • 2つ目に地球規模であること

  • 3つ目にお客さんの喜ぶ顔が見えること

2つ目の地球規模であることがここで登場した理由ですが、これは自分の性格によるものです。元々海外に興味があったこともあり、長く情熱を持って続けるためには、自分の好奇心が満たし続けられるように国内だけの事業にしない方がいいなと直感的に思っていました。

これら3つの条件に合致するような事業を模索していたところ、エクアドルアマゾンのカカオに出会って、そこからチョコレート勉強し、ダイレクトトレードモデルのチョコレート店を始めることになりました。

2013-2022

ここからは簡単にママノチョコレートがどのように11年を歩んできたかを紹介します。

まず2013年に赤坂見附にてチョコレート製造と販売を開始しました。わずか9㎡のお店です。創業時のビジネスモデルは、カカオを直接購入して、チョコレートの一次加工はエクアドル現地で行って輸入をして、日本では生チョコ、板チョコ、チョコ菓子などを製造して店舗にて販売するというものでした。

2015年に店舗を少し拡大して、2019年に工房を広げるために移転しました。チョコレートの世界大会で初受賞をするなど、チョコレートの評価もいただけるようになってきました。

2020年にコロナが流行し店舗中心の事業モデルの変更を模索しました。

2023-

2023年になって卸事業を本格的に開始したと同時に、アマゾンバニラ、グアユサ茶、ハリナシハチミツなど、カカオと同じ先住民組合から、チャクラ農法で育った作物の商品化を進めていきました。

事業内容としてはチョコレートの製造販売だったものが、チョコレート含むアマゾン原産食材の開発、輸入、卸、販売へと変化していきました。

そして、先日世界で最初のアマゾンチャクラ認証取得企業となり、アマゾンチャクラ農法で育った作物を日本で広めていく企業となっています。


こちらの写真は、最近行われたアマゾンチャクラ農法の認証授与式です。エクアドルのナポ州知事も参加しました。
この後、チャクラについても詳しく説明しますのでお待ちください。


エクアドル基礎データ

次にエクアドルやエクアドルアマゾンに関する基礎データを前提知識として共有します。

まず、エクアドルは特別な憲法を持っています。世界で初めて「自然の権利」を法的に認めた憲法です。(自然の権利のためのグローバルアライアンス、2019年、エクアドル憲法、2008)。

人口は1760万人(世界銀行、2022年)で、約40%が農村部に住んでいます。(Global Forest Atlas 2020)

エクアドルには14の先住民族が公式に登録されており、それぞれが独自の言語と文化を実践している(National Adaptation Plan, 2018)が、そのうち11がエクアドル・アマゾン地方にあります。

国土面積の約50%にあたる約1200万ヘクタールの原生林を有しています(MAAE, 2018)。この総残留林のうち、74%がエクアドル・アマゾン地域(EAR)です。


エクアドルは地球の表面積の0.2%しかないのに、世界で6番目に生物多様性が豊かな国なんです。(Mittermeier 1988)。エクアドルは世界の植物種の約10%を保有しています(CAAM 1995)


エクアドルアマゾン

次にエクアドルアマゾンについてです。

エクアドルのナポ川、これは巨大なアマゾン川流域の一部で、毎秒23万立方メートルの水が流れているんです。これは世界の陸上淡水の約20%に当たる量なんです。(CEPAL, 2013)

アマゾンの農業は少なくとも5,300年前から発展してきたことが確認され、唐辛子(Capsicum spp. 唐辛子(Capsicum spp.)、豆(マメ科)、キャッサバ(Manihot esculenta)、サツマイモ(Ipomea spp.)、タロ(Maranta spp.)、トウモロコシ(Zea spp.)、カカオ(Theobroma spp.)などが栽培されています。

エクアドルナポ州

次に、ママノが主に活動するナポ州についてです。
エクアドルのアマゾン地域では、特にナポ州にキチュア族の先住民が多く住んでいて、州の人口の60%を占めています。(Irvine 2000; INEC 2010)
州の領土の67.52%は、エクアドルの国立保護地域に指定されている自然豊かな地域です。

先住民の抱える課題

アマゾン地域の先住民農家の多くは年収が10万円以下と低く、政府の支援を受けて生活している人が64%もいます。

携帯電話保有率62%とされていますがインターネットに常時接続しているかは別の問題かもしれません。冷蔵庫/コンロ/テレビいずれかの保有率33%以下です。

教育へのアクセスについては、実際に様々なコミュニティーを訪問すると、学校が遠くて中学までしか通っていない、15歳くらいで結婚して子供を産んで、というケースも多くみられるように思います。

栄養状態

ナポ州での調査によると、特に子供たちの栄養状態に大きな問題があるそうです。
約31.4%の子供が急性下痢症による栄養不足、39.4%が貧血、幼児の慢性栄養不足が19.8%。貧血による栄養不足が最も多く、次いで急性下痢症、そして3番目にタンパク質による栄養不足となっています。

ただ、慢性栄養不足の割合が比較的低いのは、家族が直接家庭で消費できるさまざまな種類の作物をチャクラ(農地)で栽培しているためで、ここでも自給自足の重要性が示されています。

さらに、伝統文化や知恵の継承の危機、農村から都市への人口流出も大きな課題です。

ウィニャック組合について

ここまでは先住民の課題、ナポ州の課題と共有しました。
次に、ママノのパートナーであるWINAK組合がどんな組織でなぜ発足したのかを紹介します。

WINAK組合は、2010年にエクアドルのナポ県アルチドナで設立されました。メンバーは100%キチュア人で、29のキチュワ族の集落から約300の農家が参加しています。

活動メンバーの約70%が女性です。メンバーの生活水準の向上や伝統の継承を目指しており、主な活動として、カカオ豆、グアユサ茶、青バナナの商品化を行っています。

このWINAK組合に加盟するためには、モノカルチャーではなくチャクラシステムでの栽培を実践する必要がありますし、チャクラシステムの指導も日々行われています。


WINAKとママノが共有するビジョン

なぜママノがWINAK組合の作物と主に扱っているかというと、このような価値を共有しているからです。
価値を共有というよりは、彼らの持っている価値観と伝統に僕が魅力を感じており、世界の未来にとって重要だと感じている、という方が正しいかもしれません。

  • 森林(熱帯雨林)保全

  • 未来へ責任ある資源の利用

  • 伝統文化の継承

  • 先住民の権利保護

  • 無農薬無化学肥料

  • 豊かな土壌を未来へ

  • 気候変動緩和

  • 公正な取引

  • 児童労働ゼロ

  • 食糧安全保障

  • 生物多様性保全

  • 在来種固有種保護

  • 生活水準の向上

  • 小規模農家を守る

など。

チャクラシステムについて

ではここから今まで度々登場してきているチャクラシステムについて説明します。
ママノのビジネスモデルは、わかりやすくいえばこのチャクラシステムで育った作物を商品化して日本で販売することです。それくらいチャクラシステムが重要な価値を持っていると僕は考えています。

この写真がチャクラです。現地では裏庭とか、食べられる森、という意味で使われています。
カカオを含めて100作物くらいが植えられいます。

では詳しくチャクラシステムについて見ていきましょう。
チャクラシステムとは、エクアドルのアマゾンに住む先住民が古くから使っている、自然に優しい農法です。
主食、材木、果樹、観賞用・薬用植物の栽培を組み合わせており、食料安全保障と先住民の幸福の両方に欠かせないものです(Coq-Huelva, 2018; Coq-Huelva, 2017; Torres et al., 2015; Perreault, 2005)。

アグロフォレストリーの意味は、agriculture incorporating the cultivation of trees.です。
アグロフォレスリーにも様々な方法がありますが、アマゾンのチャクラシステムは伝統的なアグロフォレストリーで、数種類の換金作物の混合ではなく、100種類にも及ぶ様々な用途の植物が一緒に育っていることが特徴です。

チャクラシステムの社会的な側面

次にチャクラシステムの社会的な側面について紹介します。チャクラシステムは、通常、家族単位で管理されています。

家族で管理する土地は大体2haから10haくらいで、農地にするのは1-3haくらいのことが多いです。これは組合や地域によっても多少数字が異なりますが、規模が大きくなりすぎず、歩いて、手で、大規模な機械を使わずに管理できることが重要だとされています。彼らの朝は早く、三時くらいには起きて薪に火をつけて家族や地域の住民とグアユサ茶を飲みます。グアユサ茶を飲みながら、前日みた夢の話などをしながら、徐々に今日の農作業の予定などを決めていくというのが1日の流れです。この交流も重要な文化で、知識の継承やコミュニティの絆の維持に繋がっていると感じます。

食糧主権の確保(food sovereignty)については、現金収入が少ないこの地域においては非常に重要です。食べ物や医療に使える薬が常にあることで、現金に頼らずに基本的な生活を営むことができます。歴史的には、土地を奪われ、自給自足ができなくなって、賃金労働者となって都市に働きに出て賃金に頼る生活になっていくと、コミュニティや伝統が失われていくという流れがありますので、食糧主権は栄養の確保という意味でも、伝統文化の継承とう意味でも、また森の保全という意味でも重要な価値だと考えています。

チャクラシステムで基本的な食糧や現金を確保することができることで、周囲の熱帯雨林や国立公園に指定されている地域の自然をそのまま残すことに繋がっています。もしチャクラシステムで稼げなければ、農地をさらに広げるために農家は自分たちの管理している森を切り拓いたりする必要ができてます。また、農薬や肥料を使ってしまえば、土壌や河川は汚れ、周囲の世界有数の自然保護地区の熱帯雨林にも汚染が広がっていってしまいます。さらに、チャクラシステムで稼げずに都市に人々が流出してコミュニティが弱くなってしまうと、現在すでに大きな問題になっているマイニングや石油採掘に抵抗をする集合的な力も弱くなっていき、結果的に自然が守られなくなっていくことに繋がってしまいます。

アグロフォレストリーシステムと一口に言っても、栽培する植物の種類や数、多様性、炭素蓄積量などが大きく異なります。

例えば用途で木材と書いてありますが代表的にはチョンタという木があります。この木はまっすぐで成長も早いのでカカオのための日陰を作るシェードツリーになり、まっすぐ育つので木材としても使えます。木の実は食べることができ、また木の幹の中心部分もheart of palmと呼ばれ、やわらかく食用になります。さらにきを伐採した後には、木の幹が自然に腐敗してきて、そこに昆虫が卵を産みます。チョンタクロという昆虫は大きく栄養価が豊富で、貴重なタンパク源となって現地ではご馳走とされています。

また野生動物とも共生する価値観を持っていますので、特別に害獣対策などはしませんし、重要な換金作物のカカオが食べられる前に他の果物が食べられるのでそういう意味でもアグロフォレストリーシステムは効果を発揮しています。よくチャクラの農園でみられるのはブラックアグーチというネズミの仲間です。

こちらはチャクラシステムを表した図です。
チャクラは、空間的にも時間的にも、重層的な構造を持っています。
最初は熱帯雨林を最小限切って、キャッサバを植えます。
その後段々と豊かなチャクラとなるように様々植物を植えていきます。
縦の空間は大きく分けると三層に分かれていて、一番背の高い木はシェードツリーとなり、その下の方の木は日陰を好む木や果物で、その足下には低木やレモングラス、パイナップル、ジンジャー、ユカ、キャッサバ、チリ、などが育っています。このチャクラシステムは、熱帯雨林の生態系を模倣したものという仮説があり、古くは5000年以上チャクラシステムが続いているのではないかと言われています。

気候変動の緩和と適応にも効果的

伝統的なチャクラシステムが気候変動にどのような影響を与えているかについても、お話しします。
Cが炭素でCO2が二酸化炭素です。ご存知のように二酸化炭素は温室効果ガスの中で最大の要因となっています。

これは農業組合ごとの炭素蓄積量の比較データです。
アマゾンチャクラのカカオ農園1ヘクタールでは、1ヘクタールあたり140~206トンの炭素(C)が土壌に、約30トンのCが地上部のバイオマスに蓄積されています。特にママノがカカオを仕入れているWINAK組合では1hgあたり206トンの炭素蓄積がなされています。アマゾンの原生林では334トンで、カカオのみを栽培しているモノカルチャー農園では1hgあたり85トンの炭素蓄積量となっています。例えばアマゾンが燃えたり伐採されたりすると、この炭素が空気中に放出され二酸化炭素となります。

このデータは炭素の蓄積量ですが、さらに別の役割として木の呼吸による二酸化炭素の吸収効果もあります。これについてはチャクラシステムという特定の農法でのデータはないのですが、世界全体ではアマゾン熱帯雨林で10-12億トンのCO2を吸収しているとされています。当然、チャクラシステムよりも熱帯雨林を保全した方が良いのですが、モノカルチャーと比べるとチャクラシステムは約2.5倍の炭素蓄積量となり、農業部門の二酸化炭素排出を減らすための重要なヒントを提供してくれていると考えることができます。また、今後ママノとしては、カカオ1kgあたりの炭素蓄積量と二酸化炭素吸収量をある程度計算し、モノカルチャー農法との比較を提示することで、より気候変動に対して効果のあるカカオであるということを伝えていこうとも考えています。

ただ、残念ながら今の所アグロフォレストリーカカオの価値というのは十分に市場では認識されておらず、ナポ州においてもモノカルチャーで農薬や肥料を使ってたくさんのカカオを栽培している農家の方が収入が高い傾向にあります。オーガニックのカカオには少し高い価値が付与されるようになってきていますが、これからはお客さんがアグロフォレストリーカカオに高い価値を感じていただけるようにコミュニケーションしていく必要があると思います。

チャクラシステムは自給自足はできるけど稼げない、ではなくてチャクラシステムは自給自足もできるし稼げるということになれば、少しずつチャクラシステムを取り入れる農家が増えていくと思います。

ちなみに、炭素と二酸化炭素の換算には、1炭素を約3.67CO2として簡易的に計算することができます。
1haあたり206トンの炭素を蓄積しているということは、二酸化炭素に還元すると756トン分相当のCO2を蓄えていると考えることもできます。日本のCO2排出量は12億トン、世界全体では320億トン程度となっています。

アマゾンチャクラの注目状況

さて次にアマゾンチャクラの注目状況についてお話ししていきたいと思います。
実は、アマゾンチャクラはかなりの注目を集め始めています。

例えば、2023年今年の2月ですね。国連FAOが規定する世界農業遺産にアマゾンのチャクラシステムが認定されました。これは、世界全体で守るべき伝統的な農法であることを意味します。

また、2021年にイギリスグラスゴーで行われた気候変動対策会議のCOP26で気候変動に効果のある世界の農法として紹介されています。

さらに、先日ですがWINAK組合の一員であり先住民運動のまとめ役でもあるフアンカルロス氏が2023年ノーベル平和賞2番目の候補にノミネートされました。今回は残念ながら最終的に選出はされませんでしたが、環境と平和、先住民運動と平和が密接な関係であることに世界が気がつき始めているのだと思います。自然を失えば人間社会も不安定化することや、先住民がいかに適切なやり方で自然を管理してきているかといったことは、すでに多くの人が気がつき、注目し始めています。

2023チャクラ認証の制度開始

そして今年、ついにチャクラシステムで栽培された作物の認証制度が始まりました。

2017年頃からエクアアドルナポ州や国連FAO(食糧農業機関)が農家とともに制度設計してきており、ママノも倫理委員会のメンバーに選定され、チャクラ認証を与えるかどうかの議論に参加しています。

2023年8月には、ママノは世界初のチャクラ認証企業となり、カカオ、グアユサ茶、バニラなどの作物を使った商品が全てチャクラマークをつけられることになりました。

ママノの役割としては、日本でもチャクラの材料を使う仲間を増やしていくことだと考えています。

実際に、何社かの企業はすでに申請準備をしており、徐々に皆さんの手元にもママノ以外でチャクラマークのついた商品を見られるようになっていくのではないかと思いますし、頑張っていきたいとなと思っています。

 まとめ ママノの活動が何に繋がるのか

最後にまとめです。
ママノのソーシャルビジネスが実際にどんな影響をもたらしているかと言うと、

  • アマゾンのカカオ生産者(キチュア族)の生活、収入改善

  • アグロフォレストリーによる森林保全、気候変動危機の緩和と適応

  • 先住民の権利保護

などに貢献できると考えています。

また、生態経済学という分野があるのですが、私はそこで定義されている定常経済という考え方が割といいなと思っており、その方向に向かって進んで行けたらいいなと思っています。

それは、これまでのように搾取しながら永遠の成長を目指す社会システムではなく、森林、伝統、人権、といった今までは無料か安い外部資本だった価値を重視していく社会だと思っています。ママノとしてできることは微力ですが、皆さんと一緒に取り組んでいけたらと思います。

最後に、私たちの目指す「笑顔あふれる地球」のために、これからも努力していくことを約束します。それでは、今日のプレゼンテーションはここで終わります。

ママノチョコレート
江澤孝太朗

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江沢孝太朗
チョコレートでみんなを笑顔にできるように頑張ります!