飯炊き半年
「飯炊き3年、握り8年」
寿司職人の下積み期間を表す有名な表現だが、建築業界もおおよそ同じような仕組みになっている。
一人前の設計者になるには、10年近くの歳月を覚悟するものだ。
多くの人々は、人間が創造する美しいデザインや都市、文化をつくるダイナミックな要素に魅了されて建築の世界を志すのだろう。
しかし、つくづく建築は学ぶことが膨大だ。
デザイン、法律、構造、設備、インフラ、クライアントとのコミュニケーション、プロジェクト管理、チームマネジメント……。
例えば、「構造」だけ見ても、木造・鉄骨造・コンクリート造と、それぞれ独自のルールや建築手法に枝分かれする。
習得すべき知識の量を先に知っていたなら、僕もほかの道を選んでいたかもしれないと思うほどだ。
ADXでは最近、「飯炊き半年」というプログラムをつくろうとしている。
木造建築だけ、しかも自然に配慮した建築だけに特化して学ぶことで、新人スタッフに10年もの修行を強いるのではなく、半年で知識と技術を会得できるようにする社内研修制度だ。
この先、入社するスタッフに、この制度が代々受け継がれることで、木造の未来を担う建築人材が増えていくことにも期待している。
寿司職人の業界では、「飯炊き3年、握り8年は時代遅れ」と言われて久しいそうだ。
建築の世界も、追いつかなければならない。