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ある日、家がつくれなくなった
「自宅を設計してくれませんか」
有難いことに、ADXの問い合わせフォームには頻繁にこんなメッセージを頂く。
人生で一番大きな買い物ともいわれる住宅を僕らに任せてくださる心意気に、いつも心から感謝するのだが、申し訳ないなと思いながら、ほとんどすべての依頼をお断りしている。
なぜなら僕は、数年前から、「家がつくれない病」に悩まされているからだ。
親父の後を継いで20年以上。
人生の大部分を、家づくりに費やしてきた。
地元東北を中心に、これまで設計・施工した住宅は200件ほど。
提案プランも含めると、軽く1000以上のプランをつくってきた。
そのほとんどが、お施主さんと家族にとって「一生に一度の家づくり」で、一家の夢を詰め込んだマイホームだ。
僕らは毎回、デザイン、つくり方、ランドスケープまでこだわりにこだわって、その想いに応えてきたと自負している。
完成の度に開催していたオープンハウス(見学会)には、100名以上に来場いただくこともあった。
でも、その間も、「家がつくれない病」はじわじわと進行していた。
工務店の仕事は、新築を建てることが大部分のように思われているが、実は、建てた後のメンテナンスの方が圧倒的に多い。
定期点検のほか、不具合が起きればできるだけ早く駆けつけて、原因を見つけて修繕する。
木造建築を扱うADXの仕事には、木の反りや歪みといった経年変化が付きもので、お施主さんとは、長い長いお付き合いをしている。
僕は工務店の3代目なので、自分がつくった建築だけではなく、祖父や父が手掛けた住宅のメンテナンスにも行く。
すると、子供たちが巣立って使われなくなった子供部屋は、大抵がらんとして、荷物置きになっている。
それならまだいい方で、家自体に誰も寄りつかなくなり、いつの間にか近所で「ゴミ屋敷」と揶揄される空き家になっていることもある。
あれだけエネルギーを掛けて、夢や希望を形にしたマイホームも、たった30〜40年ほどでゴミ同然になる。ものすごく悲しいが、それが現実だ。
さらに辛いのは、建材に使う木々は樹齢60年以上のものがほとんど。60年以上生きてきた貴重な木が、人間の都合で短命に終わる……。胸が痛む。
そんなことを考え、日々悶々とし、ついに、「家がつくれない病」になった。
でもきっと、これは不治の病ではない。
問題は、建築のほうにある。
人生の時々に合わせた広さや間取りに、柔軟に寄り添えないか。
建築がぐにゃぐにゃと形を変え、暮らしに追随できたらどんなにいいだろう。
そして、家としての役目を終えるころには、そこで使われた材料に次の役割をつくり出せないだろうか。
僕は今、フレキシブルに形を変える建築、そして、そこに使っている木が2次流通して、繰り返し使える仕組みづくりに挑戦している。
まだまだ先は長そうだが、また、家づくりを楽しめる日が来ることを願っている。