僕が「素敵禁止」にする理由。
「素敵」という言葉が好きです。
そう言葉にできる状況にいることも、その言葉をやりとりできる相手がいることも、ほんとうに素敵なことで。しあわせなことで。
ただある時、ハッとしました。口グセのようになってしまってるなと。「素敵」と思って「素敵」と言うのはもちろんOK。でも「素敵」という磁力のある言葉に、だんだん自分の気持ちが集約されていく感覚がある。まるで、砂鉄を吸い寄せるマグネットのように。
その奥にある、細かいニュアンス。その気持ちを見つけたい…!
そこから手を伸ばして、心の奥の気持ちを探すようになりました。
「素敵」が好きだから、「素敵禁止」。
先日、刊行した著書「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」(ダイヤモンド社)に「素敵禁止」のことを書きました。
この言葉だけがひとり歩きしてしまって、僕がタイムライン上の「素敵」に目を光らせて、弓を引こうとする「素敵ハンター」になろうと言うことでは決してないですよ、と伝えたくて、「素敵禁止」にかける気持ちを紹介させてください。あえて得意技を封印することで、新しい技を獲得しようとしてます。
あなたには、よく使ってしまう言葉はないだろうか?
特定の状況になった時に、反射的にその言葉を選んでしまうというような言葉だ。「ヤバい」「すごい」「エモい」など、使えば何でもいい塩梅になる「味の素」のような便利な言葉。
僕は「素敵」という言葉がそうだ。どうしても使ってしまう。
だから「素敵禁止」というマイルールを設けている。
その奥にある気持ちはなんだろう?
いちいちそんな風に考えるクセをつけている。
最近こんなことがあった。着物姿の写真をSNSにアップしている女性がいた。素敵だ、と思った。でもすぐに「素敵禁止」を思い出す。
その奥にある気持ちを探したくて、しばし考えて「可憐です」とコメントをした。伝えた後、少しの違和感を覚えた。あれ、待てよ、本当にその言葉で良かったのだろうか? そう思い、スマホで新明解国語辞典のアプリを立ち上げて調べた。
やってしまったと思った。
決してひ弱そうな感じがしたわけではない。無事でいられるよう見守りたくなったわけでもない。というよりその「見守ってやりたくなる様子」って、そのやや上からのニュアンスはなんなのだ。違う、違う、そうじゃないんだ。
もう一度考える。僕が伝えたかった思いはなんだ?
似た響きの言葉に、伝えたい言葉があった。
「かれん」じゃなくて「かれい」だ!
そして、再び新明解国語辞典を引くと、「かれい」は2つあった。
似ているがニュアンスが異なる。ようやくたどりついた。
伝えたかったのは、「可憐」でもなく、「華麗」でもなく、「佳麗」だった。
僕は「佳麗ですね」とコメントし直した。そんな細かいことを気にしないでも、そう思う人もいるかもしれない。でも、その細かい差の積み重ねこそが、言葉で心をつかめるかどうかの違いになってくると思うのだ。
思いが込み上げる映画のセリフ。
悲しみで心を濡らす小説の一行。
笑いをかっさらう漫才のツッコミ。
僕たちの心をつかむ数々の言葉は、間違いなく書き手が言葉を選び抜いた結果なのだ。心に芽生えたこの思い、どの言葉を選ぶのか?
一番手の届きやすい引き出しから言葉を取り出しても、もちろん構わない。でも、その周辺にもっと伝えられる言葉が何かあると思うのであれば、普段使っていない引き出しに手を伸ばしてみよう。
あなたに誤解してほしくないことがある。
僕は、まるで言葉狩りのように、「素敵という言葉を使ってはいけない」と言いたいわけではない。心に響いた出来事がある。目の前にそれを伝えたい人がいる。目をきらきらと輝かせて伝える「素敵です!!」ほど、相手に気持ちが伝わる言葉はないと思うのだ。心掛けたいのは、自分の言葉の選び方のクセを意識すること。
よく使ってしまうな、という言葉。僕にとっては「素敵」で、あなたにとっては「すごい」かもしれないし、もしくは「エモい」かもしれない。その気持ちの奥に手を伸ばしてみよう。
5年ほど前のことだ。本を読んで、知り合いの編集者の方が編集担当と知って、熱っぽく感想をメールした。その時、頂いた返信がこうだった。
「魅惑的なメール、ありがとうございます」
…魅惑て!!「魅力的」が一般的だ、よく聞く言葉だ!!!そうじゃなくて「魅惑」て!!!!
その言葉が焼き付いて離れない。言葉を選んでくれたって、プレゼントを選んでくれたみたいに嬉しいものだ。
家の窓から桜が見える。とてもきれいで、それをなんと言葉にするか、そんなことを考えてる今日この頃です。
もしよかったら書籍「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」手にとってもらえたらうれしいです…!それでは、また!
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2023年、この春、新刊を刊行しました。テーマは、『選ばれなかったこと』です。タイトルは、『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』です。