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大学生にインタビューされました / サラリーマンとバンドの狭間で③

いよいよ来週からは15周年ツアーがはじまります。まずは大阪のみなさんよろしくどうぞ。みなさんからリクエストいただいたセットリストは「toconomaベスト」的な感じになりました。尻の穴まで全てさらけ出す勢いです。実はオリジナルでオシャンティーな衣装も作ってます。※尻の穴を見せるかは悩み中
そして東京は追加公演やります。これについてはまた別途書こうと思いますが、たぶん……激アゲな1日になるでしょう。友情パワー!

チケットはこちらから!おひとりさま歓迎!
20歳以下は無料です。当日に並ぶ列を作っておくので、チケット購入者が入場し終わったら案内しますね。身分証明書とドリンク代は忘れずに!


さて近畿大学 総合社会学部の金井啓子ゼミの水野智博さんにインタビューしてもらった記事も最終回です。シリーズはこちらから。

最後は生き方についての話になります。風立ちぬ、いざ生きめやもっ!

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「社会人2.0」の実践者として

「社会人2.0」とは、必ずしも一つの会社、コミュニティにしばられない生き方だ。最近は、toconomaは兼業バンドだからエモい、二足の草鞋というサラリーマンの夢を見させてくれる…などの声をもらうようになったという。音楽を辞めようと考えていたが、彼らの活動や生き方を見てもう少し続けようと思ったという人もいたそうだ。一見、彼らのような生き方は、特別な人に許された一般的ではない生き方に見えるかもしれない。しかし、インターネットが十分に発達した世界で、一つの会社、コミュニティに縛られて一生を終えることの方が稀になっていくだろうと石橋さんは語る。

父親世代とは違う生き方

自身の働き方と、父親の働き方を比較して違いを感じたのは「会社への依存度」だという。新卒で入社し、定年まで会社に捧げる分、会社は給与や待遇をある程度保証してくれていた時代は終わりを迎えつつある。
 そうした不安定な世の中を生きていく一つの方法が「社会人2.0」。たくさんのコミュニティに参加することは、もちろんそれなりの大変さがあるという。しかし、その分、それぞれの世界にそれぞれの顔があり、いわば足場が増えて安定する。石橋さんは今のところ、こうした生き方はメリットの方が多いと感じている。

複数の顔

複数のコミュニティに関わる、というと少し大げさに感じるかもしれないが、実は「複数の顔を持つ」こと自体はもはや特殊なことではない。リアルの人格とは別に、SNSで複数のアカウントを使い分けること、オンラインゲーム上での人格でのみつながる「友人」が居る、といったことは普通になった。
 そうした生き方は今後、インターネットの世界がメタバースの発達などにより、ますます進化することで、より三次元的なことでも自然になっていく。SNSのアカウントを足していくように、いろんな世界に、いろんな顔で、いろんな形で住む。そうして「世の中をサバイブしていくこと」が普通になっていくのではないか、と石橋さんは語った。

やりたいことにはわがままでいい

最後に、就活に悩む学生に向けてのメッセージをいただいた。つい、社会人になれば、学生時代の好きなこととは距離を置き、いったん区切りをつけなければいけないと私も考えていた。しかし、石橋さんは「やりたいことに関してはわがままでいい」という。やりたいこと、好きなことを社会人になったからといって手放す必要はないし、またそれに対して50:50で打ち込まなければいけないわけでもない。当然、若手のうちは忙しくて、やりたいことに割ける時間が1割になったり、仕事が生活の比重を多く占める時期もあるかもしれない。しかし、どんな状況であろうと「好きなもの」や「カルチャー」に対しては、その時々でちょうどいい距離感を図りながら、傍に置いたまま社会人になってもいいんじゃないかと、石橋さんは言う。

自分探しなんてしなくてよい

また、自分自身の理想と現実のギャップに悩む学生には、「自分ていうのは探すものじゃなくて他人が見つけてくれるもの」という言葉を贈ってくれた。
 たとえ望む業界や職種に行けなくとも、とりあえずそこで与えられた環境をまっとうしてみる。もちろん、その環境から逃げてもいいと前置きしたうえで、とりあえず一生懸命やった果てに出会う「新しい自分」というものは大切だと語った。やりたい職があり、そこに向かって就職するのもいい。しかし、思い切って飛び込んだ世界で、他者に自分の意外な価値を発見してもらう。ひょっとしたらこれは自分に向いているのかもしれない、という小さな実感の積み重ねで「本当の自分」になっていくのではないか、とも語った。

就職活動を遊ぶ

toconoma自身も周囲の眼差しによって成長したバンドだという。フジロック出場に関しても、周囲の人に「絶対フジロック似合うよ」と言われ目指した。そうしたことは自分たちではわからなかったと石橋さんは語った。
 自分が持っているものが、どのように評価されるのか、見えているのか、ということは周囲の反応でしかわからない。そういった意味で、とりあえず頑張ってみたものが意外にも評価され、自分自身のアイデンティティの一つになっていく。辞めたくなれば、転職サイトに登録すればいくらでも求人はある。

「『就職活動を遊ぶ』くらいの感じでいいんじゃないでしょうか。もちろん真剣にやるんですけどね。マインド的には遊ぶくらいの感じでよかったのかなって、学生の時の自分には言ってもいいかもしれないです。」

SNSには社会人生活に対する悲観的な投稿があふれている。ブラックすぎる、死にたい、といった投稿が目立つ。しかし、石橋さんは、社会人になった方が逆説的に自由になったと語る。単純にお金を稼ぎ、それを楽しく使う。もちろん、仕事上で自己実現を目標にしても構わないが、自分でお金を稼ぎ、好きな服を買うことだって立派なモチベーションだ。結果的に、社会人になって背負う責任と比較しても、学生の時よりも自由になれると考えているそうだ。

最後に

「社会人と趣味人の間」。よくばりな生き方な分、それを実践することは想像以上に難しい。しかし、そうした中で、何度も「楽しむ」という言葉を使う石橋さんは笑顔だった。実際、今この瞬間が楽しくなくなりそうでも、楽しい方向に自分を持っていくことを大切にしている。最後に、石橋さんに「楽しく生活する秘訣」を聞いた。

「もともと楽しいことはさ、楽しいからいいんだよ。でも、そういうわけにはいかないじゃないですか世の中。8割しんどい。だからこそ、バイトで皿洗い嫌だな〜とか思ってても、『何秒で皿洗うの目標にしてやろう』みたいな、自分をドライブさせていくってのは、あると便利なスキルだと思います。マゾっぽいけど。面白きことなき世の中を面白く、精神ですね。」

 楽しくない自分を、楽しませられるのは、自分自身しかいない。楽しくない生活は、勝手に楽しくはなってくれない。何か一つのことに打ち込むことも尊いが、いろんなことにちょっとづつ打ち込むことも尊い。石橋さんの楽しい「やせ我慢」は今日も続く。

編集後記

彼らの音楽に出会ったのは、高校生の頃だった。きっかけは、Youtubeに出てきた『relive』のMVを見たことだ。木の切り株の上に乗ってギターを抱えキレキレのカッティング奏法を披露する石橋さんを何度も再生した。ちょうど3rdアルバム『NEWTOWN』が出たころだったと思う。それから私は、彼らをきっかけに「インストゥルメンタルバンド沼」にはまっていく。彼らの4thアルバム『VISTA』発売日には0時に音楽配信サービスで配信を待ち構えるほどだった。今年のフジロックのパフォーマンスも配信で見た。苗場の空に響く『the morning glory』で観客たちが一斉に手を振る様子は、神秘的でさえあった。観客とメンバーの幸せそうな様子が映像を通して伝わってきた。私も本当に幸せな時間を分けてもらった。
  今回のインタビューを通して感じたことは、「楽しくなる」には、多少の根性と努力が必要であるということだ。そして、その楽しむ心、行動は周りに波及していく。自分が楽しくなれば、周りも自然と楽しくなるのではないかと考えた。

「もともと楽しいことはさ、楽しいからいいんだよ。でも、そういうわけにはいかないじゃないですか世の中。」

 それがまさに、石橋さんが「やせ我慢」の果てに見つけた一つの解なのではないのかと感じる。何も今から石橋さんのようになれないことを焦る必要はない。自分なりの「楽しみ方」を見つけていけばよい。

水野智博

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あらためまして水野さんありがとうございます。インタビューということで恥ずかしいことも喋ってますが、就活を控えた学生が真剣に話を聞いてくれたので、僕も真剣に答えたつもりです。
あんまり根性論とか、気合いで解決!とかブラックで好きじゃないんだけど、ある程度の馬力みたいなものは必要だよな…と改めて思いました。大学を卒業する時、尊敬している教授に「大人になって一番難しいことは情熱を持続すること」って言われたのがしみじみ分かりますね。ガソリンは自分で調達せねばいかんという。

というわけで令和になって久しいですが、今は多様性の時代です。生き方だって十人十色あってもいいんじゃねーかと思う次第。自分の人生が正解だとは思いませんし、今でも迷ったり困ったり泣きたくなったりしてるんですが、このインタビュー記事が誰かしらのサムシングになれば幸いです。

ちなみに水野くんにひとつだけ、怒ったというか注意した事があるのですが、

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いしばなし

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インストバンドtoconomaのギター石橋がお届けするよもやま話。バンドにまつわること、デザインのこと、コラムなど。SNSでは書ききれない…

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