元銀行員の私が社畜時代に会った無能な上司たちとその末路 その1(全4回)
これは10年以上昔の話、私が九州地方のS県にあるS銀行に勤務していた時のことです。
その頃の私は、とある田舎の支店に勤務していました。パートさん含め20人ちょっとのちっちゃな支店です。
まずは登場人物を紹介します。
私:30代前半、中肉中背の平凡な男
支店長:40代後半、大男、びっくりするくらいの悪人面、例えるならば「カイジ」のラスボスみたいな見た目。仕事できない、仕事しない
次長:40代半ば、「THE中間管理職」、支店長の腰ぎんちゃく、出世欲の塊、向上心の塊と言えば聞こえが良いが過去に何かトラウマでもあったのだろうか?というくらい人間不信。常に人の悪口と自慢話をしている
所長:50代前半、支店に一つだけある出張所の長。人の好いハゲ。仕事は出来ない。いつもヘラヘラしている
ピピピピピ・・・
月曜日の朝、目覚ましで起こされる。もちろん、寝覚めは最悪だ。また、地獄の一週間が始まるからだ
今の時刻は朝の6時ちょっと過ぎ。すぐに身支度を整えてアパートを出なければ。朝ごはん?とてもそんなの食べる気分じゃない。
チリンチリン
自転車で駅へと急ぐ、田舎なので電車の本数も少ない。万が一乗り過ごしたら完全に遅刻だ。私が住んでいるアパートから駅までは自転車で15分、その間ほぼ信号もないので渋滞で遅れるということはないのだが
ガタンゴトン・・
そして、何事もなく駅へとつきいつもの列車に乗り込みボーっと外の景色を眺める。
(ああ、会社行きたくないなー・・でもオレにはまだ小さい息子がいるし頑張らないと)
そして片道一時間弱の電車旅は、情け容赦なく行きたくもない目的地へと到着したのであった。
「おはようございます」
「おはよう」
「あ、おはようございます」
最寄り駅から支店までは歩いてすぐだ、もうすでに出社している人たちに挨拶をする。もちろん気分は最悪である。そんな気分のまま黙々と朝の支度を整える。金庫から重要な書類などを取り出して並べたりとか、掃除とか、そんな色々な雑用だ
「あ、支店長おはようございまーす」
「支店長おはようございます」
「おはようございます支店長」
来た。ヤツだ。一番遅く来やがって偉そうに。まあ、この中では一番偉いのは間違いないのだが
「ようし、会議始めるぞー」
出社したくない理由その1の会議だ。営業係と融資係と預金係と所長に支店長と次長を加えたメンバーで行われる、いわゆる「営業推進会議」だ。
「まず、預金係から」
「はい」
「じゃあ、次は融資」
「はい」
先週の結果とノルマに対しての達成率、足りない分を今週どう補うかという内容を次々と報告していくのである
「じゃあ、営業係」
「はい、先週の実績と進捗率がこちらです。ノルマ未達分に関しましては
見込み先A先が~件あり、これらを合わせると達成率が~%となります。更にB先が~件あるのでこれを合わせると達成できる見込みです」
ちなみにA先とは、確約先、B先とは、確率が高い先のことだ
「本当か?絶対に達成できるのか?」
「はい」
「絶対に達成しろよ」
その後もネチネチと言われ続ける。ああ、朝から部下のモチベーションこんなに下げてどうすんだよ?そう言えば曜日別でいうと月曜日が一番サラリーマンの死亡率って高いそうだけど、そりゃ納得できるな。
そもそも、営業にこんなノルマ押し付けても達成できる訳がない。こんな田舎では、そもそもの見込み先がないのである。だから、この場を乗り切るためだけにウソをつくしかないのだ
「はい、じゃあ次は出張所」
「はあい」
支店長、次長が露骨にイヤな顏をする。仕事ができない支店のやっかいもののこの年上の部下を2人とも蛇蝎のごとく嫌っているのだ
「出張所の進捗率は~で、見込み先は~で、今週中に達成の見込みです」
「ほんとか?」
「はあい」
「そう言ってこの前も、ダメだったじゃないか」
「今週は頑張ります」
「達成できるんだな」
「はあい」
2人がかりで嫌味を言うが、柳に風でヘラヘラしている。それが、余計に癪に障るのであろう。どんどんと2人の機嫌が悪くなっていく
まあ、自分の番は終わったのだ。後は所長がどんなにイジメられてても関係ない。とても人の事まで気が回る余裕なんてないのだ
「ようし、じゃあ朝会始めるぞー」
「営推会議」が終わって会議室を出る。そして、そのまま「朝会」へと突入する。支店のメンバー全員参加のミーティングだ。
「おはようございまーす」
「「「おはようございます」」」
司会は一定以上の役職での持ち回りだ。その進行によりミーティングは進んでいく。とは言ってもほぼ支店長がなにやら話すだけなのだが
「ほにゃららで、ほにゃららだ」
支店長のつまらん話が続く、支店のメンバーは横でしきりに頷いている次長以外は全員俯いている。こんなつまらん話は一刻も早く終わらせて欲しいのだ。何しろ月曜の朝なのだ、することは山積みだ
「おい、この支店の最優先課題はなんだと思う?」
と思ってたら、また余計な事を言い出しやがった。ホントに碌な事しないな。そして、その質問はあろうことか私に向けられていた。
正直、ここでなんと答えても不正解だ。
「・・・わかりません」
ニヤリと笑う。鷲鼻にこれ以上ないくらいシャクれた顎。完全一重の三白眼がギョロリとこちらを向く。ドラマなんかで犯罪者が悪だくみしているときの表情と完全に一緒の顏だ
「お前は、そんな事もわからんのか?いいか、この支店の最重要課題は’新規事業先’それも優良な事業先の開拓だ」
「はい」
「なぜなら、事業先を増やせば、会社との取引、役員、従業員、そう言った取引が派生する、それにより我が支店の基盤を支えることになるじゃないか」
そんなの小学生でもわかるだろうが?とでもいいたげなのであるが、そんな優良な事業先はこんな田舎にはないのである。それこそ小学生でも分かるはずなのだが・・・
裸の王様以外、みんなその事を分かっている。が、誰も何も言えない。唯一意見できるとすれば次長であるが「さすが支店長」とか言ってる
そして、支店のメンバー全員が暗い気持ちになったまま朝会が終わる
「シャッターあけまーす」
ウイイイイン
「いらっしゃいませー」
銀行の開店時間の9時となったためシャッターが開く。そして朝いちばんで続々と来店されるお客様へと挨拶をする。
さあ、営業周りへと出発だ。ぐずぐずしてるとまた怒られる。取るものもとりあえず店の外へと追い立てられるように出ていく。
まあ、支店長と次長がいる支店の中へと留まっているよりはずっといい。あの顏は出来るだけ見たくない
「ただいま戻りましたー」
夕方となり営業周りから帰社する。憂鬱だ、できればずっと外に出ていたいがそうもいかない。帰社したらしたですることは山積みなのだ。
「ねえ、主任」
「なんだ?いま、忙しい」
「あいつ、また寝てますよ」
「そうか?勝手に寝かせとけ。絶対、起こすなよ。フリじゃないからな」
「起こすわけないじゃないですか」
支店長は一日、支店で何をしてるのだろう?普通の支店長は何をしているのか分からない。外に出て重要な取引先の社長と会ったり、重要な会議に出席したり、支店全体の運営について計画したり、など色々とすることはありそうだが
だがこの支店長は一日中支店におり、居眠りしてるかどのPCにもインストールされているソリティアというゲームをしてるかだけだった
「おい、今日言ったアレどうなった?」
キタ!居眠りから目覚めた支店長から不意に声を掛けられる。すぐさま、席を立ちダッシュで支店長席へと向かう。今朝言われた、新規事業先についての報告だ
「はい、一先の見込み先があります」
「ほう、どういう先だ?」
「○○産業という△△に使う部品を製造する会社です。今度、設備投資を予定しているとのことでした」
「なるほど、そこに融資しようという話だな?お前の融資判断としてはどうだ?」
「はい、当行とは取引がありませんので詳しい財務状況は分かりませんがヒアリングによりますと無借金経営で抵当権の設定されてない不動産をいくつか所有しているそうです。当行が第一順位で抵当権設定することには合意されてます」
「ほう」
「また、製造している商品ですが一部上場企業のほにゃらら社が主な取引先でありその部品に関してはほぼ独占状態とのことでした」
「へえ」
「面談者は奥様ですが、社長は職人肌であり実質的な経営は奥様がされています。支店長と面談したいとのことでした」
「はあ」
「第2地銀のほにゃらら銀行や信用金庫、信用組合などは、役員が訪問されていると言われてましたし、ご同行お願いできますか?」
「そうだな、考えとく。戻っていいぞ」
「はい、失礼します」
もちろん、その後支店長が同行することはなくその会社との取引は始まらなかった
融資の事も分からない、かと言って営業もしない、部下にイバリ散らすだけの男がなぜ支店長になれたのか?
それは彼が出世コースに乗ったからだ
「出世コース」に乗る。出世を望むサラリーマンの場合であるが、うらやましい話である。だが、具体的にどうすれば乗れるのか?そこには様々なケースがあるだろう。
だが、私がいた銀行には明確な「出世コース」への道が標されていた
「組合活動を行う」
いわゆる「労働組合」の役員となり、労働者側の立場に立って使役者である会社とその権利を主張し、労働者の環境をより良いものにするために労働者の代表として交渉を行う
当時も今もその時の組合役員が日々、どういった活動を行ってきたか分からない。そして、なぜその活動を行うのが「出世コース」なのか?いまだに謎である。
だが、その男はことあるごとに「オレは同期の中で一番の出世頭だ」「組合では委員長をしていた」などと自慢していた。
まあ、そんな男が支店長をしている支店ではあるが、あの時まではなんとかそれなりには回っていた。
そう、ヤツがしでかす時までは・・・