読了報告。「姉上は麗しの名医」を読みました。
こんにちはこんばんは、小谷です。文章を綴るのがかなり久々なのですが、毎日Twitterしてるし、そうでもないような気もします。前回の読了報告以降、文章を書くことから離れていました。仕事が忙しかったこともありました。短時間で仕事を終わらせるのって、疲れる……ようやく落ち着いてきたので、読書も再開した感じです。
さて、今日読み終えたのは馳月基矢さんの「姉上は麗しの名医」です。「日本おいしい小説大賞の隠し玉」が時代小説を出版!このお話を聞いたとき、とにかくびっくりしましたよね。馳月さんと言えば私は時代小説、そして美味しいご飯のイメージです。カクヨムで活躍されてる時から親しくしていただいてます。(1月には二人で居酒屋でご飯食べました。めっちゃ美味しかった)馳月さんの作品で初めて読んだのが「いけず」でした。新撰組、沖田総司の料理を作る女の子のお話。美しく端正で、隙のない文体は例えるなら見目麗しく色白な、それでいて腕の立つ剣豪、みたいな。富士見L文庫の「飯テロ 真夜中に読めない20人の美味しい物語」に収録されています。(「いけず」氷月あや名義)
思い出話が尽きないのですが、まずは本作のあらすじから。
時は江戸。小さな剣道場の若先生、瓜生清太郎は道場に通う子供から、巷で起きる不思議な事件について耳にする。なんでも最近、野良犬が毒を食べて死んでいるらしい。同じ頃、定廻り同心の藤代彦馬は町医者の荒木西洞が毒を含んで死んだという事件を追っている。彦馬は瓜生家へ足を運んだ。そして、彼は清太郎の姉であり女医でもある真澄へ助言を求める。薬絡みの不審死事件、真澄は解決に乗り出そうと師の元へ向かうが、そこでも医者と毒にまつわる不審な話を耳にする。真実を探るため、怪しいと睨んだ医者の元へ単身で乗り込む真澄。そこで彼女の消息は絶たれた……。町から医者が姿を消す理由とは? そして、医者と毒にはどんな因果があるのか? 喧嘩っ早く不器用な若先生・清太郎、穏やかだが切れ者の同心・彦馬。二人は姉上奪還できるのか?
なんですか、この極上のエンターテイメントは。面白いに決まってるじゃないですか。
江戸時代にバディ!しかも剣豪と同心の組み合わせ。そして医療サスペンス。「面白い」のてんこ盛りです。ドラマ界では医療モノと刑事モノは人気らしいです。そのどちらも兼ね備えているわけですね。舞台化ももちろん熱望ですが、ドラマ・映画化もしてほしいなと思いました。とにかく映像化してほしい。
時代小説を書くのって、大変です……調べ物が半端じゃないし、しかしどこまでリアルに落とし込むかその匙加減も難しい。例えば物の名前一つ取っても現代には通じないものもありますし、仕事も生活様式も違う。作法や言葉も違います。どの時代を書くのもそうですが、ひたすらに研究しなくてはリアルな時代は描けない、と思っています。とは言え、敷居が高いわけではなく。
私は時代小説を読んだことが……(考え中)………………ありませんね……ないです。多分、中学の国語の授業で読んだ「高瀬舟」くらいじゃないでしょうか。それほど触れたことがないです。漫画やドラマ、映画は好きなんですが、そう言えばきちんと小説を読んだことがなかったです。なので、時代小説の読み方を知らないまま読み進めておりました。明治時代の小説を書いているのにおかしな話ですが、このまま話を続けます。はい、そんな私は違和感なく、この時代小説を楽しみました。でも、どことなく新しい風を感じました。
先にも言ったように、馳月さんが紡ぐ文章は美しく端正です。率直に言えばイケメンです。確かな筆致は読んでいて心地いいし、何より気持ちがいい。しかし爽やかだけでなく、時には荒々しく吹き荒れる風もあり、静と動が鮮やかです。
若先生の清太郎は考えるより先に動く肉体派。彼の振るう剣は強く、揺るぎがない。一本気な性格ゆえ姉上奪還のため、少々(とも言い難い)周りが見えなくなってしまうのが玉に瑕というか。そんな彼を支えるのが彦馬。洞察力に優れ、静かに状況を分析する頭脳派。落ち着いた兄貴分って感じですけど、真澄が消えた時はきっと内心ヒヤヒヤしてますよね。気が気じゃなかったと思います。でも彦馬は器用な人ですね。二人が変装するシーン、ハラハラしつつも楽しかったです。そう言えば、彦馬は器用なのに真澄を前にするとたちまち不器用になりますね……真澄とのシーンはなんだか微笑ましいです。
真澄は正義感が強く、無鉄砲な人です。このあたり、さすが姉弟ですよね。本当にそっくりな姉弟。しかし、ただ我が強いわけじゃなく、凛とした強さが周囲の人々を動かす。誰が相手だろうと真摯に向き合い、叱ることができる人。彼女、二十六歳なんですね。なんと私と同い年です。私は彼女みたいに強さを貫けないです。昔から強い女性に憧れているのですが、真澄はまさに理想の女性です。器量よし気立てよし、おまけに美人だなんて最強ですよね。
以下、本編のネタバレ含みます。
本作の最大のキーワードは「毒」です。烏頭と阿片。馳月さんとご一緒した時にも歴史時代ものの調べ物についてうかがったんですが、すごく丁寧に調べられているんですよね。だからよどみなく説得力がある。読書においてこれほど安心できることはないでしょう。ただし物語はかなり物騒です。阿片は小学生の歴史でも学ぶので知っている方がほとんどだと思います。中毒性のある薬物ですね。烏頭は別名トリカブトですね。有毒植物です。しかし、漢方薬としても使われることから使い方を間違えなければ薬にもなるわけです。そんな烏頭が巻き起こすのは、名誉と金の匂いがプンプンする事件。町医者をそそのかし、烏頭を使った薬を作るよう命じる藩主の影が真澄を拐います。この藩主、物語が進むにつれて感情移入してしまえる不思議なほど魅力的なキャラクターでした。馳月さんが舞台化のお話されてた時、彼のイメージがまさにあの人で、同感です。あの人しかいないです。ラスト、とにかく圧巻でした。彼と一緒に「母上ー!!!」と心の中で叫びました。毒に冒されてもなお息子を守ろうとする母の姿は強く、凛々しく、美しい。ラスト、とにかく圧巻でした。
いくつも散りばめられた伏線を拾い、一つずつ着実に真相を明らかにしていく構成はミステリー小説のようでもあります。て言うかミステリーですよね。江戸医療ミステリーって言いたい。人の生き死にはまさにミステリーで、そこに深く関わる医者や医術はミステリーになくてはならない存在だとも思います。私、登場人物より先に伏線から読み取って推理する読み方をするのですが、清太郎、彦馬、真澄と一緒に謎を解いていく感覚で読んでいました。本当に楽しかったです。
忘れてはいけないのがもう一つ。魅力的なキャラクターがたくさんいますが、作者はあのおいしい小説大賞の隠し玉です。食事のシーンも楽しみにしていました。鰻の白煮って!!なんて上品なんだ!!!絶対おいしい!!!白煮ではなくとも、鰻は蒲焼きだって白焼きだって美味いのですが、一度味わってみたいものです。白煮食べられるお店あるかなー。今度、柳川の鰻を食べに行きたいなと思いました……飯テロが容赦ないですよ。甘く苦い毒を浴びたあとの鰻は格別です。後味も爽やかでした。
馳月さんは長崎五島のご出身です。新聞記事、読みました。精力的に創作活動に打ち込まれている姿に憧れます。また、このコロナ禍で過酷な状況での出版、本当に大変です。馳月さんの本が出たらまた飲みに行きたいなぁと思ってたんですよ。まだまだ油断できないですが、近いうちに飲み会したいです。
しかし、まずは本作がたくさんの人の手に渡ることを祈ります。時代小説は敷居高くないです。読みやすくて楽しい、極上のエンターテイメントを手に入れて、読んでください。