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独立するみなさんへ(契約書の話)

契約書はよく読め!

昨日はお金(仕事の対価)の話をしましたが、今日は契約書の話をしたいと思います。せっかく納得のいく金額で約束をしたとしても、それがただの口約束(口頭発注)だと、あとで困ったことになります。受注側として、仕事をしたのに約束どおりにお金をもらえないのはもちろん困りますが、下請法によって発注側も罰せられることになり、クライアントも同じように困ったことになります。

「発注書(注文書)」は、仕事の内容、納品物、納品期日、納品場所、対価、支払い条件などの、基本的かつ重要なことが書かれた書類です。たいがいはA4サイズ1枚くらいですが、実は立派な契約書なのです。発注書の前にこちらから「見積書」を送って対価の相談をすることが多いですし、発注書に対して、こちらから「発注請書(注文請書)」を返す場合もあります。

「急いでるからとりあえず仕事始めて!発注書はあとで送るから!」と言われたときにどうするか。「そんなこと言わないで、お互い困ったことになるから発注書はちゃんと先に送ってくださいよー!」と返すのが正解だと思います。たとえ親しくしているクライアントでもです。そもそも対価の相談すらできていませんよね。それで「もう仕事を頼まないぞ!」などと言ってくるようなクライアントなら、その先おつきあいしていてもいいことありませんから、お断りするのがいいと思います。(書いててなんかドキドキしてきました。主に自分に言い聞かせてます。笑)

仕事を頼む側と頼まれる側は対等です。対価というコトバは「提供した価値とお金の等価交換」という意味ですよね。担当者どうし個人レベルでのお互いに対するリスペクトが根底にないと、仕事の関係は長くは続かないと思います。

「守秘義務契約書(NDA, Non-Disclosure Agreement)」もよく取り交わす契約書です。「あー、ヒミツを守ればいいんですねー! 当然っスよね! はいはい、わかりましたー!」でハンコをポン。これはダメ!絶対!

ジャイ○ン契約書!?

世の中には「ジャイ○ン契約書」というものが存在します。「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」という契約書です。名前は私が勝手につけましたが、何度も実際に見ましたので、実在しているのは間違いありません。守秘義務契約書に限ったことではなく、あらゆる種類の契約書に、こっそりと、しかし絶対的な支配力を持ってジャイ○ンは存在しているのです。

ジャイ○ン契約書を受け取った場合は、速やかに相手と交渉してください。相手もはるか昔からずっと同じフォーマットを使っていて、きちんと内容を把握していない場合すらあるのです。あまりにひどい内容だったので相談したら、担当者が「ほんとにひどいですね!」と言ったこともありました。(笑)

私は、特殊な場合を除いては、双方がお互いに相手方の秘密を守るという、公平な守秘義務契約書を締結しています。「甲および乙は、相手方から開示された機密情報を機密として保持し・・・」といった文章になることが多いです。相手だけがこちらの機密情報を自由に利用できるというような契約は基本的に結びません。

より詳細に契約内容を決める場合は、私は「業務委託契約書」や「共同開発契約書」を締結することが多いです。「基本契約書」や「個別契約書」になる場合もあります。発注書や機密保持契約書に該当するすべての内容を包含したものにすることもあります。ページ数も多めで、難しい言い回しや専門的な言葉もたくさんあって、最初はどうしても「ぅゎぁ、めんどくさい」となります。

しかし、慣れてくると読むべきポイントも見えてきます。私の場合は、発注書や機密保持契約書に該当する部分の他に、成果物の権利帰属、成果物の使用権、成果物の営業活動への利用、権利侵害の保障(それぞれ表現は異なる場合もあります)などについて書かれているところを重点的にチェックします。

「成果物の権利帰属」については、ほとんどの場合はクライアント側の所有となることが多いです。そこで大切なのは、「権利を渡す代わりに何をもらうのか」ということです。対価はもちろんですが、権利を所有していなくても、定めた条件下でなら使用することはできる(成果物の使用権)とか、自分が開発に関わったことを公言したり宣伝に使ったりしてよい(成果物の営業活動への利用)といったこともあります。

私は「お金と名誉のバランス」とよく言っているのですが、たとえば、対価が少ない場合は、これは自分の作品だと世の中に公表できる名誉は欲しいと考えます。どっちも足りないのでは、仕事をする意味を見出せません。

模型メーカーのタミヤさんと私の会社の間の契約はユニークです。成果物の権利は甲(タミヤさん)と乙(私の会社)が共同で所有し、甲はホビー製品の製造販売での独占使用権を所有し、乙は実車の製造販売での独占使用権を所有しています。同じデザインで、タミヤさんはミニ四駆やラジコンを、私は実車を作ることができます。

また、タミヤさんが商品の箱に私の氏名やプロフィールを掲載できる(義務ではないのですが、実際に商品の箱でご紹介いただいています)ということや、私が自分の作品として公表していいことも書いてあります。これは、契約書の内容について交渉を重ねて、両者が納得できる内容を探りあった結果なのです。

「権利侵害の保障(第三者知的財産権)」はよく読まないと怖いところです。東京オリンピック・パラリンピックのマークでも大きな問題となりましたが、誰かの特許や意匠権、著作権などを侵害していないことを保障するのは、実はとても難しく、コストがかかることなのです。(本人がわかっていて故意に真似をするなんていうのは論外ですが。)

J-PlatPatなどの情報プラットフォームのおかげで、素人でもずいぶん検索しやすくなりましたが、完璧かと言われればそうではないでしょう。専門の弁理士さんに調査(先願調査)を頼めば当然のことながら費用がかかります。たとえば、その弁理士さんの費用よりも少ない対価で、「いいデザインも考えて、ちゃんと権利侵害の保障もしてね!」と言われたら、無理としか言いようがありませんよね。

「世界のどこにも似ている何かが絶対にない」ということを保障するのは極めて難しいことです。契約書の文面が、その全責任を一方的に負うような表現になっている場合は、クライアントと相談したほうがよいと思います。

契約についてはまだまだ言いたいことがたくさんある気がするのですが、ひとまずこれくらいに。法律の専門家ではないので、用語や考え方など間違っているところがあるかもしれません。ご指摘いただけましたらありがたいです。

とにかく「契約書はよく読め」この一言につきます。仕事に失敗したら針千本飲ますと書いてあるかもしれないのです。「ジャイ○ンを探せ!」なのです。(笑)

昨日のお金についての投稿はコチラ。 

https://comemo.io/entries/5636

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