LP視点で考えるWeb2 vs Web3 VCの評価基準の違い:未実現利益と時価総額をどう評価するか
ベンチャーキャピタルは、新興企業への投資を通じて高いリターンを追求しますが、その投資の成否を測る上で重要なのが未実現利益の評価です。特に、Web2とWeb3では投資対象や市場の性質が異なるため、未実現利益の評価基準にも大きな違いがあります。本記事では、LPの視点から、Web2とWeb3のVCにおける評価基準の違いと、未実現利益を正しく評価するためのポイントについて考察します。
一般的な株式でのExitについて
まず、従来の株式投資におけるExit戦略を振り返ります。Web2の世界では、VCはスタートアップ企業にエクイティを通じて資金を提供します。企業はその資金を活用して事業を拡大し、最終的にはIPOやM&AによってExitします。これらのExitにより、VCは投資した株式を市場価格で売却し、利益を確定します。
株式市場は長い歴史を持ち、法規制や取引のルールが整備されています。投資家は財務諸表や業績予測などの情報をもとに投資判断を行い、上場株に関しては浮遊株の比率(トークンでいうDV)がトークン市場と比べると少ない一方、多くの主要銘柄については流動性も高いため、比較的スムーズに売買が可能です。また、上場後は株式を売却できるため、未実現利益の評価も容易です。
Web3のトークンの上場について
一方、Web3の世界では、ブロックチェーン技術を基盤としたプロジェクトが主流となり、投資対象もトークンや暗号資産になります。これらのトークンの上場や取引は、従来の株式市場とは異なる独自の市場で行われます。
中央集権取引所への上場
トークンが上場するのは、BinanceやBybitといった中央集権型の民間取引所が主流です。これらの取引所は世界的に利用されているものの、多くが規制の網をかいくぐって運営されており、法的な整備が十分ではありません。そのため、上場プロセスや基準も取引所ごとに異なり、透明性に欠ける場合があります。
取引所のTierとその影響
民間取引所にはTierが存在し、トップティアの取引所に上場できれば、高いFDV(完全希薄化時価総額)と流動性が期待できます。これは投資家にとって非常に重要で、トークンの価値や売買のしやすさに直結します。逆に、下位の取引所にしか上場できない場合、流動性が低く価格変動も激しいため、投資リスクが高まります。
取引所の上場基準とその影響
取引所は民間企業であるため、上場するトークンを選ぶ際には自社の利益を最優先します。具体的には、以下のような要素が上場基準に入ってきます。
ユーザー獲得:新たなトークンを上場させることで、どれだけ新規口座開設が見込めるか。
取引手数料収入:そのトークンがどれだけ取引され、手数料収入が得られるか。
高い上場手数料:上場したいプロジェクトが多額のトークンやフィアットを取引所に払う必要がある。
これらの理由から、取引所は自社にとって有利なトークンを優先的に上場させます。その結果、投資家が期待するプロジェクトが必ずしも主要な取引所に上場できるとは限らず、未実現利益の評価が難しくなる場合があります。
Web3 VCが直面する問題
トークンのロックアップとその影響
トークン投資には、特有のロックアップ期間が設けられることが一般的です。
ロックアップ期間の長さとリスク
VCが投資したトークンは、上場後もすぐに受け取れるわけではなく、ロックアップ期間が設定されています。プロジェクトによっては、その期間が最長で5年にも及ぶことがあります。この間、トークンは受け取れないため、価格が高騰しても利益を確定できないリスクがあります。また、市場環境が変化し、価格が下落するリスクも抱えることになります。
トークンの分配、価格変動と時価総額
トークンは、エコシステムの維持や発展、流動性の確保、バリデーターへの報酬など、多岐にわたる目的で分配されます。その結果、株式における安定株主のような存在が少なく、Web2における浮遊株が大きくなり、市場での売買が価格に大きな影響を及ぼします。特にアルトコインは市場規模が小さいため、価格変動が激しくなりやすいのです。
また、いわゆるFDV(希薄化後時価総額)は虚数に近いです。なぜなら、トークンローンチの段階でオファリングレーシオを絞って、多くのトークンにロックアップやトレジャリーにある状態にしていればあげることができるため、基本的に時価総額を考えるときは、FDVを確認して、DVもボリュームがあるのか、日次、月次の取引高も考慮する必要があります。これはある意味、BTCが以下に金融商品として他のアルトコインと一線を画しているか考える上でも面白い指標になるとも思います。
トークン管理体制の課題
トークンの適切な管理体制を持つ国産ファンドはまだ少ないのが現状です。以下のような課題があります。
セキュリティリスク:ハッキングや不正アクセスによるトークンの流出リスク
保管方法の複雑さ:ウォレットの管理や秘密鍵の保護など、専門的な知識が必要
売却戦略の欠如:市場への影響を最小限に抑えながら売却するための戦略が不足
これらの課題をクリアできないと、せっかくの投資リターンを最大化できないばかりか、トークンを失うリスクも存在します。
リターンを最大化するためのファンドの能力
暗号資産に精通したファンドかどうかは、以下のポイントで見極めることができます。
セカンダリーマーケットでの売却戦略
大量のトークンを市場で売却する際、取引量が少ないと市場価格を押し下げてしまいます。これを避けるために、ファンドは以下の戦略を取る必要があります。
分割売却:少量ずつ時間をかけて売却する
OTC取引の活用:店頭取引を利用して大口取引を行う
マーケットメーカーとの連携:流動性を確保しつつ売却を進める
これらの戦略を適切に実行できるファンドは、リターンを最大化しやすくなります。ゆえにヘッジファンドがVCアームを持つケースが散見されやすく、高いリターンを狙う知識が揃っていると考えられますし、Web3ファンドへの出資で数社検討する際に大きなプラスアルファを持っているでしょう。
市場価格と乖離せずにフィアットへの変換
暗号資産をフィアットに変換する際、市場価格と乖離が生じると大きな損失を被る可能性があります。ファンドは以下の能力が求められます。
適切な取引所の選択:流動性が高く、信頼性のある取引所を利用する
タイミングの見極め:市場の状況を分析し、最適なタイミングで売却する
為替リスクの管理:暗号資産からフィアットへの変換時の為替リスクをヘッジする
これらを実現するためには、高度な市場分析能力と経験が必要です。
LPとしてのデューデリジェンスの重要性
LPがWeb3ファンドに投資を検討する際には、デューデリジェンスで以下の点を必ず確認するべきです。
トークン管理体制の有無:セキュリティ対策や保管方法がしっかりしているか
売却戦略の明確化:セカンダリーマーケットでの具体的な売却計画があるか
市場との連携:取引所やマーケットメーカーとの関係性はどうか
過去の実績:そもそも上場マーケットでの暗号資産でのトレーディング経験やそれの投資リターン、トラックレコードはどうなっているか
これらの情報をもとに、ファンドの信頼性やリターンの見込みを判断することが重要です。
結論
Web3の投資環境は、従来の株式投資とは大きく異なり、未実現利益の評価も複雑化しています。トークンのロックアップ期間や市場の流動性、取引所の選択、管理体制など、多くの要素が投資リターンに影響を与えます。一方、クリプトファンドはファンド満期が短く、エクイティではほぼ考えられないような高いマルチプル(高IRR)が出ているファンドも存在するのが事実です。
LPとしては、これらの特有のリスクとチャンスを正しく理解し、デューデリジェンスを通じて適切なファンドを選ぶことが求められます。特に、暗号資産に対する深い知識と経験を持つファンドを選ぶことで、未実現利益を最大限に活用し、投資リターンを高めることが可能です。
Web3の世界は急速に進化しており、新たなチャンスとリスクが日々生まれています。そのため、継続的な情報収集と市場の動向を注視することが、成功への鍵となります。未実現利益を正しく評価し、最大のリターンを得るために、LPとして積極的な関与と慎重な判断が求められます。
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