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レッドブルのサッカーとF1チーム運営に学ぶ複数クラブ所有の成功要因〜いかに常勝軍団を生み出すか〜

レッドブルはエナジードリンク市場での圧倒的な成功に加え、スポーツビジネスにおいても世界的な注目を集めています。特に現在のワールドチャンピオンであるマックス・フェルスタッペンを擁し、4回のワールドチャンピオンに輝いたセバスチャン・ベッテルを輩出しているF1のレッドブル・レーシングと、ブンデスリーガ1部のRBライプツィヒ、過去に日本代表の南野選手も在籍したレッドブル・ザルツブルグ(オーストリア1部)アメリカのニューヨーク・レッドブルズ、先月には、Jリーグの大宮アルティージャ、WEリーグの大宮アルディージャVENTUSの株式100パーセントを取得したサッカーのレッドブル・グループが有名です。

競技は異なりますが共通しているのは、どちらも同一競技内で複数チームを所有し(F1はレッドブル・レーシングと、RB・ホンダ・RBPT)、グループ内で一貫した育成システムと人事配置、競技におけるストラテジーを構築しているマルチクラブオーナーシップ制を取ってることが挙げられ、その競技での強さのみならず、そのビジネスモデルの優位性で業界をリードしています。本記事では、これらの戦略について分析していきます。

サッカーにおけるMCO戦略の詳細

一貫した育成システムと戦術哲学

レッドブルは全クラブで統一された戦術哲学と育成システムを採用しています。現オーストリア代表指揮官のラルフ・ラングニック監督が2012年にレッドブル・ザルツブルクとRBライプツィヒのスポーツディレクターに就任し、ハイプレスと素早い攻守転換を基盤にした戦術で、選手間の連動性や縦への速い展開を重視したサッカーをグループ内で取り入れました。
この攻撃的でダイナミックなプレースタイルでアカデミーから鍛え抜かれた若手選手がグループ内で生まれ、これにより、選手は異なるクラブ間でもスムーズに適応し、キャリアを積むことができます。

Gegenpress – How to use it in FM21


監督も同様で、2019-2020シーズンのブンデスリーグでは、ザルツブルクまたはRBライプツィヒで指導経験がある監督だけで5人に登り、これらの育成システムで育った選手が活躍しやすい環境となり、選手が移籍したとしても大きな移籍金を残していく状態となっています。
ドミニク・ソボスライはRBライプツィヒからリヴァプールへ、2023年に約7000万ユーロ(約112億円)で移籍し、南野拓実もレッドブル・ザルツブルクからリヴァプールへ、2020年に約850万ユーロ(約13.6億円)で移籍しています。リヴァプールはレッドブルグループと同じ、ゲーゲンプレスというハイプレスと素早い攻守転換を基盤にした戦術を指向しており、同じスタイルのトップクラブに移籍をしました。

ドミニク・ソボスライ:RBライプツィヒからリヴァプールへ、2023年に約7000万ユーロで移籍
南野拓実:レッドブル・ザルツブルクからリヴァプールへ、2020年に約850万ユーロで移籍

人材の流動性と市場価値の最大化

グループ内での選手移籍は活発であり、選手の市場価値を最大化する戦略が取られています。例えば、レッドブル・ザルツブルクで育成された選手がRBライプツィヒに移籍し、その後欧州のビッグクラブへ高額な移籍金で売却されるケースが多々あります。これは、選手の成長段階に合わせて適切な環境を提供しつつ、投資回収を効率的に行うビジネスモデルとなっています。これは選手に移籍金という概念が発生するサッカーでは最適化された戦略と言えるでしょう。

F1におけるMCO戦略の詳細

F1を知らない人のために補足すると(F1ファンなので補足を書いていたらとんでもなく長くなったので頑張って削りました)F1は10チームあり、それぞれが2台の車を用意し、合計20台でのレースになります。そのうちの2チームがレッドブルグループのチームで、そのうちのトップチームがレッドブル・レーシング、そのジュニアチームがRB・ホンダ・RBPTになります。その4台にはレッドブルが契約しているドライバーが乗っており、エースドライバーのマックス・フェルスタッペン(33号車、及び1号車)は直近3年間のF1ワールドチャンピオン(2021年・2022年・2023年)に輝いており、現在のF1ではトップチームになっています。

技術共有と開発効率の向上

レッドブル・レーシングとRB・ホンダ・RBPTは、技術情報の共有や部品の共通化を行っています。これにより、開発コストを削減し、技術革新のスピードを高めています。F1の厳しい予算制限の中で、2チーム間のシナジー効果を最大限に活用しています。また、本年度までは他のチームでは使用していないホンダ製のPUをどちらも採用しています。

ドライバー育成とキャリアパスの明確化

レッドブルはジュニアドライバープログラムを通じて、若手ドライバーの育成に注力しています。RB・ホンダ・RBPTはその育成の場として機能し、才能あるドライバーはレッドブル・レーシングへと昇格します。この明確なキャリアパスは、優秀な人材を引きつけ、長期的な競技力の維持に寄与しています。現在チャンピオンのフェススタッペンもメルセデスとレッドブルから育成ドライバーとして誘われていましたが、ヨーロッパF3参戦中の2014年8月にレッドブル・ジュニアチームの一員となり、その発表から間もなく、トロ・ロッソ(現RB・ホンダ・RBPT)のレギュラードライバーとして2015年にF1デビューしました。その後、2016年の第5戦からトップチームであるレッドブル・レーシングに昇格しています。

スポンサーシップ枠の拡大


Oracleがタイトルスポンサー


また、2チームを所有することで、スポンサーシップの機会が拡大し、マーケティング効果も倍増します。異なるブランドイメージを持つチームを運営することで、幅広いファン層やスポンサー企業にアプローチでき、これは収益性の向上とブランド価値の最大化につながっています。シニアチームの名称はオラクル・レッドブル・レーシングで、今年のジュニアチームの正式名称は、Visa Cash App RB Formula One Teamとなっており、それぞれスポンサーがついています。

MCO戦略のビジネス的なメリット

経営資源の最適化とスケールメリット

MCO戦略により、経営資源の最適化とスケールメリットが実現されています。人材、技術、情報をグループ内で共有することで、コスト削減と効率的な運営が可能となります。例えば、スカウティングやトレーニングメニューなどの共有により、重複した投資を避けることができます。

リスク分散と収益源の多様化

複数のクラブやチームを所有することで、特定の市場や競技に依存しない経営が可能です。市場変動や競技成績の影響を最小限に抑え、安定した収益基盤を構築しています。

ブランド価値の最大化とマーケティング効果

統一されたブランドイメージにより、グローバルな認知度を高めています。これは、スポンサーシップや商品販売の機会を拡大するだけでなく、ファンとのエンゲージメントを深化させ、長期的なブランドロイヤルティを築くことにつながります。

人材育成と投資回収の効率化

グループ内での育成システムにより、若手人材への投資回収を効率的に行っています。高額な移籍金やスポンサー収入を得ることで、投資効率を高めており、また、内部での人材供給により、外部から高コストで人材を獲得する必要が減少します。

MCO戦略の本質的な成功要因

バリューチェーン全体での最適解が出せている

レッドブルのMCO戦略の核心は、グループ全体で戦略を作りきれていることにあります。これは、単なるクラブやチームの所有を超え、育成からトップレベルの競技、さらにはマーケティングや商品販売まで、一貫した戦略と管理を行うことを意味します。

具体的には、レッドブルは世界各地のクラブやチームを所有することで、選手やドライバーの発掘・育成プロセスを自社内で完結させています。これにより、外部から高額な移籍金を支払って選手を獲得する必要がなくなり、コスト効率が向上します。また、統一された戦術やプレースタイルを各クラブ・チームで採用することで、選手やスタッフの移動がスムーズになり、組織内での柔軟な人材配置が可能となります。

さらに、トップレベルの競技運営とマーケティング活動を密接に連携させることで、競技成果が直接的にブランド価値の向上や商品販売の促進につながります。例えば、F1での優勝やサッカークラブの成功は、世界中でのメディア露出を増やし、エナジードリンクや関連商品の販売拡大に寄与します。

このようなバリューチェーン全体での仕組みづくりは、全体最適の視点からリソースを効果的に配分できるため、組織全体としての価値創出を最大化しています。これは競技面だけでなくビジネス面でも効果を発揮しており、例えば、マーケティング戦略において、選手やチームの活躍を活用したプロモーション活動を展開することで、消費者へのアプローチがより効果的になります。


文化と哲学の一貫性

レッドブルの成功を支えるもう一つの重要な要因は、組織全体で共有される文化と哲学の一貫性です。

文化と哲学の一貫性は、組織内のコミュニケーションを円滑にし、迅速な意思決定が可能です。世界中に散らばったレッドブルグループのサッカーチーム内でも、あるべきサッカーのスタイルに共通の価値観と目標を持つことで、組織全体としての戦いになり、トップチームの成績を押し上げていると考えられます。実際、レッドブルグループのサッカーでのトップチームであるRBライプツィヒは7シーズンで4回の昇格を果たし、2016-17シーズンからのブンデスリーガに昇格し目標を達成しました。この一貫性は外部にも強く印象付けられており、ブランドイメージの形成に大きく寄与しています。挑戦的なブランドとしての認知は、若年層を中心としたファン層の拡大や、スポンサー企業との強固なパートナーシップ構築につながっています。

組織文化は、単なる社内の規範にとどまらず、企業の競争力を左右する重要な資産です。レッドブルのように、文化と哲学を戦略的に活用することで差別化を実現できます。

エコシステムの構築とネットワーク効果

レッドブルは、自社ブランドを核としたエコシステムを構築し、各事業が相互に補完し合うネットワーク効果を生み出しています。スポーツチームの運営、エナジードリンクの販売、イベントの開催、メディアコンテンツの制作など、多角的な事業展開を行い、それぞれが相互にシナジーを生み出しています。

例えば、スポーツチームの成功は、ブランドの認知度と信頼性を高め、エナジードリンクの販売促進に直接的に貢献します。一方、エナジードリンクの売上増加は、さらなるスポーツチームへの投資やイベント開催の資金源となり、エコシステム全体の拡大を促進します。

イベントやメディアコンテンツを通じてファンとの接点を増やし、ブランドエンゲージメントを深化させる戦略も重要です。レッドブルが主催するスポーツイベントや音楽フェスティバルは、ブランド体験を提供し、顧客ロイヤルティを高めています。

このエコシステムは、新規参入者に対する高い参入障壁を築き、競争優位性を維持する要因となっています。多様な事業が密接に結びついているため、単一の事業で競合他社が追随することは困難です。また、ネットワーク効果により、規模が拡大するほど価値が増大する仕組みを持っており、持続的な成長が可能となっています。

結論

レッドブルのMCO戦略は、サッカーとF1という異なる競技においても、一貫した成功を収めており、要因としては、経営資源の最適化、リスク分散、ブランド価値の最大化、人材育成と投資回収の効率化など、多くのメリットを享受しています。

MCOはサッカーでいえば他にもマンチェスターシティグループがありますが、チャンピオンズリーグの出場は同一オーナーでは1クラブまでに限定されていることもあり、他にも競合が続々と生まれてくる未来に期待しています!

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