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中国電力レッドレグリオンズ|クセつよ選手紹介の制作裏話

 リーグワンの中国電力レッドレグリオンズが2024-25シーズンの選手紹介をSNSで公開した。よくあるラグビーに関する内容ではなく、選手たちのキャラクターを面白おかしく表現した独特な文章が、「クセが強すぎる選手紹介」として話題となった。

 この選手紹介の文章は、とある選手2人が作ったという。そこで、10月某日、レッドレグリオンズのクラブハウス内の某所で、作者だと名乗る2人に直撃取材。「パーソナルな部分も含まれるので」という本人たちの希望もあって名前は非公開(仮)のうえで、石○健○選手と有○孔○朗選手がインタビューに応じてくれた。


面白く書いてくれそうな2人

 選手紹介自体は、もともと広報の中村興平さんが以前からやりたかった企画だったという。ただ、普通の選手紹介ではなく、なにか面白いものをと考えたとき、文章を託したのが石○選手と有○選手の2人だった。

石○ 「やっぱり、僕らはチームの中でも観察力があるし、いろんなことを見逃さないんで」

有○ 「いろんなところを見て、選手をいじることも多いし、記憶力がいいのと、違う視点で見てるのと」

石○ 「あと、人のやらかしは絶対にメモして、絶対に忘れないですね。いつでも弱みを握っときたいんで(笑)」

有○ 「そういうところを中村さんが知っているので、たぶん僕らになったんだと思います」

 依頼を受けた2人は、さっそく全員分をまとめようと取り掛かったが、1人目に作った文章がすぐにチームのSNSに投稿され、そのまま選手紹介の企画がスタートした。

石○ 「これ、全部できてからリリースじゃないんですよ。『いつ載せますか』みたいなやり取りをしていたら勝手に1人目が載って、シリーズ化したんで、僕らもう時間がなくて。作りながらリリースされていった感じでしたね」

クセつよ文章の作り方

 いきなり時間に追われながらの作業だったが、2人はそれぞれの個性を活かして進めていった。

有○ 「分業制で作っていました。僕が語彙力担当で、彼(石○)が文章構成担当みたいな感じで」

石○ 「有○くんは言葉をよく知ってるので、文章が広がりましたね。お互いの知識が違うから、出せるもののカテゴリーが違う。だから、お互いに案を出してみて、いい方を取って作っていきました」

 ネットサーフィンの趣味を持つ有○選手のワードセンスと、コミュニケーションの能力が高い石○選手のトークセンスが融合して、クセつよ選手紹介は生まれたようだ。

 2人はインタビュー中も口を開けば冗談混じりの、いや、冗談だらけの掛け合いで、軽快に話を進めていく。紹介文の作業もそんな感じで弾んだに違いない。

石○ 「(アイディアは)僕らがなんの捻りもなく出してましたね。その選手のことを思い浮かべた時に、パッと出てくることが3つぐらいあるので、そこから作りました。有○選手だったら筋トレとか」

有○ 「だから、1つ作るのに1秒、2秒ぐらいだったかな…? 本当に載せちゃダメなことも出てくるんですけど、それは校閲してもらって(笑)」

石○ 「スッと頭に降りてきたことをそのまま文字に起こしてるだけなんで、全然考えてもないです。だから結構内容は薄いと思うんですよ」

 とは言いながらも、最終的に制作したのは選手39人とスタッフ7人の合計46人分にもなった。

石○ 「結局、たぶん2人で40時間ずつ計80時間ほど、この選手紹介には時間を費やしましたね」

有○ 「そう。もう40時間ぐらいじっくり考えて、(アイディアは)スッと出てきたね」

石○ 「じっくり考えたんですけど、もうスッと出てきたんで、1つできるのは1秒、2秒ぐらい」

 じっくり考えたのか、スッと出てきたのか、よくわからないが、彼らの作業はじっくりコトコト煮込んだスープがスッとできるインスタントスープのようなものを想像すればいいのだろう。たぶん。

「僕らアーティストなので」

 2人のアイディアの源は、そんなインスタントスープぐらいに日々の生活にあるものらしい。例えば、石○選手のお気に入りの1つである元キャプテンの松永浩平選手の紹介文。

マリアナ海溝よりも深い愛と慈悲でチームを優しく包み込む。年を重ねるごとに自身の価値を上げていく姿はまるで「ビンテージデニム」、言うなれば「味のなくならないガム」であり、結論「プレーキの効かないマウンテンバイク」なのである。リーバイスからオファーが来るのもそう遠くはないだろう。また、渋い漢選手権は第2位。その渋さは「カカオ143%チョコレート」ほどと言われている。カカオ143%……カカオの実や木を超え、もはや土と言われている。

https://www.instagram.com/p/C8vlfCLyYsd/

石○ 「『カカオ143%チョコレート』は、(クセつよ選手紹介が)めっちゃ好きっていう人から『飛び抜けて良かった』って言ってもらいましたね。これは、カカオ70%のチョコレートっていうのが売っていて、美味しいじゃないですか。でも、90%になると苦くて食べられないじゃないですか。そんなことを思った時に、松永さんはそれを超えちゃう渋さがあるなと思ったんですよ。そういうのがコンビニに行った時にスッと出ちゃう。やっぱりもう、僕らアーティストなんで。私生活でスッと出ちゃうんですよね」

有○ 「そういう引き出しでいうと、宮嵜隼人のヤクルトジェントルマンっていうのも、職場にヤクルトレディが毎朝来るんですけど、その時にスッと降りてきました」

 キックを得意とする宮嵜選手の紹介文はこうだ。

正確なキックは世界を周り今日も元気を届けている。ヤクルトジェントルマンといったところか。その正確無比なキックはミリ単位ではなく、さらに小さいピコ単位での修正が可能。ラグビー部では珍しいセンター分けの使い手。体調が悪い時は七三分けになり、さらに悪い時は九四分けのときもあるから愛くるしい。

https://www.instagram.com/p/C8Nt7zUSkYV/

石○ 「ヤクルトレディが、これだけ毎日笑顔を運んでくれてるんだ。じゃあ、キックで笑顔を世界に届けている彼はヤクルトジェントルマンなんだって。 そんな感じで僕らの私生活からもヒントを得ているところがありましたね」

有○ 「僕の好きなのでいくと、やっぱりX(旧Twitter)でお褒めいただいたのは、山口莉輝の『屈強な脚を踏み込むたびに、文明開化の音がする』っていうやつ。彼は長崎出身なんで」

 センター(CTB)もフランカー(FL)もこなせる万能な山口選手は次のように紹介されている。

長崎から来た舶来品。屈強な脚を踏み込むたびに、文明開化の音がする。そしてこの世界は彼の太ももにかかっているといっても過言である。彼の太ももは太すぎるあまり「大規模な股ずれ」が懸念される。「股ずれ」は「日常のズレ」につながり、最悪の場合「時空のズレ」を引き起こす。この世界とパラレルワールドを繋いでしまうようなことにならなければよいのだが、、、そんな彼はやさしさ人間コンテスト第3位の実力は、その全てを包み込む優しさが「CTB・FL界の小籠包」と呼ばれているほどである。

https://www.instagram.com/p/C8gSg8vSK8P/

石○ 「やっぱり『文明開化の音がする』なんて僕には思いつかないんですよ。かっこいい言葉だし、もうオシャレじゃないですか。そういう視点がいいですよね」

全てが事実

 彼らの“作品”は本当のような、嘘のような内容だ。それでも、2人は真剣なような、ふざけているような表情で「事実しか書いてない」と強調する。

石○ 「なんか僕らが創っているみたいに思われてますけど、全部事実です。やっぱり事実じゃないことを書いて世に出すのはダメだと思ってて。絶対に言いたいのは、0から1は作っていませんっていうこと。まあでも、1から100、いや、2万ぐらいまでは盛ってるかな。だから、藤井(健太郎)がダウンジャケットがタンクトップになるまで着ているっていうのは、間違いなく事実で、もう最近はそれがブラトップみたいになっちゃったんで……(笑)」

有○ 「今回作るにあたってのポリシーは0を1にはしないこと。0を1にはしていないけど、でも1を2万にはしてる(笑)」

石○ 「いや、2億ぐらいの可能性も全然ある(笑)。でも、内容は全部事実に基づいて、それを大きくしてるので、絶対に選手のパーソナルな部分には触れています」

生みの苦しみ

 そう自信を持って語り続ける2人。でも、そんなアーティストコンビでも作品を生み出すうえで、知られざる苦悩があった、らしい。

石○ 「全員スッと(アイディアが)降りたわけじゃなくて、 なかなか降りなかった人もいるんですよ。誰とは言わないけど、青木(智成)とかは降りなかった。降りなかった関係もあってこんな感じになったんですけど」

 青木選手の紹介文は、たしかに単体だと普通の選手紹介だが、このクセつよ選手紹介の中だと真面目かつシンプルすぎて逆に目立つ。

189cm、107kgの恵まれた体格を活かし、ラインアウトやモールで輝く頼れるチームの中心的存在。新たなリーダーとしても期待されている

https://www.instagram.com/p/C80sjrmyxzn/

有○ 「これは1を1にしたね。あ、でも身長はちょっと盛ってるかな?」

石○ 「あと、これはちゃんと言っときたいんですけど、欲しがってる人ほどあげないです。鷲谷(太希)とか青木とかそうだけど、『俺のやつ面白いやろな』みたいな欲しがった顔で来られると、僕らとしては(面白いものを)あげない。でも、いらないって言われると、あげちゃうんですよね」

有○ 「だから荒井(基植)さんは全然欲しがらないんですけど、あげちゃう。前田(恵輔)さんも絶対に欲しがらないですけど、あげたくなる」

石○ 「絶対いらないでしょ。なんならマイナスでしかないんですよ。でも、僕らは『あげたい』ってなる(笑)」

選手たちの反応

 これだけ好き勝手に書いて、チームメイトはどう見ていたのだろうか。

石○ 「不安要素としては、一応これ選手たちに何の許可もなく出してるんで、僕らが反感を買うかもしれない」

有○ 「ほんと訴訟とかはやめてほしい……」

石○ 「名誉毀損とか言われるのだけは本当にね……」

 でも、実際の反応は……

有○ 「みんなまんざらでもない感じでしたね。SNSで自分のやつの反応をちゃんと見てたんで(笑)」

石○ 「だから青木はすごく自分のやつに期待してたんですけど、こんな感じだったので、ちょっと落ち込んでましたね。たしか、次の日は仕事を休んでいたとか(笑)」

有○ 「結局、みんなも楽しみにしていたと思う」

石○ 「少なくとも僕らはそう勝手に思っています」

うれしい反響

 レッドレグリオンズのSNSで選手紹介の企画が始まると、毎回楽しみにしていたり、引用リポストで必ず反応したりと、そのクセの強さにハマってしまう人たちも出ていた。

有○ 「絶対に毎回エゴサーチはしていました(笑)。いいねしてくれた人とかリポストしてくれた人は、(広報の)中村さんもしっかり見てました。それぐらいうれしいことでしたね」

石○ 「引用とかリプライでいろんな反応をもらえて励みになりましたね。なんか『これこうじゃないんかい』みたいなリプライがあって、それが実際に僕らが伝えたいことだったりして。僕らはツッコんでほしい文を出していて、それに対してツッコミが来ていて、ちゃんとわかってもらってるんだなと思いました。そういう反響があったのは、とてもやりがいにつながりました」

有○ 「だから今後のアイディアを、またみなさんからもらえたらうれしいですね。見てくれる人がこういうのが欲しいっていうアイディアをくれたら、僕らはそれに応じたものを出しますんで」

石○ 「はい、こういうのが欲しいとか言ってくれたら。まあ、でも欲しがられたら、僕らは絶対にやらないんですけど(笑)」

 反響のおかげもあって一連の選手紹介は選手名鑑として冊子になり、10月20日のプレシーズンマッチで初めて配布された。さらに、10月26日に行われたラグビー日本代表戦のときには、リーグワンのブースで100部を無料配布したが、すぐに品切れになったという。

石○ 「この前のジャパン対オールブラックスの試合は、僕の兄弟が行った時にはもう100部がなくなっていたらしくて。午前中にはなくなって、しかもその後も『ないですか』っていう人の声があったらしいです」

有○ 「本当に即完だったらしくて。6万人ぐらい来る試合に、流石に100部は少ない(笑)」

チームのことを知ってほしいから

 レッドレグリオンズはリーグワンのディビジョン3で戦うチーム。ディビジョン上位の強豪チームのような人気や知名度があるわけではない。また、地元の広島では野球やサッカーが盛り上がっているが、ラグビーのチームはまだまだ認知度が低い。だからこそ、今回の選手紹介のように、まずはチームのことを知ってもらうきっかけを作ることが大事なのだ。

有○ 「他のチームと違って、名前をなかなか知られていない選手もいる中で、こうやって目にしてもらえる機会が増えたのはすごく達成感があります。試合会場とかでも、『かがみもちセンパイ』(北島聖也選手につけた称号)って言われているんですけど、誰のことか知ってますかって聞いたら、知らないって。本名は知らないけど、『かがみもちセンパイ』は知っている。そうやってまず興味を持ってもらえることがうれしいですね」

石○ 「やっぱりラグビーのことを言っても、ラグビー好きな人にしか刺さらないんですよね。だから、ラグビー好きじゃない人とかラグビーに興味ない人にも刺さるものをイメージしました。例えば、溝渕(篤司)のロマンティックトッカーとか。ロマンティックトッカーって造語なんですけど、これZ世代には受けるはずなんですけどね(笑)」

有○ 「いわゆる選手紹介だけだと、つまんないなと思ったので」

石○ 「そう、ただの自己紹介で興味を持ってくれる人が増えるかって言ったら、たぶん難しいんで。そういう意味では、ちょっと奇をてらったことをやって……って真面目な話しちゃってるけど(笑)」

アーティストが見据える未来

 今シーズンの選手紹介の制作は終わったが、2人は満足していない。むしろ、制作意欲が湧いている。この瞬間も鋭い目でチームメイトを観察しているはずだ。

有○ 「投稿した後にやっぱりあれはこう書いときゃよかったみたいなのがいっぱいあるので、来年にご期待ください」

石○ 「まだ出し切れてないのが、リリース後に出てきたりとか、いっぱいありますね」

 特に9月にチームに合流した新加入のコナー・アンダーソン選手とセバスチャン・シアラウ選手の2人については不完全燃焼のようだ。

有○ 「2人は入ったばかりなので、ちゃんとした真面目な紹介をしてあげようと思って。来年はひねったものを作るので、ご期待ください。そうやって言っとけば、来年もあると思うので(笑)」

石○ 「だから、選手たちはもう常に見られていることを意識してほしい。常に監視されてると思ってもらっていいですね」

 今後は選手紹介や名鑑だけにとどまらない……のかもしれない。2人の構想という名の妄想は膨らむばかりだ。

石○ 「最終的な形はトレーディングカードになるっていう話で、それは無理かもしれないけど(笑)。でも、そういうこともできるようなレベルにこれからなって、ゆくゆくはトレーディングカードから最後はもうスマホとかのアプリになったりしてね」

有○ 「次はカルタとかしたいよね」

石○ 「カルタいいね。だから、今後もグッズを作るってなったら、やっぱり僕らが創意工夫を凝らした作品を作っていきたいですね」

有○ 「いまも糸井重里さんのキャッチコピーとか色々見て勉強しているんで。乞うご期待です」


 以上が、石○選手と有○選手が非公開(仮)で語ってくれたクセつよ選手紹介の制作裏話だ。とりあえず、ここの彼らのコメントも「1を2億にしている」と思っていただいたらいいだろう。

 レッドレグリオンズのクセつよ選手名鑑は、今後も試合会場などで配布される予定とのこと。ぜひ試合に来て名鑑を手に取って、クセつよ文章と選手たちのキャラクターを楽しんでほしい。

有藤選手(左)と石渡選手(右)、ありがとうございました!

取材・文・写真=湊昂大

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湊昂大|Kota Minato
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