【大宗旅館】都心でタイムスリップ体験!昭和5年築、戦前の老舗旅館に泊まる。
高層マンションが立ち並ぶ都内の一角にひっそりと佇む武家屋敷のような建物がある。一見やっていないように思えるが、玄関の灯りがちゃんとついている。
今夜の宿はここ、東京は築地にある大宗旅館。大宗は"おおむね"ではなく"だいそう"と読むらしい。
たまたま都心で仕事の打ち合わせが入ったため、前々から気になっていたこの大宗旅館に意を決して予約を取ることにしたのだ。最近は専らネット予約だったために久しぶりの電話予約はなかなか緊張する。なんとか無事に予約をすることが出来た。(失礼だがこの時は本当に予約出来るんだ...と思った)
入口の扉を2回ほど叩き「ごめんください〜」と奥の方へ声をやると遠くから「(本名)さんですか?」と声が返ってきた。
中から歩いてきたのはこの旅館を経営している人の良さそうなお母さん。「あら!こんなに若い方だとは思わなかったわ」「おいくつ?」と。僕は「21で、今は大学生です。」と答えると「まぁ、私の孫のような年齢だわ」とお母さん。もう少しで80歳を迎えるそうだ。
部屋まで案内をして貰う。この時点でワクワクが止まらない。古い木の匂い、歩く度にきしむ床の音、細かい硝子細工が施された窓。さっきまで大都会のビル群の中を歩いていたのに、僕はいつの間にタイムスリップしてしまったのかと疑うほどここには昭和の空気が漂っている。一歩足を踏み外したら転げ落ちそうな急な階段を登り、部屋へとたどり着いた。
部屋に入った瞬間、あまりの良さにただただ立ち尽くしてしまった。
「こんな古い部屋だけど良いの?」とお母さん。むしろ古ければ古いほど良いんですよお母さん...と心の中で思いつつ「素敵なお部屋です!」と言うとお母さんも安心した様子。
旅館内には全部で6部屋あるそうだが今は2部屋しか使っていないらしい。今日は僕1人だけしかいないので、他の部屋も見学させて貰った。(ラッキー!)
6部屋とも配置や家具が全く違う。ただ言えることはどの部屋も僕が求めていた"全て"が詰まっていることくらいだ。
「週に2、3人くらい泊まれば良い方なのよね...」とお母さん。なんなら僕が毎週泊まりに来ましょうかと言いそうになった。(さすがに都心へ出るのは時間がかかってしまうので厳しい)
「お風呂沸かしてくるわね。探検していていいわよ。」
遠慮なく旅館内を探検することにした。2階が宿泊部屋で1階が風呂場と居住空間になっているらしい。旅館と言っても、もともとは民家として建てられた建物らしく、旅館に泊まるというより下宿するような感覚だ。昭和初期を生きる帝大生になった気分である。
大宗旅館はなんと築90年以上、昭和5年(1930年)に建てられた建物だそうだ。戦前の建物が今もこうして近代的なビル群に挟まれつつも健気に姿変わらず佇んでいるのが微笑ましい。
館内のあちこちを見てまわる。写真も撮っていいとのことで遠慮なく。なんとなく僕のおばあちゃん家に似ている。もっともここまでは古くないが、急な階段やら部屋のつくりがそっくりだ。昭和を生きたことはないが、こういうところへ来ると何故か無性に懐かしく感じる。まるで自分がその時代を生きていたように懐かしく感じるのだ。この旅館も僕みたいな昭和レトロマニアだったり、昔の生活を懐かしむような人が最近は泊まりにくるらしい。ひとむかし前まではサラリーマンの利用も多かったそうだ。
探検をしていると「お風呂沸きましたよ〜」と声が。ではさっそく湯に浸かって今日の疲れを癒そう。お風呂場は「となりのトトロ」に出てきそうな良い昭和感。サツキとメイとお父さんの笑い声が聞こえてきそうだ。思わず天井の隙間にマックロクロスケがいないか確認してしまう。
「ここの天井良いでしょう〜?」
天井は複雑な木造建築になっていた。せっかくお母さんに天井の魅力を教えて貰ったのに、見惚れて写真を撮り忘れてしまった。壁のタイルもとても綺麗に貼られているが、震災のときに一度はがれてしまったらしい。そしてなんと言ってもこのお風呂。今は使っていないが、僕のおばあちゃん家もこのお風呂だったので懐かしい。肩まですっぽり入る深めのお風呂だ。あまりの居心地の良さに長く浸かってしまい、危うくのぼせるところだった。
お風呂を上がって浴衣に着替え、部屋へと戻る。お母さんが布団を敷きに来てくれた。布団を敷くのを手伝いつつ、色々なお話をお母さんから聞く。かなりお話好きなようで1時間以上立ち話をしていた気がする。旅館の昔の話や、お母さんのプライベートの話など昭和の話を沢山聞くことが出来た。
特に一番興味深かったのは「トイレ」の話。大宗旅館の和式トイレの使い方が分からなかった子どもがいたという話から膨らみ、お母さんの学生時代の話へ。和式トイレに変わって洋式トイレが導入される際に、学校で洋式トイレの使い方講習会があった話をしてくれた。時代が変わった瞬間だ。トイレの話ではあるが聞き流すことは出来なかった。
夜は寒いからねと言って、おこたとストーブも出してくれた。そうそうこういうのが最高なのよ。エアコンも良いけれど雪国育ちの僕はおこたが一番落ち着くのだ。煎茶も出してくれた。ホッとひと息。このストーブは初めてお目にかかる。マッチを擦って火を灯し、消す時はなんとうちわで仰ぐのだ。なんというアナログ感。今どき店の名前が入ったオリジナルのマッチは見なくなってしまった。このマッチ箱もかなり貴重である。
床の間の方へと目をやると、また気になるものがいくつか。掛け軸や壺は素敵な柄であるが、床の間あるあると言って良いだろう。その横に将棋盤と碁盤が置いてある。娯楽も昭和、この徹底ぶりに脱帽する。ひとりでは将棋を指すことは出来ないが次は誰かを誘ってこの部屋で一局お手合わせしたいものだ。床の間の隣の棚には日本人形が置いてある。夜に動き出さないか不安である。部屋のあちこちを見て色々と質問していると、お母さんも相当物好きな若者が来たと終始苦笑いの様子だった。
「それではおやすみなさい」とお母さん。僕もおやすみなさいと言って部屋を満喫した後に寝ることにした。
僕はスーツこそ似合わないが、和服は割りかし似合っている気がする。鏡に写った自分を見て座敷童子かと思ってしまった。
普段はベッドの上で寝ているので、畳に敷いた布団に寝るのは久しぶりだ。昔の布団といえばこの花柄の布団。そして畳の上に大の字で寝てみる。日頃の疲れが身体の全身から畳へと吸い込まれていくような気がした。
電気を消して就寝。風で窓硝子がカタカタと揺れる音が聞こえるが、これを煩い物音ととるか昭和体験BGMととるかは人それぞれだ。天井のしみを眺めているうちにそのまま眠ってしまった。
朝になると寒さと外のわずかな明るさで自然に起きてしまった。時刻は7時半。8時に旅館を去る予定だったのでちょうど良い時間だ。旅館で朝を迎える度にこれが正しい朝なのか...と思わされる。
身支度を整え、忘れ物がないか確認し、部屋の灯りを消して階段を降りた。
「おはようございます!」
しーん・・・・・
あれ、お母さんはまだ寝ているのだろうか。耳を澄ますとラジオの音が聞こえてくる。もう一度、「おはようございま〜す!」と言うと、奥からお母さんが出てきた。早く起こしてしまったようで申し訳ない。
「よく眠れたかしら?」「領収書作っておきましたからね。1泊6000円ね。」
「6000円!???」値段の安さにビックリした。都内でこんな簡単にタイムスリップ体験が出来て1泊6000円とはこれ如何に。アミューズメントパークよりよほど良いのではないか?と思うほどだ。
お母さんにお礼を良い、「また来ます!」とひと言。「それまでやっていられるといいわねぇ」とお母さん。
最後に朝の旅館を写真に収め、僕は清々しい気分で大学へと向かった。今日は2限から授業が入っているのだ。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
今回はひとりで宿泊しましたが、家族や友達と来ても新鮮な体験が出来て楽しいと思います!
お母さんもいつまで続けられるか分からないとのことで、気になった方はお早めに!
大宗旅館 (だいそうりょかん)
〒104-0045
東京都中央区築地7丁目10-5 大宗旅館
📞 03-3541-7152