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第六章 ブリスベンの空は大切な事を教えてくれる。

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  マッサージの仕事にも慣れてきて、再びのブリスベン生活を楽しんでいたオーストラリア2年目のある日、僕はある決断をした。

  残りのワーホリ生活をブリスベンで過ごすということだ。

  元々ワーホリ2年目に入ったら西オーストラリアの都市、パースへ移動する予定だった。オーストラリアへ来る前、学校を調べていた時に知ったパースという都市。西オーストラリアでは一番大きな都市で、シドニー、メルボルン、ブリスベンに次ぐオーストラリアでは第四の都市。

  都会暮らしは嫌だったから、シドニーとメルボルンは最初から候補に無かった。観光地のイメージが強かったケアンズとゴールドコーストにも、あまり魅力を感じず、候補としてはブリスベンかパースの2つ。

  迷ったあげく、語学学校の選択肢の多さからブリスベンを選んだ。だからこそ、2年目はパースにいこうと決めていた。

  ブリスベンにはないすぐ目の前に広がる青い海、水平線、ビーチがとても魅力的で、のんびりした生活をありありと想像する事もできた。
  ブリスベンにも海はあるけれど、シティからは遠いし、車がないとアクセスが悪い場所もある。

ブリスベン Shorncliffe

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  生まれ育った地元に海は無かったから、オーストラリアといえど、海の近くに住みたいとは思っていなかった。山の方が、好きだし。だからブリスベンを選んだというのもあるけれど、せっかくの2年目、ブリスベン以外の都市に住んでみたいと思っていたのもまた事実。今までの人生には無かった「海沿いの街」って響も良い。

  2019年の3月からラウンドをして、パースへたどり着いたら住み着く。そんな計画をしていたので、年始からパースの情報を集め始めた。

  お世話になっているエージェントに住みやすいエリアを聞いてみたり、仕事の状況を聞いてみたり、「パース ワーキングホリデー」とGoogleで検索して出てきたページを片っ端から見てみたり。

  気持ちはどんどんパースへ持っていかれる。早く行きたい。この海が目の前の街で、のんびりとワーホリの残りの半年を過ごしてみたい。その気持ちが日に日に増していった。

  しかしそれと同時に、ブリスベンを離れる寂しさも日に日に募っていった。ファームを除いた1年近くもの時間を過ごした街。初めての海外生活をスタートした街。語学学校の楽しい思い出があって、仲間がいる、勝手知った街。ブリスベンの匂いはいつだってオーストラリアに到着したあの日を思い出させる。そんな街。その全てが、僕を足踏みさせる。

  長く住めば住むほどに愛着は湧いてくるし、生活も安定してくる。この快適さを壊してまで、新しい土地に行く必要はあるのか?僕の残りのオーストラリア生活は、このままブリスベンに骨を埋めるような覚悟で過ごしてみても、それはそれで面白いんじゃないか?

  パースへ行ったら、仕事探しも、家探しも、友達探しだってゼロからのスタートだ。勝手知ったブリスベンと違って、頼れるツテも無い。残り半年のワーホリ生活をゼロから始めるよりも、ブリスベンに残って、自分の納得いくワーホリ生活の終わりを迎えても良いのでは無いか。

  そう思うようになった。

  そしてそう思ってからは、葛藤が続いた。
  その頃のTwitterを見ると、毎日の悩みが呟かれている。

  この時期は自分でも不甲斐なくなるほどに、毎日気持ちが変わっていた。本当にやりたい事はなんだろう。ワーホリで何をしたいんだろう。ワーホリで何を残したいのだろう。ワーホリの後はどう生きたいのだろう。
  毎日どころか、数時間単位でどんどんと変わっていく頭と心。自分の本音が分からなくなって、正解なんか分からないはずなのに、正解を求めようとする。

  ブリスベンに残ろうと、パースへ行こうと、どちらも面白くする自信はあった。だけど、どっちを選んでも後悔するような気がした。

  どちらを選んでも後悔するのならば、いっそのことここでワーホリを終わらせてみるか?なんて新しい選択肢を考えてみるも、「いやいや、そんな事したら帰りの飛行機の時点で後悔の念に襲われる!」と冷静に言い聞かせてみたりもした。

  ワーホリは自由だ。何をしても良い。ひとつの都市で2年を過ごそうと、移動を繰り返して楽しもうと、1年を過ごさずして日本へ帰るのもだってありだし、全ては自分で決められるのだ。

  全ては自分の自由。だからこそ、迷う。葛藤する。

  選択した後に後悔してしまった場合、それを背負うのは自分しかいない。人生の責任転嫁など出来ない。あの時別の道を選んでいれば…そう思っても、その時には戻れない。時間はただ、進んでいく。

  だから怖い。

  進んだ時間を巻き戻す事は出来ないから、足が止まる。足が止まっている間にも、時間はただ進んでいくのに。進んでいく時間の中で、「立ち止まる時も必要なのだ。」と自分に言い聞かせてみても、気持ちは焦る。言い聞かせれば聞かせるほどに、焦る。

  未来は誰にも分からない。選択をする事よりも、選択した道を成功と呼べる道にする為に毎日を生きていく事の方が大切なのだから…と、そう頭で考えてみても、心は付いてこない。

  ベッドで悶々とする日々が続いた。

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