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吹奏楽部と陰謀論①

3月23日。大統領選後の不正選挙騒動において、トランプ陣営のリーダー格だった、シドニー・パウエルは以下のように証言したというニュースが届いた。

不正選挙騒動は、「2020年の大統領選の際、バイデン陣営が大規模な不正を行なって選挙に勝利した」とトランプ陣営の一部が主張することに起因する騒動である。

しかしながら、確たる証拠は存在せず、裁判所でもトランプ側の主張は認められなかった。加えて、「投票機が偽装された」と幾度となく拡散してまわった、シドニー・パウエル氏は、投票機を制作していたドミニオン社から名誉毀損で数百億円規模の損害賠償を請求された。

パウエル曰く、信じる方がバカだったそうだ。作家の百田尚樹氏や、ジャーナリストの有本香氏などは彼女こそが選挙結果をひっくりかえし、トランプ元大統領を再選させることができると拡散した。トランプ大統領の再選を信じた人たち(勝ち組)は、さすが選挙結果は覆されないだろうと言った人々(負け組)に対してSNS上で執拗にコメントを飛ばしたり、負け組の人が出演しているYouTubeのコメント欄にも度々現れた。その中には、明らかに度がすぎる誹謗中傷も存在したし、テロ行為を煽るようなものもあった。

科学を認めたがらない吹奏楽の世界

この、不正選挙騒動を見ていて、わたしが抱いた印象の一つが、「吹奏楽の世界と似ている」だったものだ。もちろん、明らかな誹謗中傷を繰り返したり、有名人がデマを拡散していたわけではない。しかし、内部の体質としては非常に似ているものがあった。

まず、吹奏楽部では、科学的事実よりも先輩・先生の発言の方が重要視される。これはスポーツの世界でも度々問題になっていることだ。うさぎとびが全く科学的根拠のない練習という話は聞いたことがあるだろうか。同じように、

「息を吸うときに肩を動かしてはいけない。」
「腹筋をすれば楽器が上手くなる。」
「ロングトーンさえすれば音色が綺麗になる。」

などと言った練習法やテクニックが伝統的に言われている。ロングトーンとは、一つの音を8秒程度伸ばす練習である。

しかし、前の二つは科学的に間違っているし、最後の一つは、部分的には正しいが言い過ぎである。一つ目は少し詳しく説明しよう。

呼吸をするときは、肺の周りに存在する筋肉のおかげで肺の体積が膨張する。ゆえに肺の内部の空気の密度が薄くなることで、体外の空気がとりいれられる。空気は密度の濃いところから薄いところへいどうしたがるからだ。空気を吸い込む過程において、最も効率的にこれを行うには、肺の周り全体の筋肉に仕事を分散させることである。たとえば、風船を膨らませるときに壁で四方を囲まれている状態だと、風船は上下にしか膨らめない。同じように肺も、肺の周りが固定されていることは呼吸にとって都合が良いことではないのである。ゆえに肩を動かしてはいけないという指導では、効率的な呼吸をむずかしくしてしまう。

このような科学に基づいた議論は吹奏楽部ではほとんどなされない。それよりも先輩が行ってきた練習だったり、先生(指導のコーチも含む)のアドバイスだったりが非常に権威を持ってしまっている。

指導とは「正義の執行」

吹奏楽部は、他の部活と同じように指導が行われる。その指導は往々にして、本人のためではなく正義のため、みんなのために行われる。しかし、正義のための指導は度々苛烈でハラスメントのようなものになってしまいがちである。実際に、不正選挙騒動のときも、「トランプは正義の執行者だ」ということを本気で信じて誹謗中傷を繰り返した人がいた。

例えば、同じ練習を数時間と繰り返したり、全体の前で1人が泣くまで叱責する。そして、それらが習慣になると、次の後輩に自分たちが行うようになってしまう。そうやって作られた正義のための指導がハラスメントに値するなんて自覚はないし、やられた側もありがたがってしまっている。

実際、子どもの中には一定数、「機能性運動障害」というものを抱えている人がいる。箸の持ったり、鶴を折ると言った手先の器用な作業がなかなか上達しないのである。もちろんそれは体質であるため、訓練を繰り返したからと言って良くなるものではないこともある。例えば、アルコールが苦手な人が、毎日お酒を飲んだところで強くならないようなものだ。そのような子どもに対して、楽器の練習を長時間やらせることは、はたして適切な指導とはいえるのだろうか。

科学に基づいた、戦略のある指導を行いはじめている学校がある一方で、このような前近代的な学校が未だに多く存在している。指導をする側は気持ち良いのかもしれないが、される側は一生その傷を負うことになる。

かなり長くなってしまったため、続きは次回に回そう。読んでくださってありがとうございます。

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