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Photo by
nikumori
SS 79 「手のひらの温度」
とても心地良いブックカバーが売り出された。電子書籍が広がる中で、まだまだ紙の本を好む人は多い。そんな人たちに向けて。
とてもしなやかで本の厚みや表紙の硬さに上手い具合に馴染む。手触りも柔らか。そして、外気温に反して微妙に温度が変わる。
暑い日や暖房が効き過ぎた冬の電車内。少しひんやりとした温度になる。柔らかい触感と重なって、気持ち良い。ちょっとの時間があれば手に取りたくなるので、読書が進む。忙しい暮らしの中でついつい義務感に頼りがちになる読書を真の楽しさにしてくれる。
そして、寒い冬。控えめの暖房で少し寒さが残る居間。椅子に座って、本を手に取るとじわっとくる柔らかい暖かさ。手に取るのが嬉しい。今日も読みかけの歴史書を開く。そして、気がつくと居眠りしている。本を手に取るところまではいいのだが、暖かさは眠気を呼ぶ。本のページが全く進まないのが困る。
そこで窓を開けて、寒気を入れる。家の中でもダウンジャケットを着る。目が冴えながらも手のひらが暖かい。これなら読書が進む。
帰宅した家族に激怒された。