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書評 227 「銀の匙」

明治から昭和に生きた文筆家、中勘助の最初の作品。新聞連載の後に刊行。著者が学生時代に授業を受けた漱石に評価、指導を受けたとのこと。

明治の東京で旧士族の家に生まれた著者の少年期を綴った私小説的な物語。日記の様に日々の暮らしの中で起こる出来事、周りの人々との対話、そして主人公がそれらをどう受け止めて、感じていたのかがつらつらと書かれていく。

起承転結の様な物語は無い。非日常的な特殊な背景なども無い。しかし、ページを捲る手が止まらずに読み進めてしまう。それは、本書がきれいな日本語で書かれているからだろう。

洗練された美しい日本語ではない。清潔であって、可愛らしい。子供っぽいのでは無いし、素朴とも違う。丁寧に折り畳まれた木綿のシャツの様な日本語。明治大正の言い回しではあるけれど、現代の日本人が読んでも堅苦しさは感じない柔らかな文体。

文庫本らしくない、装丁と言えそうな綺麗なカバーが中身を表している一冊。


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