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SS 42 「訪ねて来た兄が驚いて言う」
一人暮らしを始めて5年目。休みの日も何かとやることがあり、部屋にいることが多くなっていた。買い物も通販。食品もネットスーパーで買えるし。
webで遠い地の風景を画像や動画で見る楽しみを見つけて、PCの前に座る時間が長くなる。平坦な画面の画像はTVと一緒でそれなりに立体的に見えるが、たくさん見るうちに僕の脳が適合したのか、目の前にある実像として見える様になった。これは、まさに部屋で楽しめる旅。毎日かなりの時間をこれに使う様になった。
更に、2020年春からは仕事も自宅でする様になり、副業で始めたwebサイトデザインで独立してしまった今は、外に出る必要が無くなった。
そんな生活を満喫しているある日、東京の実家にいる兄が訪ねてくることに。通話アプリでいつも話しているのだが、たまにはリアルに会いたいと。僕ら兄弟は仲が良い。兄と話すのはとても楽しい。自分が出て行くのは億劫でも、兄の方から来てくれるのは歓迎だ。
ピンポンとベルが鳴り、ロックを解除する。
ココッと音がして部屋のドアが開き、兄の姿が見えた。
「いらっしゃい。久しぶりだね、兄ちゃん」
僕の言葉の先で、兄が驚愕の表情を浮かべている。
「お前、ど、どうしたんだ。ぺったんこじゃないか」
僕の体は画面に入り込むうち、いつの間にか2次元化してしまっていたらしい。自分で鏡を見る分にはちゃんと3次元に見えるので、気がつかなかったなあ。でも、困らないし、まあいいか。