見出し画像

SS 60 「郵便ポストを通して」

住所が無い人。正確には住民登録地と異なる場所を転々として暮らす人が増えてきた。そして、今どこにいるかわからない人に手紙を送る。それができるようになった。

全国民が所持を義務付けられている個人識別カード。これにGPSチップが内蔵されたからだ。相手の住所を書かずとも、識別ナンバーと氏名から自動で作られる二次元コードを手紙に貼り付けるだけで、郵便搬送システムが自動追尾してくれる。相手が海外にいるとわかったら、そこまで追いかけるかどうかの確認通知が来る。事後精算の送料が大きく上がるから。そこで送付中止と回答すると初期料金のみ引き落とされて、手紙自体は返ってくる。なかなか良くできている。

このGPSチップは悪用されないように公共事業のみで使用が許されており、本人希望でGPSをオフにすることもできる。その場合は転居の度に総務省所定のサイトで居所登録が必要になるが。それでも、個人の行動履歴が自動収集されるとの批判が起こってきた。かなり大きな反対活動が出て、左派政党が先陣を切って街頭デモをしているのがニュースサイトに映っていた。

そして、この追跡郵便サービスは半年で中止になった。しかし、その理由は反対運動では無い。

「メールの方が簡単じゃね?」

いいなと思ったら応援しよう!