4.約束
「いや~、まさか倒れちゃうとはね~」そういって頬をかくかぐら。
彼女が倒れた後、彼女を抱え病院へと向かおうとしていたたたらは、騒ぎを聞きつけやってきていた蓮斗と彼と共にいた愼也という人物によってギルドへと運び込まれた。そして、主治医の芽衣子という女性の治療を受けて医務室のベッドへと放り込まれ、現在に至る。
「言ったでしょ?絶対大丈夫だって」そう言ってにこっと笑うかぐら。だが、たたらの表情は暗いままだった。
「どうして、そんなに笑っていられるの……僕は、君を、」おいていったのに。そう呟くたたら。その方は小刻みに震えていた。それをみたかぐらは、うつむく彼にこう言う。
「たたらが優しい人だって、私は知ってるよ……出会った時から、ずっと」
「だから、そんな悲しいことを言わないで」そう続けるかぐら。そして、押し黙る彼に「ねぇ、たたら」と優しく語り掛ける。
「まわりから何か言われるかも。嫌なことだってされるかもしれない。たたらは優しいから、いつも自分からいなくなっちゃう」
彼女は気づいていた。たたらが村からいなくなったのは自分を傷つけないためだということに。だって、彼は昔からどうしようもないほどのお人好しなのだ。それも、”見ず知らずの少女に手を差し伸べてくれた”くらいには。困っている人がいればなりふり構わず助けてくれる、すこし臆病で頼りないところもあるけど、とても優しい人。それがかぐらから見たたたらであり、そんな彼は彼女にとってのヒーローだった。だからこそ彼女は「でもね」と言葉を続ける。
「それでも、私はたたらと一緒にいたいよ」
「それだけで、私は幸せだから」笑顔でそう言うかぐら。その言葉を聞いたたたらの目から涙が零れた。彼の頭をよぎるのは、昔の記憶。大切だったはずなのに何故か忘れてしまっていた、とても大切な記憶。辛いことだけではない、共に笑いあっている二人がそこにはいた。当時のたたらにとって、何かを分け合える相手はかぐらだけで、かぐらにとってのそれもたたらだけだった。だから、呪いを分け合ったあの日、二人は約束をした。
『この呪いを解いて、必ず君を救ってみせる。だから……それまで、一緒にいよう』
呪いのせいで一度は分かたれてしまった二人。だが、何の因果かその呪いが二人を巡りあわせた。時巡りによる巡り合いが信じられているアルカトレーゼ。この世界において、それはどうやら呪いも例外ではないらしい。それなら、離れても意味はない。「ただそばにいたい」はじめから、それだけでよかったのだ。
「こんなに、簡単なことだったんだね」はにかみながらそう呟くたたら。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。そして、顔を上げ、彼女の目を見てこう言った。
「ありがとう、かぐら」
「君と出会えて良かった」
*
多くの種族が共存する世界、アルカトレーゼ。
そこにはとある言い伝えがある。
終わりは始まりへ。破壊は再生へ。
幾度となく繰り返される、時の巡り。
そこに例外はなく、すべてのものはいつか別れ、新たな出会いへとつながっていく。
これは、そんな世界で巻き起こる、彼らが歩む冒険譚。
そして、再び始まる、巡る出会いの物語。
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