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隣の惑星(ホシ)に生命は存在するか

~ 金星と火星で相次ぎ新発見か?~                

オジさんの科学vol.059 2020年11月号

「秋深し隣は何をする人ぞ」。松尾芭蕉の句が元ネタだそうです。お隣さんの様子は、気になるもの。隣の家族は、連れ立ってどこに行くのだろうか。隣の部は、ことしの忘年会をやるのだろうか。どうでもよいことが気になるものです。
 地球のお隣さんは、金星さんと火星さんです。この両隣には、誰が棲んでいるのかしら。それとも空き家なの。つい最近、研究を進展させるかもしれない発表が相次いでなされました。

金星の大気に「生命の指標」物質(ホスフィン)を発見?
 ある惑星の大気から検出されれば、生命が存在する指標となりうる物質の一つに「ホスフィン(リン化水素:PH3)」があります。
 地球上では、嫌気性の微生物の一部が生命活動を行う際に、土壌などから取り出したリンと水素を結合させてホスフィンを作っていると考えられています。もし、太陽系以外の惑星(系外惑星)の大気からホスフィンが検出されれば、そこに生命が存在する可能性が出てきます。
 2020年9月、金星の大気中にホスフィンを発見したという発表が、イギリスのカーディフ大学やマサチューセッツ工科大学、京都産業大学などの研究チームからなされました。

 研究チームは、系外惑星の調査を始める前に、お隣の金星を調べてみたそうです。
 ハワイにあるジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡と、チリのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡を使って金星のスペクトルを分析しました。すると地球の大気中の1,000倍ものホスフィンが検出されました。
 研究チームはその成因を探るために太陽光や雷による金星大気の化学反応、地表から風によって吹き上げられる微量元素、火山ガスによる供給などを検討しました。しかし、これらでは検出された量のせいぜい1万分の1程度しかできないと結論付けました。一方で、地球に似た微生物がいた場合には、検出されたホスフィンが説明できると考えているようです。

ホスフィンを吐きまくり

 金星は、地球とほぼ同じ大きさです。ただし二酸化炭素を主体とする分厚い大気をまとっているため、地表は460℃になることもあり、90気圧に達します。しかし、50~60km上空なら温度も気圧も地球に近く、微生物が存在できる可能性もあると考えられています。

 この発表後に、続々と反論が出てきました。別の研究チームの観測データからは、ホスフィンは見つからなかったそうです。さらに別のチームは元のチームのデータを使い検証しました。観測データは、ノイズを取り除くために数学的補正をする必要があります。元のチームと異なる手法で補正を行ったところ、ホスフィンの痕跡は全く見られなかったそうです。
ホスフィンは存在するのか、それが生命の徴候なのか、今後の調査と研究がまたれます。


火星の地下に湖を発見?
 同じ2020年9月、もう一方のお隣さんについても発表がありました。イタリア・ローマ第三大学の研究チームによると、火星の南極の厚い氷床の下に幅約20kmの大きな湖があり、その周りには少なくとも3つの池があるとのことでした。

 研究チームは、火星を周回する欧州宇宙機関(ESA)の探査機「マーズエクスプレス」に搭載されたレーダーを使って観測しました。
氷床から跳ね返ってくる電波のパターンを解読します。すると地下に何があるのか、それは液体か、岩石か、または泥なのかを判断できるそうです。

 この湖は2012年から2015年にかけての29回の観測結果から、存在が示唆されていました。しかし液体の湖であるか否かは判っていませんでした。その後2015年から2019年にかけて、さらに105回の観測を重ねました。新たなデータは、地球の南極で氷床の下にある湖を探査する時に使われる技術で処理されました。
 その結果、液体の過塩素酸塩の湖であることが判ったそうです。

地底湖に生命

 しかし、この湖の存在を疑問視する専門家もいるようです。NASAの多目的火星探査船マーズ・リコネッサンス・オービターのレーダーでは、確認出来ていないようです。火星極地の気温はマイナス170℃ほどであり、なぜ液体の湖が存在できるのか説明がついていません。火山活動説や特殊な過塩素酸塩の化学組成説などがあるようですが、証明されていません。

 火星には、削られた川床、扇状地、海岸線の跡などがいたるところで見られます。かつての火星には今よりはるかに多くの水が存在したことが分かっています。気候は穏やかで、生命に適した環境だったとも言われています。
長い時間をかけて、火星の海は失われ、地下水や永久凍土として残されたのでしょうか。液体の湖が残っているなら、生命が存在する可能性もあります。

 さらなる観測に期待がかかります。2020年の7月には、NASA⽶航空宇宙局の⽕星探査⾞「パーシビアランス」を搭載したロケットに加え、アラブ⾸⻑国連邦の「ホープ」と中国の「天問号」の3機の火星探査機が打ち上げられました。


微生物は宇宙飛行が可能?
 2020年3月号「宇宙人が見つからない訳」で紹介した研究によると、生命が偶然発生する可能性はとてつもなく低いみたいです。しかし、我々と同じ祖先をもつ生物が火星や金星にいるかもしれない、と考えたらどうでしょう。
 宇宙空間を生命が移動したのではないかと考える「パンスペルミア説」という仮説があります。
 この仮説を検証した実験の報告が、2020年8月にありました。

 東京薬科⼤学と国⽴研究開発法⼈宇宙航空研究開発機構の共同研究グループは、国際宇宙ステーション(ISS)で放射線耐性菌を、宇宙空間に2015年から3年間さらす実験を「たんぽぽ計画」の一環として実施しました。この計画は、たんぽぽの種子が風に乗って広く散布される様子になぞらえて命名されたそうです。

ホシになるタンポポ

 その結果、宇宙空間で微⽣物は、紫外線があたる状態で数年、あたらない状態では数⼗年⽣存できることが明らかになりました。
⽕星と地球間の移動は、自然現象において平均で数百万年かかるそうです。しかし軌道によっては数ヶ⽉から数年でも可能と考えられています。

 松尾芭蕉は漂泊の俳人として知られます。「秋深き隣はなにをする人ぞ」は、旅の途中で病に倒れ、詠んだ句です。亡くなったのは、その2週間後。「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」。
 暗闇の宇宙を旅した生命が到着した星、それが地球だったのでしょうか。

や・そね 

<参考資料>
プレスリリース
・「微⽣物は紫外線下で⻑期間⽣存可能 国際宇宙ステーション曝露実験」
 2020年8月26日 量⼦科学技術研究開発機構

・「⾦星にリン化⽔素分⼦を検出 〜⽣命の指標となる分⼦の研究に新たな⼀歩〜」
 2020年09月15日 国立天文台

WEB
・「⽕星の地下に複数の湖が存在か、幅キロに広がる毒性の⽔」
 2020年9月30日 ナショナルジオグラフィック
・「『金星に生命の痕跡』に反証続々、ホスフィンは誤検出の可能性」
 2020年10月27日 ナショナルジオグラフィック
・たんぽぽ計画ホームページ

雑誌
・「金星に“生命の徴候”物質を発見」 Newton2020年12月号


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