音楽は集中を阻害する
オジさんの科学vol.074 2022年2月号
「集中力は、ありますか?」
と聞かれたら、少なくとも集中して勉強できるタイプではありません、と答えざるを得ない。
勉強には集中できないが、「集中ちゃん」と呼ばれることがある。目や鼻、口、眉などが顔の中央に寄り添っているからだ。
「顔面中央集権ね」と言われたりする。
ほっといてくれっ#
今回は、顔の話ではない。
音楽を聴きながら勉強などに集中できるか、という話です。
些細なことでも気になって勉強に身が入らない子供だった。ちょっとした物音が聞こえるとダメ。声が聞こえるとダメ。
「そんなに気になるのなら、図書館に行って勉強しなさい」と母親に言われた。
ところが、図書館もダメ。周りの席の気配で集中できないのだ。
学生の頃は、深夜放送を聴きながらの受験勉強が流行っていたが、これもダメ。もちろんBGMもダメだ。
様々な情報が飛び交っている場所にいるとします。その中でヒトは、自分にとって重要だと思われる情報だけに注意を向けることが出来るそうです。その認知機能を「聴覚性選択的注意」と呼びます。
パーティー会場などで発揮される聴覚性選択的注意は、「カクテルパーティー効果」と名付けられています。たしかに騒がしいパーティー会場の中でも、スピーチをしている人や対面で会話している相手の言葉はちゃんと聞き取れます。
イギリスの認知心理学者のコリン・チェリーさんは、「両耳分離聴法」という実験によってカクテルパーティー効果を検証しました。
実験参加者にはヘッドフォンを装着してもらいます。そして右と左に、別々の音声を流します。参加者には、どちらか一方の音声を指示し、それと同じことを声に出してもらいます。すると、もう一方がどんな話だったのか、ほとんど何も覚えていない、と言う結果が得られました。話し手が交代するなど音声の種類が変化したことには気づけても、内容はわからなかったそうです。
カクテルパーティー効果とは、「しばらくの間、他の音を無視し、必要な音だけに注意し続ける集中力」だと言えそうです。しかし、そのメカニズムは複雑でまだ十分に解明されていないそうです。最新のAIを用いても、複数の会話から特定の会話だけを取り出すことは難しいようです。
集中力を発揮することでBGMを無視し、仕事に没頭できるのであれば、そもそもBGMを流す必要がないじゃないか。それとも、BGMを流している職場の人は、集中力のスイッチをオンオフして、頭の中で音楽を消したり流したりしていのだろうか。常々BGMが邪魔にならない訳がない、と思っていた。
昨年末、東北大学の研究グループが、低音量のBGMでも、聴覚性選択的注意に影響を及ぼし、本来の作業効率を落とす、と発表しました。
思わず「ほらねっ」と言ってしまった。
今回の研究でも、両耳分離聴法が使われました。実験参加者は、左耳にテスト音が流れたらボタンを押す、という作業を行いました。このテスト音が自分にとって重要な情報になります。その際に、右耳に音楽やノイズ音を流します。こちらは、無視したい情報です。
この状況で大脳聴覚野の脳波をモニターしました。
右耳にノイズ音を流した時、テスト音に対する脳波の反応は、ほとんど影響をうけませんでした。ところが音楽を流した時には、反応が低下したり反応までの時間が長くなったりし、反応が著明に(とプレスリリースに書いています)抑制されることが判りました。この抑制は、音楽の大きさを、聞こえるか聞こえないかのギリギリの値まで下げても確認されました。
脳波だけでなく、ボタンを押すまでの反応時間にも影響が表れました。
この結果は、「音楽によってテスト音への注意が邪魔されるため(リリースの原文ママ)」に生じると考えられるそうです。ほらねっ。
「音楽を聴きながらの車運転(“ながら”運転)や勉強(“ながら”勉強)など注意を要する作業中では、たとえ大音量ではなくとも作業に対する注意レベルの低下が生じ、実際に作業効率にも影響を与えることを示すものです。(リリースの原文ママ)」。ほらねっ。
音楽とノイズ音では、異なる結果となったのは、注意の引きつけやすさが異なるためと推察されました。ちなみに、使った音楽はジャズピアノの楽曲だそうです。癒し系の曲など他の音楽がどのような影響を与えるかについては、今後の課題の様です。
わざわざBGMを流している職場は、たくさんある。ラジオを聴きながら勉強する人も大勢いる。そこには、何らかのメリットがあるのだろう。だれかメカニズムを解明して欲しい。
オジさんはダメだけど。
複数のことを同時に行ったり、注意を向けるものと無視するものを選別するためには、脳のワーキングメモリーの容量が大きくないといけないそうだ。
顔は集中だが頭は小さく、加えて後頭部が凹んでいる。脳の容積が足りないから、集中力がないのかもしれない。
ほっといてくれっ#
や・そね
<参考資料>
『Different contra-sound effects between noise and music stimuli seen in N1m and psychophysical responses』 (「PLoS One」 December 20, 2021)
「聴き“ながら”の作業は作業効率を低下させる可能性!-音楽刺激は低音量でも聴覚性選択注意を阻害する-」東北大学プレスリリース 2022年1月14日
「『集中力』の心理学」 Newton2021年11月号
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