チョウが青いわけ、空が青いわけ。
オジさんの科学vol.056 2020年9月号
「巨人の星」は途中からカラー放送になった、とずっと思っていた。確認のため調べると、そんな事実は出てこなかった。たぶん我が家が、途中までモノクロテレビだったのだ。
カラーテレビでは、色彩を表現するために、赤青緑3色のフィルターが使われている。
今年8月21日、白と黒の粒子で色を作り出す技術に関する発表があった。
白い粒子はガラスの主成分でシリカとも呼ばれる二酸化ケイ素、黒い粒子は黒錆の主成分の四酸化三鉄。広島大学と物質・材料研究機構、名古屋大学の共同研究だ。
粒子のサイズを変えることで、異なる色を作り出すことにも成功した。
色素を使わずに、物質の形によってつくりだす色彩を「構造色」という。物質に当たった光が反射や屈折する時に、表面の形によって特定の波長が増幅されたり、打ち消されたりすることによって色がついて見える。
今月は、色素が無いのに見える色のお話です。
CDは虹色に輝いて見える。表面の筋によって光が干渉し、色づく。これが構造色。昔は「玉虫厨子」のタマムシの光沢が代表例とされたが、若い人は知っているだろうか。
鮮やかな色彩を持つクジャクの尾羽は、見る角度によって色合いを変える。可視光線の波長とほぼ同じ幅の筋状の構造が、色を生み出す。羽根に当たった光は反射し、互いに干渉する。CDに似ている。
中南米に棲む中南米に棲むモルフォチョウの鱗粉は、断面がクリスマスツリーのようになった筋(すじ)がたくさん並んだような構造を持っている。そのため入射光中の青い光の80%を反射する。この構造によりクジャクと違い、ある範囲内ではどの方向から見ても青に見えるそうだ。
東南アジアに見られるルリオビアゲハは、明るい緑色の翅をもつ。このチョウの鱗粉には、小さなお椀形のくぼみが並んでいる。くぼみの底は黄色の光を反射し、周囲の側面は青い光を反射して見える。私たちの脳は、二つ色が組み合された緑色と認識する。
空の色は青い。しかし空気は、本来無色透明だ。
太陽の光のうち青色の光は空気の分子に当たって反射し易く、ジグザクに色々な方向に進む。これを散乱という。太陽に背を向けても空が明るいのは、散乱した青色が目に飛び込んでくるからだ。大気がない月の空は、昼間でも真っ暗だ。青い光は、赤い光の10倍も散乱されやすい。
逆に最も散乱しない赤い光は、どこまでもまっすぐ進む。朝夕は、太陽の位置が低い。太陽光は、目に届くまでに空気の層を長い距離横切る。だから朝日や夕日は、赤色だけが残って見える。
虹の七色は、空気中の水滴に当たった太陽光が、波長によって分解されることで生じる。赤の波長は42°、紫の波長は40°で反射する。だから虹を見上げると、上側の水滴から赤い光が、下側の水滴からは紫が届く。
水に浮かんだ油も、虹色に見える。これは油の表面と、油と水との境目で反射した様々な光が干渉することで生まれた色彩だ。
シャボン玉は、せっけんによる2枚の膜とそこに挟まれた水の層で出来ている。それぞれの境目で反射される光の干渉によって、虹色が生じる。
宝石のオパールや真珠の輝きも、表面が層構造になっていることで現れる。サンマやカツオが青く光って見えるのも構造色、タチウオなどは金属のようだ。
構造色、身近にも色々あるようだ。
オジさんたちは、社内の組織構造や力関係を熟知している。重要な会議の席では、目立たないように、無色透明な空気の様な存在になる。運悪く指名された時は、玉虫色の回答に心がける。
や・そね
<参考資料>
ニュースリリース
「白と黒の粒子を用いて鮮やかな色彩と剥がれにくさを併せ持つコーティングを実現!
~生物をヒントにした、重金属等を用いない環境にやさしい新たな色材として期待~」
2020年8月21日 広島大学 名古屋大学
書籍
『光と色彩の科学』 齋藤勝裕 講談社
雑誌
日経サイエンス2012年8月号「生物の色彩マジック」
WEB
東京理科大学吉岡研究室HP