大人になるまでウンチはガマン。
オジさんの科学vol.106 2024年10月号
我が家のトイレが、詰まったことがある。水を節約するエコタイプに替えた後だ。その時、トイレは住環境の基本だと感じた。トイレが使えないからといって、ガマンするわけにはいかない。排泄は、すべての生き物にとって必須なモノなのだ。
ところが今年9月、名古屋大学の研究グループは、「ウンチをしないオタマジャクシを発見」と発表した。
それは、アイフィンガーというおしゃれな名前を持つカエルのオタマジャクシです。石垣島や西表島、台湾に生息し、体長が3~4cmの小さなカエルです。天敵を避けて、木の洞や竹の切り株などに溜まった小さな水場に産卵します。
そして、日本で唯一の子育てをするカエルとして知られます。しかも両親が協力して育児に参加するそうです。男女共同参画という意味でSDGsに貢献しています。
オスは、卵と一緒に水に入り湿らせて乾燥を防いだり、天敵から守ったりします。メスは、自身の無精卵をオタマジャクシにエサとして与えます。オタマジャクシは、それだけを食べて育つそうです。メスが外部から取り込んだ栄養を無精卵という形で与えるので、小さな水場でも生きていけるのです。
ベビーサークルで子育てをしている様な感じです。孵化してからベビーサークルを出るまでに約21~43日かかるそうです。
しかし、小さな水場では、「環境問題」が生じます。動物は、エサとして取り込んだ窒素を排出しなければなりません。オタマジャクシは、「アンモニア」という形で排出します。
あのツゥ~ンとくるアンモニアは、強い毒性を持ちます。人体が高濃度のアンモニアに触れたり呼吸すると、火傷や炎症、痙攣を起こしたり、死に至ることもあるそうです。もちろんオタマジャクシにとっても有毒です。
川や湖の様な水量が多い場所であれば、アンモニアはすぐに希釈されます。でも閉鎖的な環境の小さな水たまりには、どんどん蓄積されます。
研究グループは、これまでの観察でアイフィンガーガエルがウンチをしないことを確認していました。さらに、今回これを実験で確かめました。
アイフィンガーガエルだけでなく、ニホンアマガエル、ヤマアカガエル、モリアオガエルのオタマジャクシをそれぞれ20mlの蒸留水の中で飼育しました。そして時間とともにアンモニア濃度がどう変わるか測定しました。
その結果、アイフィンガーガエルのオタマジャクシが排出するアンモニアの量が、他種に比べて非常に少ないことがわかりました。
狭いところで暮らすために、その場所を汚さない様にしているわけです。優れた環境保全活動をしていると言えます。
次に、腸内用物(つまりウンチですね)を調べました。研究グループは、観察時に腸内に多量のウンチを溜め込んでいることも発見していました。このウンチを取り出して、そのアンモニア濃度を調べました。
すると、アイフィンガーガエルのオタマジャクシの腸内のウンチには、他種よりも高い濃度のアンモニアが蓄積されていることが分かりました。毒素をお腹の中に溜め込んでいるのですね。
さらに、研究グループは、オタマジャクシが環境中のアンモニアにどれほど耐性を持つか調べました。様々な濃度の塩化アンモニウム水溶液の中で飼育し、生存率を比較したのです。
すると、アイフィンガーガエルのオタマジャクシは、他のカエルよりもアンモニアに対して高い耐性を持っていることが分かりました。他のカエルは、元々は低濃度でも狭い水の中では、どんどん死んでいきました。
アイフィンガーガエルのオタマジャクシも、高濃度に晒されると死んでしまうことが分かりました。これを避けるためにウンチをガマンするようです。
最初の実験で、アイフィンガーガエルのオタマジャクシは、少量ではあるもののアンモニアを排出ことが分かりました。研究グループは「液体または他の形態でアンモニアを排出する可能性があり、これはさらなる調査が必要な問題である」と言っています。簡単に言うと「ウンチの次は、オシッコだ」ですね。
アイフィンガーガエルのオタマジャクシは、カエルの姿になった直後に初めてウンチをするそうです。もちろん育った小さな水場の外で、だそうです。こうやって、小さな水場の環境は、維持されます。この水場がベビーサークルとして再利用されることもありえるようです。次世代へと引き継がれます。
ガマンし続けたウンチ、環境を守った達成感、どんなにか気持ちの良かったことだろう。ちなみに詰まった我が家のトイレは、高圧洗浄をかけた後、水量を増すセッティングにしてもらった。それ以来、住環境も守られ、気持ち良く便座に座っている。
や・そね
<参考資料>
『ウンチをしないオタマジャクシを新発見 ~生息環境を汚さない衛生戦略で生存率を上昇~』
2024年9月25日名古屋大学プレスリリース
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240925_sci.pdf
Ito, Bun, and Yasukazu Okada. 2024. “Phytotelmata-Dwelling Frog Larvae Might Exhibit No Defecation: A Unique Adaptation to a Closed Aquatic Environment.” Ecology e4428. https://doi.org/10.1002/ecy.4428
「アイフィンガーオタマジャクシ」両生類保全研究資料室 ホームページ
http://www.kaerutanteidan.jp/index.php/database/2014-03-27-17-42-12/23-treefrog/52-kurixaei?utm_source=pocket_saves
「はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第7回】アイフィンガーガエル Kurixalus eiffingeri (Boettger, 1895)」 緑書房 ホームページ
https://midori-ikimono.com/2024/03/08/hakken-hatyurui-ryoseirui-7/?utm_source=pocket_shared