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沖縄のアトランティス?

オジさんの科学vol.094 2023年10月号

古代ギリシアの哲学者プラトンが記述した巨大な島「アトランティス」。大西洋上にあり、繁栄を極めたものの、11,000年ほど前に神々の怒りを買って海中に没したといいます。
雪男にネッシー、UFOやバミューダトライアングル。かつて、サンデーやマガジンなどの少年マンガ誌には、世界中の謎が載っていました。アトランティスも、その一つでした。小学生のオジさんは、ちょっとドキドキしながら読んでいました。しかし現在は、海底調査が発達し、プレートテクトニクスの理論が確立することで、信じる人はほとんどいなくなりました。

 今年7月、東北大学、産業技術総合研究所、琉球大学、秋田大学の研究チームは、琉球列島に「沈んだ島」がある、という仮説を発表しました。現在の沖縄本島と宮古島の間に巨大な島があった、と考えているそうです。
 
 宮古島に代表される宮古諸島は、最高所でも標高110mの平坦な島々です。サンゴ礁とその沖合で堆積した石灰岩でできています。宮古ブルーと呼ばれる海の美しさや、独自の文化で有名です。またアトランティスより古い26、000年前には、既に人類がいたと判っています。
 宮古島には行ったことがありませんが、その先の石垣島、西表島、波照間島などへは旅しました。しばらく船着き場などで寝泊りしていました。

 宮古島には、ここにしかいない生き物がいます。例えば、中型のヘビの「ミヤコヒバァ」や体長20cm程のトカゲ「ミヤコカナヘビ」などです。どちらも絶滅危惧種に指定されています。遺伝子の解析によると、ミヤコヒバァは、沖縄本島などに分布する仲間と370~180万年前に分かれたと見積もられています。ミヤコカナヘビも40万年より古い種だと考えられているそうです。

 一方で宮古島は、約40万年前まで水没していたことが判っています。つまり現在の宮古島にいる生き物は、40万年前以降に新しい種として分岐したか、海を渡って来たか、ということになります。ところが、ミヤコヒバァもミヤコカナヘビも海を渡ることができません。生物学上の分析と地質学上の知見が一致しませんでした。沖縄本島と宮古島は約360kmも離れており、これらの陸上に棲む生き物の起源は、大きな謎とされていました。

 1978年に帝国石油とガルフ石油が、沖縄本島と宮古島の海底に眠る台地状の地形「沖縄ー宮古海台」付近で、石油を探して掘削を行っていました。今回、研究チームは、この時の試料を入手し、分析しました。その結果、沖縄ー宮古海台が一時期、陸地だった可能性があることが判ったのです。(地図1)

 さらに、沖縄本島の地質調査やこの海域の調査航海により、かつて沖縄本島南部から沖縄ー宮古海台にかけて隆起したことも判りました。200万年ほど前に沖縄本島と沖縄―宮古海台、宮古島はつながり、北東から南西400kmに渡る島が形成されたと考えられたのです。そしてこの時に、沖縄本島の動植物が島全体に広がりました。ミヤコヒバァの祖先も、この島に棲んでいたのだと思われます。(地図2)

 沖縄本島では170万年~140万年前にサンゴ礁が形成されています。そのことから、この時期、海によって沖縄本島が切り離されていたことがわかります。宮古島でも125万年前からサンゴ礁が形成されています。この頃は、繰り返し海面下に水没していました。
その時、海を渡る能力のない生き物は、隔離されたのです。沖縄ー宮古海台の島に残された祖先はミヤコヒバァに、沖縄本島では別の種に進化したと思われます。(地図3)

 そして約40万年前以降に宮古島は隆起に転じます。研究チームは、「沖縄―宮古海台に生息していた動植物は、このようにして陸域ができた宮古諸島に移住したと思われます」と言っています。この時にミヤコヒバァも移ってきたのでしょう。(地図4)

 その後27万年ほど前に沖縄―宮古海台は、海に沈んだと推測されています。沖縄―宮古海台の表面は、27万年前以降に大陸棚のような場所で形成される石灰岩に覆われているそうです。
そして今、残った宮古島にミヤコヒバァが棲息しているのです。(地図5)


 アトランティスは、自然の恵みを受けた島だったといいます。様々な穀物や野菜、果実などが採れたようです。また、野生動物や鉱物資源にも恵まれていたと書いてあるそうです。アトランティス人の末裔は今も生きている、という伝説もあります。
 沖縄―宮古海台も、かつて多くの動植物が暮らす島だったのでしょう。沖縄本島から隔離され、独自の進化を遂げました。その末裔が宮古島に移り住んでいるのです。

 研究チームは、「本研究は、地質学と生物学(生物系統地理学)、あるいは同じ生物を対象にするものであっても分子遺伝学と古生物学といった、まったく異なるアプローチの研究の融合」と言っています。
 今やプラトンの記述通りのアトランティスを信じる人はほとんどいません。一方で、現代科学の融合によって「浮かびあがる島」もあるのです。

や・そね

<参考資料>
プレスリリース
「宮古島の固有種の故郷は消えた島だった?地質学と生物学の融合研究が描き出した新たな琉球列島の形成史と生物進化」
2023年7月20日 東北大学、産業技術総合研究所、琉球大学、秋田大学

「ゲノム解析によって明らかになった宮古諸島の人々の由来」 2021年1月21日 琉球大学

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