ハダカで足を引っ張るやつ
オジさんのカガク2019年2月号
会社には、仕事の邪魔をする人たちがいます。
例えば、仕事に集中させてくれない人たち。「ちょっといいですか?」企画書を書いているのに、隣で悩みを語り始める後輩。朝から大声で電話に説教をしているオジさん。山のように届く無関係なメールの原因は、やたらとccをつける同僚。
仕事の効率化が図れない人たち。話が長くて、要領を得ない上司。仕事が遅いうえに間違いが多く、負担を増やす部下。反対はするけど対案を出さないオバさん。
自分も知らず知らずのうちに同じようなことをやっているかもしれない。胸に手を当て考えてみよう(^_^;)
でも一番性質が悪いのは、意図的に足を引っ張る人たちだ。
ハチやアリに代表される社会を構築する生き物は、協力するように進化した。
ところが理化学研究所と総合研究大学院大学などの研究チームは、社会を構築しながらも足の引っ張り合いをする動物を世界で初めてみつけた、と1月に発表した。
はい、それはハダカデバネズミです。オジさんのカガク、2度目の登場です。略して「デバ」と呼びます。
デバたちは、東アフリカの乾燥地帯で地中にトンネルを掘って棲むげっ歯類。女王様を中心に社会を作る。一つの巣で、数十から二百匹程度が共同生活を営む。
デバの社会は、ハチやアリほどきっちりしたものではなく、中小企業の様なものらしい。
子どもを産むのは一匹の女王様だけ。一番大きく、力で勝ち取ったデバ商事の社長。
その他に女王のお相手の繁殖オス(王様?)、兵隊デバ、巣穴の整備や食料集めをする働きデバなどの役職がある。働きデバの中には、体温でこども達を温める肉ぶとん係もいる。
デバ商事では、身体の重い方が序列は上になる。つまり上司だ。通路で上司とすれ違う時には、「ピュウ」と挨拶をしなければいけない。
きびきびと働くデバもいればマイペースなやつもいる。社長の女王は、巣中を巡回し、サボっているデバを叱りつける。
過去の実験で、デバたちは協力して巣の掃除をすることが判っている。彼らを複数の部屋がある飼育器の中に入れ、各部屋にプラスチックストローの切れ端を敷き詰める。するとひとつの部屋だけ、ストローが運び出され女王の休憩場所としてきれいに片付けられる。
ところが、この研究を詳細に分析すると、他のデバの作業を邪魔する者がいることが判った。
仕事をしてるデバちゃんに別のデバ君が背後から近づく。デバ君はデバちゃんの尻尾をくわえて、後ろに引っ張ったのだ。尻尾を引っ張って足を引っ張るというややこしいことをした。引きずって別の部屋に連れていった。
今回の実験には31匹のデバが参加した。4つの部屋を連結した飼育スペースにデバを4匹ずついれた。一回の実験は90分間で、全ての行動がビデオ撮影された。デバには個人情報保護法は適用されない。
実験は、女王、お相手、働きデバの組み合わせを変えて、50回繰り返された。そして合計75時間のあいだに、138回の妨害行動が観察された。
力のある者がない者の邪魔をすればパワハラだ。
実験ではパワハラだけでなく、上司を邪魔する行為も見られた。それどころか女王の邪魔をする働きデバもいた。社長室に押し掛けて仕事の邪魔をするようなものだ。
妨害行動は、お互いが休息している時よりも仕事中に多く起きていた。仲良くお昼を食べたり飲みに行ったりしてるのに、仕事となると足を引っ張るやつみたいだ。
そして、引きずられて連れて行かれる別の部屋は、特に決まってはいなかったそうだ。説教部屋がある訳ではなさそうである。
妨害行動があった後、やられたデバちゃんも、仕掛けたデバ君もそれまでと変わらず仕事をしていたそうだ。デバちゃんが報復したとは報告されていない。上司に相談もしていないようだ。同僚に愚痴ったかどうかは、判らない。
ハダカデバネズミは、働いている仲間を妨害して、その仕事を奪ったと考えられる。団塊の世代のオジさんたちのようです。足を引っ張ったというより、仕事で他人を押しのけたのだった。
本来、ひとつの目的を達成するために協力して労働する方が効率的だ。仕事の奪い合いが、デバ商事のためになるとは考えられない。無駄な行動を進化的に説明することは極めて難しい。
そこで、研究チームはひとつの可能性を示した。
ハダカデバネズミは、自分のためにではなく他のみんなのために働く。全体の利益向上のために、極端な利他性を獲得している。そのために、妨害行動をしてでも仕事をしてしまう様になったのではないか、ということだ。
全体の利益のために仕事していたはずなのに、いつのまにか仕事自体が目的になってしまったのですね。本来家族を養うためなのに、仕事のし過ぎで家庭崩壊させるサラリーマンのようです。
解明のためには、さらなる研究が必要だとチームは言っています。
人間の迷惑な人たちの行動原理も、誰か解明してください。
190228 や・そね
<参考資料>
プレスリリース
・「ハダカデバネズミは尾を引っ張り、仲間の労働を妨害する 集団
的意思決定に背く行為の発見」
理化学研究所 総合研究大学院大学 2019年1月17日
書籍
・岩波科学ライブラリー「ハダカデバネズミ」 吉田重人・岡ノ谷一夫
WEB
・ウィキペディア「ハダカデバネズミ」
<バックナンバー>
2016年
1月号 世界一のシマシマ
2月号 夢を操る
3月号 指で潰せる最強生物
4月号 腰痛は愛から
5月号 働くオジさん
6月号 鬼門の先
7月号 ネコはおしゃべり
8月号 世界のタムじいさん
9月号 台風七番勝負
10月号 見えてます
11月号 ヒトの脳は大雑把が得意
12月号 謎解きDNA
2017年
1月号 旧石器時代最先端技術博レポート
2月号 がんばれベテルギウス
3月号 ヒトのカラダは倹約上手
4月号 ボクが鳥を恐がるわけ
5月号 恐竜からヤキトリ
6月号 「ハンバーガー」と「かば焼き」
7月号 将棋と脳
8月号 ナノカーなのだ~
9月号 宇宙の「柿の種」問題
10月号 ちいさなさざ波
11月号 カラフルな、ふとん
12月号 お熱いのがお好き
2018年
1月号 13%の不運!
2月号 インフルエンザは、なぜ流行る?
3月号 おイヌさまさまなのだ。
4月号 ネコの人工血液が出来たんだニャ~。
5月号 ミートテックを愛用する方々にジャストミートする諸研究
6月号 下手は伝染る
7月号 ゆるゆるカガクの用語集「第二の地球」編
8月号 ネッシーの不在証明
9月号 ホップ、ステップ、アワワワワ。
10月号 群れるメリットが「社会」をつくる。
11月号 氷の底に潜む忍者
12月号 隙間の神様
2019年
1月号 新発見!記憶復活薬