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巨大翼竜は、飛べなかった⁉

 TVerを覗いていたら、『空飛ぶ広報室』を発見。感動の最終回を、また観てしまった。航空自衛隊松島基地で、再び巡り合った空井さんと稲葉さん。頭上をブルーインパルスが翔け抜けて行く。めでたしめでたし。その航空自衛隊の主力戦闘機は、F-35。米軍と同じく最新鋭で、無敵の戦闘機だ。

 昔、地上を恐竜が支配していた頃も、大空には無敵の巨大翼竜が君臨していた。ティラノサウルスがどれだけ強かろうが、空飛ぶ「プテラノドン」を捕獲することはできなかったはずだ。関係ないが、ゴジラと戦った「ラドン」は、プテラノドンから命名されたと言われる。全然似てないけどね。
 プテラノドンが翼を広げると5~6mになる。さらに最大級の翼竜と言われる「ケツァルコアトルス」は、翼を広げると9~11mにもなる。これは、F-35の全幅サイズとほぼ同じになる。

 ところが今年5月、名古屋大学、東京大学、フランスのシゼ生物学研究センターの共同研究グループが、「巨大翼竜はほとんど飛ばなかった」という発表を行った。
 巨大翼竜は本当に空を飛べなかったのか、今回の発表などから整理してみた。

 空を飛ぶためのチェックポイントとして、以下の3つが挙げられる。①大きくても軽い体だったか?②離陸できたのか?③離陸した後飛び続けることが出来たのか? である。

それぞれについて見てみよう・・・
①大きくても軽い体だったか?
翼竜の骨は、中空構造だったことが判っている。骨壁もペラペラに薄い。鳥の骨よりも薄いそうだ。ケツァルコアトルスの上腕骨の直径は25cm以上あるが、骨壁の厚さは約3mmしかないそうだ。これはダチョウの卵の殻と同じくらいしかない。骨の中には、丈夫な支柱が数多くあり重量を増やすことなく強度を高めていた。同じ中空構造の鳥の骨よりも軽かったと考えられている。
名古屋大学などの研究グループは、プテラノドンの体重を18.5kgと36.7kg、ケツァルコアトルスを259kgと見積もった。

②離陸できたのか?
動物園のフラミンゴの檻には屋根が無い。離陸に長い助走を必要とするフラミンゴは、動物園の檻からは飛び立てない。アホウドリも羽ばたいて飛び立つことが出来ず、島の斜面を駆け下りて勢いをつける。
巨大翼竜に関しては、離陸できなかったという説もあるが、現在多くの研究者は何らかの方法で離陸できたと考えているらしい。昔のマンガ雑誌の特集では、ハンググライダーのように高い崖の上から飛び立った、と書いてあったような気がする。
翼竜は、鳥とは異なり、地上にいる時は四足歩行だったことが足跡化石から判っている。腕(翼の骨)が後ろ脚に比べて極端に長い。これを杖の様に突いて歩いたようだ。四本の脚で鳥よりも力強くジャンプ出来たのではないかとも言われている。
さらには「脚を曲げる時に筋肉と腱をゴムのように引き延ばし、これを解き放つ勢いでジャンプする」という説もある。空母からカタパルトを使って飛び立つ戦闘機の様だ。

③飛び続けることが出来たのか?
飛び続ける方法として、次の2つがある。
a.羽ばたき飛行
文字通り翼を羽ばたかせて舞い上がること。
しかし、複数の研究が、巨大翼竜は羽ばたき飛行を長時間維持することはできなかった、と結論付けているそうだ。
つまりダメということのようだ。

b.ソアリング(滑空)飛行
今回の研究グループは、この飛行方法について検証をおこなった。
ソアリング飛行とは、大気の流れを利用して舞い上がる飛び方。コンドルは、飛行時間のうち1%しか羽ばたいていないという。アホウドリは長い翼を巧みに操り、ほとんど羽ばたくことなく、数百キロも滑空して大海原を渡り、世界を周遊する。
ソアリング飛行には、「サーマルソアリング」と「ダイナミックソアリング」の2種類があるそうだ。
コンドルやワシの仲間が日常的に使っているのが、サーマルソアリング。上昇気流に乗って空高く舞い上がる方法。上昇気流内を旋回することで高度を稼ぐ。「トンビがクルリと輪を描いた~♪」ってやつですね。
アホウドリは、ダイナミックソアリングで飛行する。海上の風勾配(海上の風の速度は、海面と接する低空の方が、上空より遅くなること)を利用する。海面近くのゆっくりとした風に乗って高度を上げた後、上空の強い風に乗り換えて海面近くまで下降する。高度を稼いではこれを距離に変えるというこのサイクルを繰り返す。

 研究グループは、翼竜の体重、翼面積、抗力係数、飛行速度などによる力学モデルを使い、サーマルソアリングとダイナミックソアリングの性能を計算し、現生鳥類と比較した。対象としたのは、プテラノドンとケツァルコアトルス。

 計算の結果、プテラノドンはサーマルソアリングに適していたことが判った。プテラノドンの化石は、海の地層から多く見つかっている。アホウドリのように島の斜面を駆け下り、コンドルのように大空を旋回していたかもしれない。
 一方で、ケツァルコアトルスは、サーマルソアリングもダイナミックソアリングの能力も現生鳥類に比較して極端に低いことが判った。研究グループは、この種はほとんど飛ばずに陸上で生活していた可能性が高いと考えているそうだ。
 肉食動物がいないニュージーランドには、飛べない鳥が多い。ケツァルコアトルスも大型肉食恐竜がいない島などで地上に君臨していたに違いない。頭に王冠を被り、大きなマントを羽織り、杖を突いている。まるで王様のように。

や・そね
参考資料

プレスリリース
『巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~』
2022年5月12日 名古屋大学、東京大学、シゼ生物学研究センター
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/05/post-254.html

ウェブサイト
ナショナルジオグラフィック 「特集ギャラリー:翼竜 太古の空のモンスター(2017年11月号)」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/gallery/102400008/

雑誌
日経サイエンス 2016年8月号「史上最大の飛ぶ鳥ペラゴルニス」
日経サイエンス 2020年7月号「中生代の空の怪物 翼竜」
ナショナルジオグラフィック日本版 2017年11月号「すごいぞ!翼竜」

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