【異空間短編小説】反旗のマカリエル
私の世界は終わりかけていた。今世はマカリエルさまに支えてきた運命だった。
きっと来世ではもっといい人生を送ることができるだろう。間人(まびと)はヒシヒシとそう思っていた。ああ、ようやくこの青くもあり、まるで橙のようでもあり、今にも気を失いそうにもなるこの移動物空間から旅立つんだな。間人はベッドから起き上がって、移動物のなかに設計される窓から外を眺めた。間人の目に映るのは、まるでクレヨン1本1本で線を横に引いたかのように鮮やかな虹色のように映るゴチャゴチャな横線の数だ。「ああ、これでようやく……」間人はふと空気を体から漏らした。そんなとき着信音が移動物から鳴り響いた。「間人、間人、準備はもうできましたか?」マカリエル様の声だった。
「はい、マカリエル様。準備はもうできています。あなた様に仕えることができた今世のことは、記憶がたとえ飛んだとしても、私の真髄に埋め込まれているでしょう。ありがとうございましたマカリエル様」
堂々と感謝の気持ちを口にする間人は、
なんとも言えず逞しいさまだった。
「間人よ、最後に私から言いたいことがある。君はあのときから私に今旅立つまで仕えてきたな。なぜ反逆1つしなかった」
「反逆ですか、今だから正直に言いますが、モチロン考えたことはありましたよ。正直こんな意味不明の空間であなたの命令に従い続け、この授かった生命体を朽ち果てるまで使っていいいものかとも。ただ、私にはできませんでした。あなたに反逆したとしてもあなたはロボットをも超えた道の生命体です。あなたといたら何が起こるか予想だってできないのですから」
マカリエルは数秒沈黙して、話を再開した。
「あなたは私にあったときから精神に異常をきたしていたのです。
あなたもお気づきでしょう」
「はい、承知しております」
移動物のなかからは人間が歯医者でよく聞くような
「キュゥゥゥぅゥイーーーーーン」というあの音に近い好みが分かれるが音が流れていた。
「ただいま白線蘭代機構に到着いたしました」
移動物からは機械のような自動音声アナウンスが流れる。
間人は異動物の先端にある入口を開け、外に飛び出した。
「ああ、ここが白線蘭代機構なのか、」
後ろからつけてくるように、マカリエルも外にでる。ここはいわゆる惑星でもない、星でもない。言葉で表現するなら『異空間』だ。雲のような霧が出ており、間人とマカリエルの前には長い一本道が続いている。マカリエルが先に足を踏み始め前進すると、それに続くように間人も足を前に出し始める。
「いいか間人、ここは歴史なのだ。お前は元々地球人の体を持っていた先祖がいるし地球で過ごした時期も僅かだがあっただろう。そこで歴史というものを学習したな? 言ってしまえばあれは地球の歴史だ。ここは空間世界の歴史だ。数千年という程度の歴史ではない。無限ともいえるような歴史がここには残っている。それはこれまで永久的ともいえるほどにここにずっと残ってきていたのだ」
「しかし、マカリエル様。確かに私から見ると恐ろしいくらいに無限大であります。こんな情報、私には到底入り切りませんし私は既に消える目前であります。なんのためにこんな世界を私に見せるのですか?」
「いいか、間人よ。私もこの歴然たる歴史を全て把握するのは不可能だ。頭に入れるだけ無理だ。私が言いたいのはだな、全ては白であり継がれるものなのだよ。」
「白とはどういう意味なのでしょうか」
「お前も私に仕えてきたからわかるだろうが、世には生命体もいれば、この白線蘭代のように異空間も存在する。争いも起これば、奪いもあり残酷だろう? 私もな、そんなことはお前が生きてきた歩数より潜ってきているだろう。白とは降伏なのだ。諦めるという意味でも考えられるし、シンプルとも捉えられる。だが私がいいたい白とはな、“消える”ということなのだよ」
「消えるですか?」間人は顔をあげて上を見上げる。
「いいか、間人。お前が生きてきた世界も私が生きてきた世界はもそもそも存在などはなかったのだよ。全ては白なのだ。1つの記憶でしかないのだ。全てはいづれ消え失せる。生まれようが生まれまいが、記憶を持とうが持つまいが全ては白なのだよ」
間人にはよく理解できていなかった。だがこれから理解することになる。
マカリエルは足を前に踏み出した。
「永遠なる白線蘭代よ!我らはここにいるいつでもこい」
マカリエルから聞いたこともないような大声を聞いたことで間人の心拍数は一気に上昇した。ドクドクドクドク、ドク、ドク、ドク。隣に人がいたらもしかしたら聞こえていたかもしれない。そんなことを考えた直後だった。霧が全て消え去り、そこには別のマカリエルがいた。姿も背丈も全て一緒だった。ここではマカリエル2と呼ぶ。間人が仕えてきたマカリエルが話し始める。
「マカリエルよ、戻ってきたぞ」
「遅いのだよ、私よ。それより今回の仕えは珍逞しいな。地球人か?」
「ああ、そうだ。こいつは間人といってな、ここで今から消えるものだ」
「ほー、こいつを消すのじゃな了解じゃ」マカリエルは2人で話に決着をつけたようだ。2人が同時に間人の方を向いた。目が緑に輝き、吸い込まれてしまいそうだった。
「マカリエル様、私は消えたあとどうなるのですか?」まぶたが重くなりながらも間人はゆっくりと声を出し確認しようとした。
マカリエルは同時に「今度はお前がマカリエルになるのだ」と覇気がある口調で答えた。マカリエルは杖を瞬時に作り出し、その杖を目にも止まらぬ動きで振り回し、間人をチリも残らず消し去った。
目が覚める。私は誰だ。起き上がるとそこには革靴を履いたまま眠り、制服を着た地球人の生命体が目の前にあった。すぐさま気づいた。私はマカリエルであり、コイツが間人(以前の私と同じ仕え人)なのだと。次のマカリエルは私だと感覚的に理解した。私を消した2人のマカリエルのうち一人は次の異空間に飛び立ったようだ。そして、今度は私にマカリエルの役割が回ってきたのだと。目の前にいる間人を見ながらマカリエルは熟考した。20秒考え、こんな無意味な世界は終わらせるべきではないかと判断した。同じ世界を巡回したところで意味はない。この世界は白であり消えるのだ。よし私は消えよう、これでこそ反逆者だ。そう決めた瞬間に、間人が起き上がる。「マカリエル様ですか?」マカリエルは仰天した。なぜコイツにも記憶があるのだと。そこで察した、コイツも私なのだ。私は2つに分かれたのだ。そう、このマカリエルと間人というセットの存在は『異空間』にこそ生み出された、生命の新たな創造方法だったのだ。こうしてマカリエルの順番を待っては白になり消され、復活しては順番に次の異空間に回されていく。つまり全ては同じ生命体であり、2つに分裂してはさらに分裂する。それが歴史でありマカリエルと間人という生命なのだ。
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