見出し画像

院内感染症対策指針

コロナウイルス前のものになるので、新しくアップデートが必要となりますが、診療所を開設する際に作成した院内感染症対策指針です。診療所・訪問看護ステーションで必要に応じて、編集して活用して下さい。

年に2回実施することが推奨されている院内感染症対策研修に用いて輪読をするなりして、オリジナルに育て上げていくことをして頂ければ幸いです。


1. 手順衛生


 1-1 個々の患者のケアー前後に、石鹸と流水による手洗いか、アルコール製剤による擦式消毒を行う。
 1-2 使い捨て手袋を着用してケアーをする場合の前後も、石鹸と流水による手洗いか、アルコール製剤による擦式消毒を行う。
 1-3 目に見える汚れが付着している場合は必ず石鹸と流水による手洗いを行うが、そうでない場合は、擦式消毒でも良い。しかし、アルコールに抵抗性のある微生物に考慮して、適宜石鹸と流水もしくは抗菌石鹸と流水による手洗いを追加する。
 注:手拭タオルはディスポーザブルのペーパータオルを使用するようにする。このことにより、手洗い遵守率が向上し、診療所の質も評価される。経済的負担はこれに十分値すると考える
 注:洗面器を使用した手指消毒(ベイスン法)は、不確実な消毒法でであり、有効に消毒できないため行わない

2. 手袋


 2-1 血液/体液には、直接触れないように作業することが原則である。血液/体液に触れる可能性の高い作業を行うときは、使い捨て手袋を着用する。
 2-2 手袋を着用した安心感から、汚染した手袋でベッド、ドアノブなどに触れないよう注意す    る。
2-3 ディスポーザブル手袋は再使用せず、患者(処置)ごとの交換が原則である。やむを得ず繰り返し使用する場合には、そのつどアルコール清拭が必要である。

3. 個人的防護用具(personal protective equipments PPE)


 3-1 患者と濃厚な接触をする場合、血液/体液が飛び散る可能性がある場合は、PPE(ガウン、またはエプロン、ゴーグル、フェースシールドなどの目の保護具、手袋、その他の防護用具)を着用する。

4. 医療器具・器材


 4-1 滅菌物の保管は、汚染が起こらないよう注意する。汚染が認められたときは、廃棄、あるいは、再滅菌する。使用の際、安全保存期限(有効期限)を遵守する。
 4-2 滅菌済み器具・器材を使用する際は、無菌野(滅菌したドレープ上など)で滅菌手袋着用の上で取り扱う。
 4-3 非無菌野で、非滅菌物と滅菌物とを混ぜて使用することは意味がない。

5. リネン類


 5-1 共用するリネン類(シーツ、ベットパッドなど)は熱水消毒を経て再使用する
 5-2 熱水消毒が利用できない場合には、次亜塩素酸ナトリウムなどで洗濯前処理する(250ppm(5%次亜塩素酸ナトリウムなら200倍希釈)以上、30℃、5分以上)。
 注:血液の付着したリネンは、血液を洗い落としてから次亜塩素酸ナトリウム消毒すべきであるが、汚染の拡散に十分注意する。この意味においても、たとえ小型であれ、医療施設用熱水洗濯機を導入すべきである

6. 消化管感染症対策


 6-1 糞便-経口の経路を遮断する観点から、手洗いや手指消毒が重要である。
 6-2 糞便や吐物で汚染された箇所の消毒が必要である。
 6-3 床面等に嘔吐した場合は、手袋、マスクを着用し、重ねたティッシュで拭き取り、プラスチックバックに密閉する。汚染箇所の消毒は、次亜塩素酸ナトリウムを用い、平滑な表面であれば、5%溶液の50倍希釈液を、カーペット等は10倍希釈液(5,000ppm)を用い、10分間接触させる。表面への影響については、消毒後、設備担当者と相談する。蒸気クリーナー、または、蒸気アイロンで熱消毒(100℃1分)することも良い。
 6-4 汚染箇所を、一般用掃除機(超高性能フィルターで濾過排気する病院清掃用掃除機以外のもの)で清掃することは、汚染を空気中に飛散させる原因となるので、行わない。

7. 患者の技術的隔離


 7-1 空気感染、飛沫感染する感染症では、患者にサージカルマスクを着用してもらう。
 7-2 空気感染、飛沫感染する感染症で、隔離の必要がある場合には、移送関係者への感染防止(N95微粒子用マスク着用など)を実施して、適切な施設に紹介移送する。
 7-3 接触感染する感染症で、入院を必要とする場合は、感染局部を安全な方法で被覆して適切な施設に紹介移送する。

8. 感染症発生時の対応


 8-1 個々の感染症例は、専門医に相談しつつ治療する。
 8-2 感染症の治療に際しては、周辺の感染の拡大を防止しつつ、適切に実施する。
 8-3 アウトブレーク(集団発生)あるいは異常発生が考えられるときは、地域保健所と連絡を密にして対応する。

9. 抗菌薬投与時の注意


 9-1 対象微生物と対象臓器の組織内濃度を考慮した適性量の投与を行う。分離微生物の薬剤感受性検査結果に基づき抗菌薬選択を行うことが望ましい。
 9-2 細菌培養等の検査結果を得る前でも、必要な場合は、経験的治療empiric therapyを行われなければ成らない。
 9-3 特別な例を除いて1つの抗菌薬を長期間連続使用することは厳に慎まなければならない
 9-4 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)など特定の多剤耐性菌を保菌しているが、無症状の症例に対しては、抗菌薬の投与による除菌は行わない。
 9-5 地域における薬剤感受性サーベイランス(地域支援ネットワーク、厚労省サーベイランス、医師会報告など)の結果を参照する。

10. 予防接種


 10-1 予防接種が可能な感染性患者に対しては、接種率を高めることが最大の制御策である。
 10-2 ワクチン接種によって感染が予防できる疾患(B型肝炎、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、インフルエンザ等)については、適切にワクチン接種を行う。
 10-3 患者/医療従事者共に必要なワクチンの接種率を高める工夫をする。

11. 医薬品の微生物汚染防止


 11-1 血液製剤(ヒトエリスロポエチンも含む)や脂肪乳剤(プロポフォールも含む)の分割使用を行ってはならない。
 11-2 整理食塩液や5%ブドウ糖液などの注射剤の分割使用は原則として行ってはならない。もし分割使用するのであれば、冷所保存で24時間までの使用にとどめる。
 注:生理食塩水などの分割使用は、細菌汚染のみならず、B型肝炎やC型肝炎などの原因にもなる
 注:室温保存を義務付けている薬剤はない。誤解のないよう。冷所保存不可であれば、寒冷地で使えなくなる

12. 医療施設の環境整備


 12-1 床、テーブルなどは汚染除去を目的とした除塵清掃が重要であり、湿式清掃を行う。また、日常的に消毒薬を使用する必要はない
 12-2 手が頻繁に触れる部位は、1日1回以上の水拭き清拭または消毒薬(界面活性剤、第四級アンモニュウム塩、アルコールなど)による清拭消毒を実施する。
 注:環境消毒のための消毒薬の噴霧、散布、燻蒸および紫外線照射、オゾン殺菌は、作業者や患者に対して有害であり実施しない


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?