ISO56002 イノベーションマネジメントシステムの目次(2022年3月7日更新)

あらかじめ全体像をつかんでおくことで、ISO56002を読むハードルを下げることを目的とした記事だ。イノベーションにOSとアプリがあるとしたら、ISO56002 イノベーションマネジメントシステムは、企業のOSにあたる部分を規定した文書だ。

2022年3月7日更新
2020/05/16更新
2019/10/19開始

2019年7月15日に発行された「ISO 56002:2019 Innovation management — Innovation management system — Guidance」の目次を見ていく。

「ISO 56002」は、イノベーション・マネジメントシステムの国際規格であるISO 56000シリーズのメインとなるガイダンス規格。

ISO56002に関わらず、大企業におけるイノベーションマネジメントシステムのアイデアの断片について記載した記事は以下から見ることができる。

アイディア農場プロジェクト:大企業におけるイノベーションマネジメントシステム(ISO56002を含む)(2019年11月2日開始)

【英語版のISO 56002の購入】(有料)

以下のサイトから英語版のISO 56002を購入できる。
https://www.iso.org/standard/68221.html

同じく有料だが、日本語訳もある。日本規格協会グループが販売しているので、後半にリンクを記載しておく。

なお、経済産業省は、このISO56002に基づいた行動指針を、2019年10月4日に出している。

【ISO56002 イノベーションマネジメントシステムの目次と本文】
英語だが、目次と本文の一部が、無料で見られる。
https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:56002:ed-1:v1:en

ISO56002 イノベーションマネジメントシステムの全体像を図で示した「Figure 1 — Representation of the framework of the innovation management system with references to the clauses of this document」を手元に置きながら、目次を読むと、理解がより早く進むだろう。

ISO56002の「目次」と「ちょっとした気づき」

ISO56002の全体像、目次は以下の通り。目的であり、中核は、8章の「活動」だ。

【0】序文
【1】適用範囲
【2】引用規格
【3】用語及び定義
【4】組織の状況
【5】リーダーシップ
【6】計画
【7】支援体制
【8】活動(Operation): イノベーション活動を5段階の非線形(non-liner)の活動と定義。

Operationの意味合いが分かりづらいが、英英辞典で調べたところ、意味の一つに"military activity"があった。スタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』における"military activity"を思い浮かべると、実際のOperationのイメージに近くなるのかもしれない。

中でも、8.3のInnovation processesが特に重要。具体的には、以下の五つのプロセスに分かれる。

1. 機会の特定(opportunities)
2. コンセプトの創造(concepts)
3. コンセプトの検証(concepts)
4. ソリューションの開発(solutions)
5. ソリューションの導入(solutions)

4. ソリューションの開発(Develop solutions)は、3でできあがったthe conceptを、a working solutionに変換させていくprocessだ。

5.ソリューションの導入は、英語ではDeploy solutionsだ。

五つのプロセスは、identify, create, validate, develop, deployとも言える。事業戦略ストーリーの仮説を作るタイミングは明記されていないが、1と2でやりたい。事業戦略ストーリーが一定水準以上に練られていなければ、3でコンセプトをvalidateする意味も乏しいからだ。

【9】パフォーマンス評価 
【10】改善

特に、7の支援体制(Support)の目次は以下の通り。Supportは8項目ある。一つ目の項目であるResourcesの内訳は6項目。

【7】支援体制 7 Support
▼7.1 Resources
7.1.1 General
7.1.2 People
7.1.3 Time
7.1.4 Knowledge
7.1.5 Finance
7.1.6 Infrastructure
▼7.2 Competence
▼7.3 Awareness
▼7.4 Communication
▼7.5 Documented information

7.5.1 General
7.5.2 Creating and updating
7.5.3 Control of documented information
▼7.6 Tools and methods
▼7.7 Strategic intelligence management
▼7.8 Intellectual property management



7.1 Resourcesの6項目が特に印象に残った。 理想的な絵を掲げるだけではダメで、理想的な絵を描くときに、一緒に、リソースのことを検討しないと、絵餅になる。WHYやWHATも重要だが、HOWを行うためのリソースも必要だ。イノベーションマネジメントシステムを構築する際も、リソース部分に気を配る必要がある。

7.5では、①クリエイト、②アップデートの二つのプロセスがありそうだ。そして、それらをコントロールするプロセスが7.5.3になる。

『失敗の本質』でも取り上げられているように、作戦完遂のためのリソースに注意を向けない傾向が、日本にはありそうだからだ。

以下は、イノベーションマネジメントシステムの国際標準であるISO56000シリーズの全体像をつかむためのわかりやすい図。 


イノベーション・マネジメントシステムの国際規格であるISO 56000シリーズの全体像

【ISO 56000】
8項目でイノベーション・マネジメントの原理原則を記述
【ISO 56002】
イノベーション・マネジメントシステムの世界初の国際規格
【ISO 56003】
外部との共創活動におけるパートナーシップの手順や考え方を規定
【ISO/TR 56004】
イノベーション・マネジメントアセスメントの手順や考え方を規定

ISO 56002:2019の英語版(26ページ)、邦訳版(76ページ)は、日本規格協会グループにて販売されている。

▼ISO 56002:2019の英語版(26ページ)
15,576 円(税込)(本体価格:14,160円)(2019年10月25日現在)

▼邦訳版(76ページ)
28,028 円(税込)(本体価格:25,480円)(2019年10月25日現在)

▼問い

・[2020年2月23日追記]撤退のマネジメントについては、ISO56002に記載されているのだろうか?
・法律やリスクの分野についてどこに書いてあるのだろうか?
・[2022年3月7日追記]コーポレートベンチャーキャピタルとISO56002はどのように関連しているのだろうか?

▼アイデアやメモ
・[2020年2月23日追記]プロジェクトマネジメントのPMBOKとイノベーションマネジメントシステムのISO56002との統合も試みたい。

・ISO56002を無批判に取り入れるのではなく、各社なりのイノベーションマネジメントシステムにするのが効果的だ。全社戦略や事業戦略がまずあり、それに基づいたイノベーションマネジメントシステムにしたい。

・マネジメントシステムを入れること自体が重要なのではなく、成熟度、習熟度を上げていくという連続的な運動が重要。

・認定制度という考え方。スウェーデンでやっている。参考にしたい。イノベーションの一般常識、基礎を知っている人が、社内に数名ではなく、100名、1000名、10000名いたら、会社は大きく良い方向に変わるだろう。10人では足りない、最低でも100人の育成が必要だ。

また、プロジェクトマネジメントのスキル、能力がある人の育成も大切。それによって、組織の基礎体力が決まる。

・イノベーションマネジメントシステムのフレームワークで考えれば、抜け漏れは少ない。チェックリストとしても、ISO56002は効果的だ。

・どの企業にもイノベーションマネジメントシステムは存在している。完璧ではないにせよ、その要素はある。なので、それをつなぎ合わせることが重要。

・イノベーションとテクノロジー。それは全く異なるもの。また、テクノロジーというと、ITテクノロジーを想起しがちだが、バイオテクノロジーなどIT以外の分野にもテクノロジーは存在している。

ISO56002において、テクノロジーはどの要素に含まれるのか? 確認したい。

▼ISO56002のフレームワークと以下のレッシグの4要素との整合性、組み合わせを検討したい。

・アーキテクチャ:お客様の目に晒されるITシステム、それを支える裏側のITシステム(請求、売上管理、経理システムへの接続など)
・規範・慣習:サービス説明を行うウェブページ、パンフレット、提案書、プレスリリースなど
・市場:価格やキャンセルポリシー
・法:契約(規約や契約書)

事業戦略ストーリーとISO56002

ISO56002のフレームワークにおけるPeopleとFinanceのリソースを、ある事業に投下し、さらに権限委譲することがポイントか。

どのタイミングに(Time)、どれくらいの人(People)とどのくらいの金(Finance)を投入するのかが重要だ。その意味では、イノベーションを起こすためには、労働市場と資本市場に精通している必要がある。スタートアップにとっての資本市場は科学されてきているが、労働市場はまだまだ科学できる余地が残されている。

▼7.1 Resources
7.1.1 General
7.1.2 People
7.1.3 Time
7.1.4 Knowledge
7.1.5 Finance
7.1.6 Infrastructure

事業戦略に留まらず、全社戦略に及ぶので、確かに面倒。


一定のリソースの中で、事業戦略を考えることが、事業において常識になってしまっているのだろう。本来は、リソースのことは一旦横に置き、事業戦略ストーリーを描き、その後でリソースを確保した方が効果的だろう。事業ストーリーの検討結果として、10倍のリソースが必要であれば、要望するのが筋だ。

また、事業を継続すること自体を目的にしないことも大切だ。撤退がスムーズに進むように、撤退基準も決めておきたい。

以上


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