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一級建築士が「ザ・ペニンシュラ東京」で感じた5つ星ホテルの建築グレード
最高峰の建築グレード
先日「ザ・ペニンシュラ東京」に泊まる機会がありました。
2022年6月から約2年ぶりの宿泊だったのですが、改めてホテルを見た感想をnoteの記事に残しておこうと思います。
このホテルは2007年竣工で、建築を三菱地所設計、内装を橋本夕紀夫デザインスタジオ、施工を大成建設が担当した建物です。
都内に数多くある5つ星ホテルの中では少し古くなってきている方かもしれませんが、アマン東京やフォーシーズンズ大手町と比べても、建築のグレード感としては全く引けを取りません。
ホテルのサービスや食事については、ブログやYouTubeで沢山紹介されていますので、ここでは建物のディテールに着目して書こうと思います。
お部屋についたらまず写真撮影
私はホテルに宿泊する際には、必ず一眼カメラを持参しています。チェックインを済ませてお部屋に入ると、まずは三脚に据えたカメラで各部屋の様子を一通り写真に収めて、後からケータイでも気になった細部を撮影する、という流れがお決まりになっています。この記事で紹介する写真も、今回と前回の宿泊時に記録したものです。
予約サイトで客室の間取り図を見たり、建築の専門誌で平面図や外装デザインの資料は集めることができるのですが、特にホテルは各部納まりのディテールやミニバー/アメニティ周りのセッティングなど、図面からは読み取れない情報が多くあります。それら全てを記憶に留めるのは難しいので、結局たくさん写真を撮ってしまおうという考えに至りました。
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ドレッシングルーム
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お部屋に入ってまず荷物を置くのは、広々としたドレッシングルームです。
メインベッドルーム以外に贅沢な場所を作れるのは、客室全体の面積を十分に確保できているからに他なりません。5つ星ホテルの客室面積は50㎡前後が一つの基準になっていますが、ペニンシュラ東京はスタンダードルームで54㎡あります。
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左手の壁にはバレーボックスが備わっています。
朝に新聞を届けてもらったり、クリーニングを出すときに使う場所で、宿泊客はお部屋側から、ホテルスタッフは廊下側からアクセスできるようになっています。
客室の玄関ドアを使えばいいじゃないか、と思うかもしれませんが、やはりホテルスタッフと全く顔を合わせることなく用事を済ませられる、というのがラグジュアリーな体験なのでしょう。ラフな部屋着のままでも大丈夫ですし、何より最大限にプライバシーが守られている感じがします。
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正面のドレッサーの右側には、コンセントの横にマニキュアを乾かすためのネイルドライヤーがあります。5つ星ホテルでも他に見たことがありません。夜にドレスアップしてパーティーに出かける、というようなシーンが想定されているのでしょうか。
このような設備は、たとえ自分が使わなくても、宿泊体験の特別感につながります。私も、試しにボタンを押して風を出してみました。
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ペンダント照明はワイヤーではなく金属製のポールの中に電線を通す形で吊られています。高級感を演出しつつ、ドライヤーで髪を乾かすときにも、なるべく照明が揺れないようにする工夫でしょう。吊元も彫り込まれたボールジョイントになっていて、天井との取り合いが目立たない納まりになっています。
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さらに天井を見上げると、おそらく空調設備などの点検口と思われるパネルが3枚ありました。
通常の建物では450角か600角の正方形の既製品が使われることが多く、少し気を遣った場所では目地タイプという縁が細い点検口が使われます。
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しかし、このホテルの点検口は特注サイズになっていて、割付けも反対のバスルーム側の天井デザインを踏襲しているようです。自然に設けられているので、点検口が目立たないどころか、建築に詳しくない人は気づかないかもしれませんね。
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その他、高級ドライヤーや拡大鏡、ふかふかのスリッパや立派なシューケアセットなど、もはや当たり前のように置かれています。
バスルーム
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続いて、バスルームを見てみます。左右対称の洗面台の並びの中央にバスタブが置かれた、堂々たるレイアウトです。
洗面台が2セットあるのは、高級ホテルの定番スペックです。実際に2か所を同時に使うシーンがどれだけあるかは別として、もし洗顔や歯磨きのタイミングが被っても、混み合うことがないという仕様です。
1つの長い天板に2箇所洗面ボウルが組み込まれている場合もありますが、このホテルでは完全セパレートで、更にドレッサーは別にある、と考えるとサービスレベルの高さを実感します。
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水栓金物には、DORNBRACHT(ドンブラハ)というドイツの超高級ブランドが採用されています。金物1セットで定価60万円~くらいの価格帯です。シングルレバー(1つのハンドルをひねってお湯の温度を調節するタイプ)ではなく、2ハンドル(お湯を出すハンドルと水を出すハンドルが別々のタイプ)になっているのも、クラシカルな印象です。
個人的には、2ハンドルタイプは毎回お湯を使うときに、左右の水量を調整しないといけないので、使い勝手的にはシングルレバーが楽だと思うのですが、やはり中央の蛇口の左右に2つのレバーが並ぶ姿の方が煌びやかな感じがします。
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洗面台の天板は、天然石です。コーリアン(アクリル系人工大理石)やクォーツストーン(人造大理石)も使われる中で、一番高級な素材が採用されています。油やワインなどの染みにやや弱いというデメリットもあるため、お手入れにも気を遣います。
さらに、石鹸置き場を想定した場所には溝が掘ってあり、水が垂れても洗面ボウル側に流れるように僅かな勾配がつけられています。
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同様に、バスタブから溢れた水を排水するためのスリットも天然石で造作しされており、排水溝の化粧蓋もステンレスではなく床と同じ石材で目立たないように作られています。
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バスルーム周りの設備もフルスペックです。
洗面台の鏡にテレビと電話が埋め込まれている他、すぐ横のトイレ内には電話と非常用ボタンに加えて、「PRIVACY PLEASE」と書かれているスイッチがあります。それをオンにしている間は、お部屋にスタッフが訪問したり、外からの電話を取次ぐことが停止される機能のようです。「Do Not Disturb」の札と同じような機能ですが、トイレの中に個別に設けられているのは珍しいと思います。ペーパーホルダーが半分壁に埋め込まれているあたりも、凝ったデザインだと感じました。
ちなみに、電話は他にもドレッサーに1つ、ベッド枕元のサイドテーブルに1つ、デスクに1つ設置されており、合計5台ありました。客室内の電話数でギネス記録が取れそうです。
他ホテルとの比較
ホテルの間取りやデザインコンセプトは千差万別ですが、バスルーム周りは設備関係の小物が沢山出てくるので、グレード感が一番分かりやすい部分だと思います。
例えば、EDITION虎ノ門では長い洗面台に洗面ボウルが1つというレイアウトでした。化粧品を置いたりするのに、あえて天板を広くしているのかな?とも考えたのですが、後で調べるとスイート客室だと洗面が2つあるようなので、やはり建設時のコスト削減ではないかと思います。水栓金物もGROHEのシングルレバーでした。とても良いメーカーなのですが、ドンブラハと比べるとグレード感は下がってしまいます。
アンダーズ東京も洗面ボウルは1つでしたが、こちらは洗面台の幅が広すぎるわけではなく、むしろウォールナットの一枚板の天板はとても迫力がありました。日本の五右衛門風呂を意識したという円形のバスタブも特徴の1つになっています。
その他、洗面台が特徴的なのはやはりアマン東京でしょうか。天然石をくり抜いた洗面ボウルが天板にはまる形で納まっています。サイズは少し小ぶりな気がしましたが、それでも石の塊は相当なインパクトがありました。
メインベッドルーム
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気になったことを順番に書いていたら、すでに記事が長くなってしまいましたが、ようやくメインベッドルームにたどり着きました。
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