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人のぬくもりが紡ぐ。「小杉湯名物・ミルク風呂」の誕生秘話インタビュー

小杉湯に来たことがある人なら誰しも入ったことがあるであろう、小杉湯名物「小杉湯のミルク風呂」。初代から親しまれ、現在もミルク風呂だけは毎日変わらずお客様を待っています。優しいミルクの香りと柔らかなお湯は長きにわたり愛され、2020年11月26日(いい風呂の日)には家庭用入浴剤として、発売されました。

そんな小杉湯のミルク風呂、実は特殊なルートを辿ってお客様のもとに届いています。その謎を解き明かすべく、小杉湯のミルク風呂チームは愛知県名古屋市に足を運びました。

小杉湯のミルク風呂チーム
商品化に伴い、小杉湯のミルク風呂の素晴らしさを全国に届けるべく発足したチーム。店頭のラッピングや販路拡大など日々奮闘中!

今回お話を伺ったお二方

吉川常夫さん 有限会社名古屋フードサービス 
有限会社名古屋フードサービスの代表取締役社長。小杉湯のミルク風呂(バスパーシア(※)、家庭用入浴剤)の製造元である株式会社ランウェイと小杉湯を繋げた方。現在は、小杉湯ではスペースの関係で保管できない小杉湯のミルク風呂(バスパーシア、家庭用入浴剤)を名古屋フードサービスの倉庫で保管していただいている。
※バスパーシア・・・業務用の小杉湯のミルク風呂のこと

高橋宏和さん 株式会社ランウェイ
小杉湯のミルク風呂(バスパーシア、家庭用入浴剤)の製造元である株式会社ランウェイの営業担当。ランウェイは、株式会社ダリヤの100パーセント子会社で、ダリヤおよび日本メナード化粧品株式会社の創業者である野々川大介 氏と交友関係があった吉川さんとも長い付き合い。

相関図

化粧品?食堂?不思議なつながり

小杉湯のミルク風呂の製造元は、ランウェイという化粧品メーカーです。ランウェイはヘアカラー・ヘアケア・スキンケア化粧品の「ダリヤ」の100%子会社として、化粧品・医薬部外品の研究開発・製造・販売を行っています。

親会社のダリヤは「SALON de PRO(サロンドプロ)」や「Palty(パルティ)」といったヘアカラー製品が主力商品です。その製造のために必要なのがクリーム状の液体を作る「乳化」という技術です。

この技術と知見が小杉湯のミルク風呂にも活かされており、こっくりとした乳液状の入浴剤と、やさしい肌触りのお風呂が出来上がっています。

こっくりとした乳液

そして、工場で製造された小杉湯のミルク風呂は、一度、名古屋フードサービスの倉庫に保管され、必要な数だけ小杉湯に運ばれます。

名古屋フードサービスは、愛知県内の会社や大学の食堂を経営している会社です。ルートだけお伝えすると、小杉湯のミルク風呂についてますます謎が深まります。なぜ大手化粧品会社がいち銭湯の入浴剤を作っているのか?なぜ食堂を経営する会社がミルク風呂の在庫を保管してくれているのか?

今回は、小杉湯初代・平松吉弘を知る名古屋フードサービスの社長吉川常夫さん、ランウェイの高橋さんに話を伺いました。

名古屋フードサービス・ダリヤ・小杉湯の関係

「僕は新しい現場には必ず最初に自分が行くんです。」そう真剣に語る吉川さんが経営する名古屋フードサービスは、30年以上前、工場や会社の社員食堂を20ヶ所ほど経営していました。ダリヤの工場内にある食堂も、その一つでした。

現場主義でお客さんとコミュニケーションをとる吉川さん。そこで、当ダリヤのオーナーだった野々川大介さんと仲良くなりました。「大介オーナー」と呼び、思い出話をたくさん話す吉川さんからは、いかにコミュニケーションを大切にしていたかが伺えました。

吉川さんは今でも現場で働いています。インタビュー当日も食堂の洗い場にて皿洗いをされていて驚きました。

名古屋はスーパー銭湯発祥の地と言われています。名古屋フードサービスは、全国のスーパー銭湯内のレストラン運営もしていました。その中で「牛乳みたいなお風呂をやってみたいが、どこか作っているところを知らないか」という声を聞きました。そこで吉川さんは、大介オーナーと相談してみました。

「牛乳の入浴剤って作れますか?」
「いいよ。牛乳そのものはできないけど、高級エステの乳液をもとにした入浴剤なら作れるよ。」

まさに、これがミルク風呂が誕生する瞬間です。

「大介オーナー」と呼びながら思い出を語る吉川さんからは、お二人の間にあった絆を強く感じました。

小杉湯とミルク風呂

「ミルク風呂の入浴剤をうちにも売ってほしい。」
スーパー銭湯にミルク風呂を卸していたある日、吉川さんのもとに一本の電話が入ります。小杉湯初代・平松吉弘からです。毎日の営業に使うことを想定した注文に吉川さんも驚きました。

当時の取引先はスーパー銭湯がメインで、銭湯で使うには販売価格が少々高く、銭湯からの注文はイベントなどの一時的なものばかりだったからです。「高くてもいいから、お客様に気持ちの良いお風呂を届けたい。分けてもらえないか。」
電話口の初代の強い思いで、小杉湯が新たな卸先となりました。

数カ月後、小杉湯でのミルク風呂は大変人気で、特に女性からはツルツルになると評判だと、初代が教えてくれたそうです。

小杉湯のミルク風呂はほとんど化粧品の乳液と変わらない成分でできており、赤ちゃんから使えるお肌に優しいものです。さらに、真っ白な色と、あたたかいミルクの香りは私たちを優しく包んでくれます。だからこそ、小杉湯のミルク風呂はお客さんに愛され、現在まで続いているのだと思います。

始まりはスーパー銭湯でしたが、現在、ミルク風呂の卸先は小杉湯のみになっています。

色だけ、香りだけで品質が高くない安価なミルク風呂のような入浴剤が登場し、他のスーパー銭湯はどんどんそちらに流れていったそうです。そんな中でも小杉湯がずっと使い続けた理由には、初代の信念がありました。
「初代は、裏切らない方だった。最初に言った「高くてもいいものを」という言葉を裏切らずに貫いた。」普通は安いのを使うのにね、と吉川さんは初代の人柄を振り返ります。

今も小杉湯で掲げている「きれいで、清潔で、気持ちのいいお風呂」は、やはり初代の言葉なのだと改めて感じました。「業者を裏切らないということは、お客様を裏切らないこと。」と続ける吉川さんの話を聞いていると、会ったことはないけれど、初代の姿が浮かぶ気がしました。

なぜそこまで?人情を大切にする文化

小杉湯のミルク風呂は吉川さんを中心として野々川大介さんとの人間関係、初代との信頼関係で小杉湯にやってきました。
しかし、小杉湯もすでに三代目。初代から時代を経ても、いまもランウェイや名古屋フードサービスは小杉湯をサポートしてくれているのは、なぜなのでしょうか?

例えば、その一つが小杉湯では持ちきれない大量の在庫を、ランウェイと名古屋フードサービスが連携して、無償で保管してくれていることです。

クリームや液体状のものは釜で作れます。ダリヤのような大きな会社が持つ工場では、製品を一度に大量に作れるようにとても大きな釜が存在します。その中でも一番小さいものを使っても、一回に作る製造単位が大きく、その全てを一度に買い取るお金も、保管する場所も小杉湯にはありません。

実は名古屋フードサービスはその大量の生産在庫を、ダリヤから一度買い取って、その上で倉庫で保管してくれています。そして、小杉湯からの発注に応じて、私たちのもとに小分けにして発送してくれているのです。

そこまでしていただける理由について、”義理人情”だと吉川さんはいいます。
「やっぱり、大介オーナーと僕は仲が良かったから。それに茂さん(小杉湯二代目)も初代からの信頼関係を続けてくれている。すごいことだよね。」一時の損得勘定にとらわれず、長期的に関係を築いていくことこそ吉川さんのいう”義理人情”なのだと思いました。

さらに高橋さんも、「吉川さんのおっしゃる義理人情の流れは今も続いていると思います。ミルク風呂って30年以上続いていて、ある意味ロングセラー。これだけ長いおつきあいができることってなかなか無いです。」と続けました。

優しい眼差しで語る高橋さん 若い頃は社員食堂で吉川さんが作る料理を食べて過ごしていたそう

業者を裏切らないことは、お客様を裏切らないこと。吉川さんの言葉がより強く私たちの胸に刺さりました。思いの強さが、日々お客様に喜んでもらえるお風呂を提供できているんだと改めて感じます。

続けることってとても難しいことです。でも小杉湯のミルク風呂は、”義理人情”に支えられ、ここまで続いてきました。どんどん安いものが選ばれるこの時代だからこそ、小杉湯初代と吉川さんから紡がれた思いが乗っている「小杉湯のミルク風呂」をみなさんに届けたいと思いました。

銭湯という場所

吉川さんから義理人情についての話を聞きながら、小杉湯という場所の風景が思い浮かびました。

他人同士で裸になってお風呂に入る。使ったものは元に戻す。気分が悪そうな人がいたら声をかける。誰かの子どもはみんなの子どものように一緒にお風呂に入る。どれも小杉湯で日常的にみる光景です。日常を見つめ直すと、この行動の根底にあるものは義理人情だと気づきました。小杉湯が義理人情の心でできている場所だからこそ、吉川さんも応援してくれているのではないかと思います。

いつも優しくあたたかいミルク風呂には、私たちも新しく発見した義理人情という人の優しさとぬくもりが紡いだ歴史がありました。

吉川さん、高橋さん ありがとうございました!

(文章:えっぐ、イラスト:やすこ、編集:ガースー、つっつー)


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