これからのデザイナーに必要なスキルを考えてみた
「デザイナーこそマーケティングを学ぶべき」「デザイン領域を広げるべき」「得意分野を絞って強みを作るべき」など様々な意見を見かける機会が増えてきた。(2021年1月現在)
これらの意見に対して全て正解・不正解を出すつもりもないし、それぞれが信じる道を行けばいいと思う。
いい機会なので私なりにデザイナーが掛け算する事で最も効果のあるスキルとは何か、を考えてみたお話。
これは私のこれまでのデザイナー人生で感じてきた所感である。
ちなみにこれまでの経歴をざっくりとまとめたものがこちら。
デザイナーの対応範囲について
広義で言うとデザイナーという職種は無限なのではないかと思えるほど、昨今では多くのデザイナー職が散見される。
Webデザイナー、UIデザイナー、UXデザイナー、グラフィックデザイナー、パッケージデザイナー、エディトリアルデザイナー、パターンデザイナー、ファッションデザイナーなどなど、パッと思いつくだけでもこれくらい。
さらにWebデザイナー1つ挙げてみても、コーポレートサイト、ランディングページ、ECサイト、キャンペーンサイト、プロモーションサイト、アプリデザインなどもあるだろう。規模も手法も様々。
また、デザインだけでなくコーディング・プログラミングまで対応したり、UI / UX領域まで意識した業務を求められたり、最近ではマーケティングの重要性などを説く方も沢山いると思う。
これからWebデザイナーを目指す人にとっては、参入障壁が低いと言われる割には覚えることが増えていく大変な時代になったのかもしれない。
デザイナーとしては制作に没頭したいところだけど、現実は余裕を持って作業に当たるためにはいささか対応範囲が広くなりすぎではと感じる側面がある。一度でも就職を経験しているデザイナーであれば、デザイン制作業務以外にも新しいツールの学習コスト、競合調査、書類作成、資料探し、電話応対、クライアントへの説明・説得など多岐に渡る業務を経験しているのではないだろうか。
「分業制」から「職域をクロスオーバー」していく時代
デザイナーの担当範囲が増えているであろう話をしたが、これはデザイナーに限ったことではないと思う。
コーディングを担当するコーダーは「よしなに」デザインを任されることもあるだろうし、よりリッチな表現を実現すべくJavaScript・CSSを駆使したアニメーションやphpなどを使用したCMS構築、小規模な組織ではサーバーサイドの勉強も必要になるかも知れない。
そんな中、デザイナーだけが「デザインさえすればいい」状況なのだろうか。
ちなみに以前私が所属していた会社ではディレクターは置かなかったし、外部のエンジニアとリモートで全てを進行した。(2016年くらい)
制作進行も出来るアートディレクター・テクニカルディレクターだけの組織があったとしたら、役職や肩書など関係なく出来る人間が必要に応じて出来ることをすればプロジェクトが進む。そして個々の職能・職域が広いほど垣根が低くなり少数精鋭になるだろう。
もちろんそれなりの規模で指揮系統がしっかり行き届いていればこの限りではない。どちらかというとそんな伸びしろがあるのは小規模環境か、個人で活動している場合になるだろう。
ところで、ディレクターの業務範囲とは
先程ディレクターに触れたので、ここでディレクターについて補足。以前の職場でディレクターがいなかったと言う話を引き合いに出したが、ディレクションの必要性はもちろんある。全員がディレクターになってしまうと指揮系統が混乱する。私が経験した業務体系はプロジェクトマネージャが統括していたので最終決裁権が必要な大きな決断に関しては意見を仰いでいたが、通常業務(企画提案・Web制作進行・EC運用・顧客への説明等)は個人の判断に任されていた。
特殊な部類に入ると思うし一般的な企業のそれではないだろう。
以下のディレクター職については実際に関わるデザイナーも多いと思うのでイメージ付きやすいかも知れない。
※説明はざっくりなので、それぞれの職域や詳細についてはご自身で調べてみてください。
どの分野のディレクターにも共通するのは統括、指揮をするという点で幅広い知識や経験を求められ、その全てにおいて責任が伴う。
要件設計、仕様設計、デザイン設計、予算管理、リソース管理、スケジュール管理など、常に全方向を意識した業務を行う。
仮に、デザイナーがこれら上流工程を理解できていたらコミュニケーションコストは大幅に削減でき、よりコンセプティブなデザイン提案に集中できるのではないだろうか。
実際にアートディレクターやWebディレクターとしてアサインされたときのことを考えると、提案型で仕様や予算管理、機能面にまでアイデアをくれるデザイナーと組んだ時にはストレス無く進行し、とてつもない安心感があり頼りになる。
デザイナーが持つと有利と言われるスキル
冒頭で言葉を出したマーケティングはどうだろうか。
確かにビジネスに置いて非常に重要なスキルだと思う。何かしらの依頼を受けた時、その販路や仕組みの有効性を提案できたら受注確度は上がり、顧客の利益にも繋げる事が出来る。ランディングページなどのデザインにおいては重要度は高い。
あるいはイラスト制作や撮影など作家性のあるスキル。
オリジナリティを表現する最も効果的なスキルだが、強い個性を求められるこのスキルは習得するのが難しい。
ちょっとした場面でひと手間かけたアイコンやシルエットイラストなど、パターン化出来る素材作成が得意なども重宝されそう。
しかし、今考えるべきはデザイナーに取って「最も」必要なものは何か、という事。あえて一つに絞る。
マーケティングや作家性、素材作成スキルなどは即有効性がある事も多いと思うが、果たしてデザイナーにとって最も必要かと聞かれたら答えはNo。
マーケティングは範囲が広く学習コストが高い。そもそもマーケティングを補助するのがデザインの努めでありデザインの中にあるわけではない。もう一歩踏み込むと、新たに考えるべきと言うよりも常々意識して提案をしているはずである。ここで?と思った人は、改めて「誰のために何をデザインし、誰に届けるのか」を考え直して欲しい。これはデザイナーなら当たり前の思考である。
作家性や素材作成については、それぞれのプロがいる。付け焼き刃では勝てないものを何周も遅れて追いかけるより、初めからプロの作品ありきでデザイン提案ができるスキルの方が重要度は高いと思う。
イラスト作成や撮影をするなと言うわけではなく、有利になるのは間違いないが(すでに所持している人は除けば)等身大の自分にとって必要なスキルと言う文脈からは外れると考えている。
よってこれらは局所(ライバルが皆無)では有効だが、全体を見渡せば差別化出来るほどのスキルになり得るかは疑問、と言う結論。
結論:デザイナー × ディレクション
デザイナーとディレクターの違いについてざっくりと説明したが、業務上の関係性からすると、ディレクターはデザイナーの上位職と感じる方も多いと思う。デザイナーとして経験を積んで、ステップアップしていくという事ではそれに近い感覚なのかもしれない。しかし、実際は上下関係ではなく担当フェーズが別れた同じチームの一人であり、求められる役割の違う地続きなポジションである。
デザイナーとディレクターを兼任する場合も実は結構多い。例えば小規模の制作会社では職域を明確に分ける事が難しかったり、インハウス・事業会社などで制作チームメンバーが限られた場合など。
個人としてグラフィックデザイナーがWebサイトを制作する場合、またはWebデザイナーが印刷物を制作する場合など、自分の職域以外のスキルが必要な場合があるかも知れない。また、広告出稿などは誰でも簡単にツールを利用し行う事もできる。これからノーコードやAIなどがさらに進化し、より単純作業化されるかもしれない。
つまり、ここまで述べたスキルの中で、ディレクション以外のものは一部*を除いていわゆるオペレーションに落とし込める業務内容だと気づく人もいるのではないだろうか。
オペレーションというと語弊があるかも知れないが、こういった範囲の業務は自身が担当しなくてもスペシャリストをアサインするスキルがあればデザインは成立させることが出来る。しかも自分で行うよりもクオリティの高い作品として納品される。そのためにはミスのないコミュニケーションが必要となる。
*単純作業では完結しない知見や経験を伴う業務
つまり、私の結論としてはデザイナーにとって最も掛け算して最大公約数を広げる事が出来るのは、昨今取り沙汰されることの多いマーケティングや特定のジャンルを絞り込むことでもない。
全ての工程を管理しクオリティを担保出来て、あらゆる知見を駆使して顧客の要望に応えるための成果物を納品するスキル、それがディレクション能力だと私は考えている。
まとめ。
デザイナーが、より上流の思考方法を突き詰める事で、誤解を恐れずに言えばすべての案件に対応可能となる。(もちろん、リソースに限界はあるが、その場合はメンバーをアサインすれば良い)
どのスキルにも学習コストはかかる。しかし、デザインを行う上で常に意識し続ける事が出来るこのスキルは非常に相性が良い。上流工程と呼ばれるスキルを駆使して進行する人が周りに必ずいるはずだし、いなければ自身がそれを担っていると自覚したほうが良い。
必ずしも大量のシートを作成し、作業を割り振るだけがディレクションではない。そして提案内容にはデザイナーの提案がふんだんに盛り込まれているはずである。
個人で活動している方は、一度くらいチームの必要性について考えた事があると思う。それはまさしくディレクションの一歩目を踏み出すきっかけではないだろうか。
注意すべきは、仲良しごっこでは務まらないという事。言わばリーダーとして案件を引っ張り続けなければならない。本当の意味で仲間になれるチームでなければ脆い。
とは言え、デザインをおざなりにしてしまっては意味がない。まずはデザイナーとしての最低限を身に付けてからでないと、目指すべきクオリティを担保できない。その上で、制作過程すべての状況を俯瞰し正していく事ができる、というマインドは身に付けたいところ。
今現在フリーランスとして活動している、あるいは今後フリーランスを目指すデザイナーにとっても、他者と差別化出来るポイントになり得るのではないだろうか。
※あくまで個人的見解です。
※ご意見・ご感想などあればぜひお伺いしたいです。
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2021.05.19 追記
最近、Twitterなどで見かける様になった「地方にディレクターが足りてない(母数が少ない、出来る人がいない、お偉いさんの鶴の一声でetc...)」みたいな話に対しての個人的な見解としては、組織が変わるか顧客を変えるかしか無いと思ってます。
組織が変わるというのはなかなかハードルが高い、けど顧客の意識を変えるのはもっと難しい。
じゃあどうしましょうか。
現状で出来ていないことから目を背けず、PCの前に座ってるだけでは解決できないことにこそ付加価値があると思うので、ディレクターが足りないのなら自分でやってやろうという気概があった方が色んな意味で近道なのかなと思います。自分が変わっちゃう方が早いです。
肩書にこだわりすぎず、出来ることを狭めないほうが楽しいと思いますよ。