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【コぐるみ創作バトル!】気の若いナイスじいさん〜前編〜

この創作は【コぐるみ創作バトル!】の作品になります。
※詳しくは下記をご覧ください。

今回のお題はシロクロさんからいただきました『気の若いナイスじいさん』です。


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吉澤了一よしざわりょういちは待合の椅子に座って振込詐欺のポスターをボーッと眺めていた。【被害総額20億円を超えています!】とデカデカと派手な文字がポスターの下段を占めている。なんであんなものに引っ掛かるのだろうと了一は疑問に思っていた。息子の声くらい親なら判別しろと腹立たしささえ感じていた。
ただ、そんな自分も70歳を超えてからどうも目が見えにくくなり、今年に入って既に3回も車をぶつけていた。不幸中の幸いで怪我人は誰もいなかったが、心配した息子からは「大きな事故を起こす前に免許は返納した方がいいんじゃないか」と言われたのだった。息子に諭されて、了一は今日こうして警察署に免許証の返納に来ているのだった。


「吉澤さん、吉澤了一さん」

女性警察官が待合に向かって声をかけた。了一が受付に向かおうと立ちあがろうとしたその時、周囲が少しざわつき始めた。

「え?吉沢亮って言った?」「吉沢亮いるの?マジ?本物?」「私、東リベすごい好きなんだけど」「マイキーどこ?」

期待に満ちた周囲の声に了一は戸惑った。このまま自分が名乗り出ることをなんとなく躊躇した。”ヨシザワリョウ”が一体何なのかは分からないが、待合で呼ばれたその人物の正体が自分のような老いぼれだとしたら、きっとガッカリさせてしまうのではないかと思い黙って俯いていた。

「吉澤さーん!いませんか?吉澤了一さーん!」

先ほどよりも大きくはっきりと了一の名前が呼ばれる。”ヨシザワリョウ”とは別人だと認識したのか周りの空気が冷めていくのが分かった。了一はすくと立ち上がり受付へと向かった。後方から「なんだジジイかよ」と小さな声が聞こえてきた。振り返ろうとした了一だったが思いとどまる。自分が年老いているのは事実だと思い、何事もなかったように淡々と手続きを進めた。


免許返納の手続きは特に問題もなくあっけなく終わった。この先、車を運転することはないと思うと少し寂しくはあったが特に未練はなかった。もう自分は高齢者だから仕方ないと諦めにも似た気持ちを了一は抱いていた。
警察署を後にして帰りのバスに揺られながら、了一はふと思い返していた。あの周囲の騒がせていた”ヨシザワリョウ”という人物は一体どんな人なのかと考えていた。先月、息子に手続きをしてもらい替えてもらったばかりのスマートフォンをポケットから取り出した。そして不慣れな手つきで息子へとメールを打った。

問題なく免許返納。ところで、よしざわりょうを知っているか

人差し指で送信ボタンをタップしメールが送れたことを確認して了一はポケットにスマートフォンを仕舞った。
しばらくするとブルブルとスマートフォンが震える。すぐにポッケトから取り出して画面に表示された息子の名前を人差し指でそっとタップする。

免許返納お疲れ様。もしかして吉沢亮のことかな?有名な俳優さんだよ。それがどうかした?

「俳優さんなのか…」息子からの返信を見て思わず声を漏らした了一はすぐに口を噤んだ。周囲に目を配ると、どうやら他の乗客には聞こえなかったようでホッと胸をなで下ろす。”吉沢亮”が俳優だとは分かったが、どんな俳優でどの作品に出演しているのか、そしてなぜあれだけ人気があるのかが不思議と気になっていた。
再び不慣れな手つきでスマートフォンを操作すると、了一は”吉沢亮”についてアレやコレやと息子に質問を送っていた。
了一の中で”吉沢亮”の存在がどんどんと大きくなっていた。


後編へ続く


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さぁ、この前編を受けて着ぐるみがどんなイラストを描いてくるか楽しみです。既に後編の構想はガッツリあります。お手柔らかに頼むぜ相棒。

コッシー

※お題をいただける方は着ぐるみの記事のコメント欄までよろしくお願います!↓


#コぐるみ創作バトル
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#お題待ってます

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