
眉間の皺
ここから早1年。息子がまた一つ歳を重ねました。
こんにちは、コッシーです。
さて、冒頭でもお伝えしましたが今日は愛する息子の9歳の誕生日です。
本来であれば盛大にお祝いしたいところですが、現在息子はコロナに感染し療養中のため誕生日会は延期となりました。
誕生日当日に息子をお祝い出来ないのは本当に残念ですが、こればかりは仕方ないので心の中で精一杯の気持ちを込めて「おめでとう」と言いたいと思います。
(おめでとう!)
誕生日会は延期となりましたが、せっかくの息子の誕生日ですので、本日は息子が生まれた日のこと、息子と初めて出会えた日のことを思い出しながら記事にしようと思います。
僕ら夫婦に最高の幸せが訪れたあの夏の日を僕は今でも鮮明に覚えています。
◇◇◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆
出産日から数カ月ほど前、健診で訪れたクリニックから4Dのエコー写真を見せてもらいました。
そこに写る息子の姿は本当にリアルでとても愛しく感じました。
「ほら、この眉間の皺の盛り上がり具合なんて私そっくりじゃない!?」
そう奥さんは言っていましたが、僕はどう見ても僕似だと思いました。
それを奥さんに伝えると、
「何言ってるの!どう見ても私でしょ!」
と眉間に皺を寄せて怒っていました。確かに皺の盛り上がり具合が似ているかもしれないと思いましたが奥さんには内緒にしておきました。
それから息子は奥さんのお腹の中で順調に育っていきました。
「8月7日辺りになると思います。出産に立ち会うのならお仕事を調整しておいてくださいね」
出産の日が近づき、改めて女医さんから出産予定日を聞いて少し緊張しました。
このクリニックでは分娩台での出産ではなく自由な姿勢でのお産、いわゆる「アクティブバース」と言われるスタイルで、和室に布団を1枚引くのみで妊婦さんが1番好きな姿勢でのお産を推奨していました。
僕らもそのスタイルの出産を選択していました。
会社には出産に立ち会うことは既に伝えてあり、その日急に休んでも良いように段取りは済ませていました。
8月7日まであと幾日と迫っても、息子が生まれてくる気配はありませんでした。
ちょうど僕らの結婚記念日が8月8日だったので、
「もしかしたらそこに合わせてくれているのかもね」
なんて言って二人で笑っていました。
8月7日の朝を迎えても生まれてくる兆候はありませんでした。
僕は普通に出勤をするつもりで準備をしており、いざ家を出ようとしたその時でした。
「あ、おしるしきたかも」
そう奥さんに言われ慌ててクリニックに連絡をしました。
「急がずゆっくりで大丈夫ですので、こちらに来てください」
急遽クリニックに行くことになり、会社にお休みの連絡入れて前もって準備してあった荷物を持って家を出ました。
クリニックに着くとすぐに先生が診察をしてくれました。
「まだ陣痛もないみたいだし、もう少し時間がかかると思います。この辺りを散歩などして軽く運動しといてください」
先生からそう言われた僕らはクリニック近くにあるショッピングモールの階段を何度も往復しました。
母になる覚悟からなのか疲れを知らず何度も往復する奥さんよりも先に僕がギブアップしました。
昼食を食べて少し休憩した後、また地獄の階段往復が始まりました。
(そもそも僕は往復しなくても良いのでは…)という情けない考えが浮かぶほど本当に何往復もしました。
きっと奥さんは息子に早く会いたい一心だったのでしょう。
待望の我が子を早く見たい、早く抱きしめたい、その強い思いが足を前へ前へと進めたんだと思います。
午後3時頃、一旦クリニックに戻った時でした。
「あ、お腹が痛いかも」
陣痛が始まりました。
最初は緩やかな痛みで、奥さんは僕とも普通に会話をしており何なら地獄の階段往復にもう1回行ってやろうかと言うくらい余裕でしたが、その波がだんだんと激しくそして幾度も襲ってきました。
午後6時頃にはその激しい痛みから苦しそうにする奥さんに僕は何もすることが出来ずただただ背中を必死でさすっていました。
「痛だだだだ!先生呼んで!」
奥さんにそう言われナースコールを連打しました。
「どうしました?」
「お、奥さんが!奥さんが大変なんです!すぐに来てください!」
「はーい。少しお待ちくださいねー」
焦る僕とは裏腹に先生や看護師さんはとても落ち着いていました(当たり前だ)。
奥さんを診察した先生から「こちらの方が早いかも。先にこちらを産んじゃおう」と看護師さん達に声をかけました。
「今から出産に入ります。旦那さんは奥さんの背後に回って手を握ってあげてください。時々声をかけて励ましてあげてくださいねー」
布団に寝転がる奥さんの背後に回って両手をしっかりと握りました。奥さんは僕の二の腕辺りを掴みました。
「リズムに合わせていきみましょうか。いきんでー、休んでー」
先生の声に合わせて奥さんの表情に力が入ります。それと同時に僕を掴む手にも力が入るのが分かります。
だんだんといきむ時間が長くなってきました。
奥さんはこれまで見た事がないくらいに苦しそうな顔をしていました。
息遣いも激しく荒くなってきます。額からはこぼれるほどの汗が出ていました。眉間の皺も盛り上がっています。
そんな奥さんの姿を間近で見ていた僕は奥さんが死んじゃうんじゃないかという恐怖を感じました。
その瞬間だけは子供のことは頭に全くなく、ただ奥さんに生きて欲しい、無事で終わって欲しいと願っていました。
「よし!頭出てきたよー!もう少しだから頑張って!」
先生の声に呼応するように僕の腕を掴む奥さんの手にこれまでで1番強い力が入りました。
「頑張れ!頑張れ!」
無我夢中で声をかけました。周りの看護師さんたちも必死で声をかけてくれています。
「さぁ出るよ!準備して!」
そう先生が言って数秒後でした。先生の両手が赤ちゃんを抱えていました。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
元気に泣くその子の眉間の皺は盛り上がっていました。
それを見た瞬間、僕の涙腺は崩壊しました。
おそらくこれまで生きてきてこんなに泣いたことはありませんでした。
「ありがとう…本当にありがとう。そしてやっぱり君にそっくりだよ…」
とめどなく流れる涙を拭う事をせず、僕は奥さんの両手をしっかりと握っていました。
胸に乗せた赤ちゃんを優しい眼差しで見つめる奥さんは「だからそうやって言ったじゃん」と力なく呟いていました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆
あれから早9年の月日が経ちました。
生まれてきてくれた瞬間は最高に幸せでしたが、日々成長する息子の姿を見ることもまた大きな幸せを感じます。
息子を産んでくれた奥さんといつも僕に元気をくれる息子に感謝したいと思います。
長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
こちらの企画、8月11日の山の日までとなっております。
皆さんの【出会った日】のエピソードを教えてください。
それでは良い日曜日をお過ごしください。
コッシー