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【創作】ああ、七夕は今日も雨だった
手紙にはこう書かれていた。
今年の七夕は雨のようです。残念ですがあなたにはお会いできません
彦星は織姫からの手紙を机の引き出しへとそっとしまうと代わりに新しい便箋を取り出した。
「3年連続の雨か、ついてないな」
そう呟いて彦星は便箋に筆を走らせる。
拝啓 織姫さま
お元気でしょうか。僕は元気でやっています。でもあなたに会えなくて寂しい気持ちでいっぱいです。
そしてどうやら今年も雨ということで天の川を渡れそうにありませんね。とても残念です。
七夕が3年連続雨なんて、7月7日しか会えない僕たちを運命が引き離そうとしているとしか思えません。でも僕はそんな苦難には負けません。会えない日が続いたとしても、織姫様をずっとお慕いしています。
思えば最後に会った3年前の七夕の日。
僕が我儘を言ってあなたを困らせてしまいましたね。
「今日は帰したくない」
7月7日しか会ってはいけない約束なのにそんな我儘を言う僕にあなたは黙って俯いていました。
どうすることもできないのにあなたを困らせるなんて僕は本当に大馬鹿者です。でもそれだけあなたへの気持ちが強いのです。そこは信じて欲しいと思っています。
もしかするとそんな我儘を言った僕に神様が罰を与えたのかもしれませんね。それから七夕はいつも雨です。
ただ不思議なことにこちらでは雨は降っていないのです。あなたから手紙をもらった一昨年の七夕も、そして去年も快晴でした。
どうやら雨は織姫様の国だけで降っているみたいですね。どうせ罰を与えるのならこちらにも雨を降らせてくれたら良いのにといつも思っておりました。
さて、今年の七夕ですが、思い切ってあなたに会いに行こうと思っています。天の川は慎重に渡ればきっと大丈夫です。
7月7日、3年ぶりにあなたに会えることを楽しみにしております。
敬具 彦星より
彦星が手紙を投函した数日後の7月7日。彦星はストーカー容疑で逮捕された。被害を訴えたのが織姫だった。織姫は数年前から彦星のストーカー行為に悩まされていた。織姫は彦星に対して恋愛感情はなく友人の一人だと思っていたが、3年前に彦星から「今日は帰したくない」と言われ怖くなりそれ以来会っていなかった。2年前に「会えない」と手紙を送ったあとは自分からは連絡を取っていなかった。
しかし彦星からは毎年手紙が届き、ついに今年は「会いに行く」と書かれており身の危険を感じたことから警察に被害届を出すに至ったとのことだった。彦星は天の川を渡った後に待ち構えていた警察に確保され結局織姫には会えなかった。
彦星は容疑を否認しているとのこと。
その日の七夕は十数年ぶりに雨が降っていた。
おしまい(1077文字)
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